第11話 実演開始当日 ── 拠点攻略・トーチカ制圧 ──
だが地雷原の一角が無力化されて一本の道ができたとは言え、まだ待ち受ける歩兵部隊に分があった。
試製一〇式歩機は衝撃でできた開設路を突き進むしかなく、速射砲の射手はただ照準をそこに合わせれば良かったからだ。進撃路が分かっている敵なぞ、怖くもなかった。後は、姿を現した瞬間に砲弾を発射すれば事足りる。だが突破側である試製一〇式の操縦者、つまり橋田とて、敵の照準線に突入するつもりは無かった。
橋田兵長は直ちに飛び出せるよう、機体を溝の縁に位置させて躍進姿勢を取り、そして今度は操縦桿脇の鉄桿を引いた。
機体上部には、左右三器づつ、計六器の発射発煙筒が備わっていた。
その右側の発射器から三発の発煙弾が勢い良く飛び出し、上空で四散して白燐の傘を広げた。たちまちの内に周囲は白い煙で覆われ、彼我に関係なく視界を奪った。さらに念の入ったことに、発煙手榴弾を陣地の風上に投げ、何もかもを白煙で包んで一切の照準をできなくしてしまった。
「瓦斯だ、瓦斯。防毒面を着用しろ」
歩兵の間に動揺が走った。
演習に本物の毒ガスを使用することはない。だが煙幕に催涙成分が混入している可能性はあった。各兵士は、嚢から防毒面を取り出して慌ただしく頭から被り、襟を立てて全てのボタンを締めた。それが防毒における基本操作だった。
しばらくして、丘上のトーチカ以外、低地の速射砲陣地は白煙により全て被い隠されてしまっていた。つまり、陣地とトーチカは切り離されたに等しい状況に陥っていた。
橋田兵長はこのときを待っていた。
隠蔽された速射砲さえ黙らせてしまえば、後は射界の狭いトーチカが残されているだけだからだ。
トーチカ内部には、強力な七五ミリ(日本的な表記では七糎半)六式速射砲と機関銃が備え付けられているが、存在が知られ、そして射撃方向が制限されている速射砲はそれほど恐ろしい相手ではない。この砲の設置は、本来、遠距離の敵と対する物なのだ。ただし、トーチカ構造体のべトンは恐ろしく厚く、そして堅かった。
橋田は機体を固定させてから五式二三ミリ狙撃自動砲を構え、右手の操縦桿を操作して狙いを定めた。得意の狙撃によりトーチカの撃破を目指そうとしていた。
腕を流れる血流が振動となり、操縦動作を微妙に狂わせてなかなか動作が安定せず、望遠照準器の画像が小刻みに震えていた。風の読みも重要だった。
呼吸を静かに整え、鼓動を沈める。
やがて、それまで照準器の中で揺れていた目標が段々と落ち着き、十字線と目標が重なった瞬間、動きが止まった。
「!」
橋田兵長気がついた時には、弾は自動砲を飛び出し、金色の真鍮の薬莢が地面に落ちる。そして飛翔した弾体はトーチカ天頂部の無線アンテナの基部に命中し、根底からもぎ取ってしまった。
──初弾命中!
次に狙ったのは、破壊したアンテナの横にある装甲で覆われた通風孔だった。
そこも同じように狙い、射撃する。
何発も発射する。
薬莢が地面に落ちる。
落ちて跳ねる。
これも同じく命中した。
結果として、四発を命中させて通風孔を完全に機能させなくしてしまった。
張り巡らした煙幕はまだ周囲を漂い、晴れる兆しは見えない。それを確認した橋田兵長は、次にトーチカ銃眼に狙いを定めた。
発射された弾は銃眼の上に命中した。外れたのではない。わざと外したのだった。そして、そこも三発を命中させて、大きくベトンを削り取ってしまった。
たちどころに数発を命中させた。
トーチカを良いように直接照準により射撃している。
つまり一方的に攻撃している、その状況を示しているのだった。
だがしかし、実演判定官は何も言ってこなかった。
──実演本部は相変わらず黙ったままか。
同じ個所を射撃し続けたのは、照準能力の証明のつもりだった。だが、それを見ても判定官は何の裁定もしなかった。
意を決した橋田兵長は、トーチカ天頂部の監視用砲隊鏡に照準を合わせた。
今度も狙い外さず、弾は蟹の眼のような砲隊鏡に命中し、砕け散ったレンズの破片が陽光にきらめいた。
──どうだ。
橋田兵長は操縦席で拳を握り締めた。
その直後に、本部判定官から無線と拡声器を通じて撃破認定がもたらされた。
なかなか判断を下さなかった判定官も、その段階になってようやく認めざるを得なくなったようだった。




