表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/99

第10話 実演開始当日 ── 拠点攻略・地雷原にいどむ ──

 ──側面に回っても同じなら、このまま正面を突破するしかないな。とはいえ、一体どうしたもんか。

 橋田兵長はそう考えあぐねた。

 陣地は丘を取り囲み、全周囲防御のために正面も側面もなかった。


 まず考えられるのは射撃による制圧だが、砲戦に特化した戦車でさえ手こずる速射砲に対して、余り良い戦術とは言えなかった。歩機の装備する火器は、携行式の五重機関銃と五式二三ミリ狙撃自動砲を除き、それほど命中精度は高くなかったからだ。


 そして、ただでさえ前面投影面積の小さな速射砲に対して、一般火砲で命中させるだけでも至難の技だった。であるのに確実に損害を与えるには、速射砲の手前に着弾させてその爆発力でもって操作員を包み込まなくてはならない。もし、そこまで命中率を上げようとするなら、歩機を敵に対して暴露して正確に照準しなくてはならず、そしてそれを行うことは、現状のままでは、即、歩機の敗北を意味した。


 速射砲の一級射手なら、その僅かの時間に数センチの的にだって命中させてみせる。今日のような実演には、そんな名手が揃えられていると思って間違いなかった。


 遠距離砲戦での各個撃破が難しいのであるなならば、歩機を突入させて乱戦に持ち込み、至近距離から確実に射弾を送り込む以外に方法は無いのだが、仮に速射砲を避けられたたとしても、陣地の全周囲には濃密な地雷原が広がり、丘の上のトーチカからの狙撃が待っていた。これではとても踏み込めたものではない。


 ともかく丘上のトーチカと、その周辺の防御に隙や死角はない。

 どのように検討しても、ない。

 何しろその陣地は、工兵が敷設したのだから、隙などあろう筈がない。


 通常であれば、そのような拠点の攻略には砲兵を使う。

 砲撃で制圧するのだ。

 もしくは爆撃である。

 それが出来ない場合は、夜間に歩兵による浸透戦術、つまり夜陰に紛れて接近潜入するしかない。

 それ以外に方法はなかった。


 であるのに、この拠点を兵器単体で攻略しろと言う。しかも晴天の日中に。

 幾ら演習とはいえ正気の沙汰ではない。

 でもそれをしろと言われているのだ。


 だけど、もし仮にこれに成功したのならば、歩機の評価は跳ね上がる。

 だからやるしかなかった。

 ──だったら、一番剣呑な相手から倒すしかないな。


 橋田兵長はそう決意すると、携行した装備を確認した。五式重機関銃の空包はまだ充分にあり、機体に取り付けられた梱包爆薬や地雷原開設用の機材、対物破壊も可能な五式狙撃自動砲は手付かずのままだった。そして機体各部に異常は見られず、燃料も残っていた。


 それらを手早く確認すると、動力腕に五式狙撃自動砲に持ち替えた。そして座席に深く座って機体を対抗陣地と正対させ、一呼吸置いてから天板の鉄桿を引いた。


 試製一〇式歩機の肩部には、大型の噴進砲発射機(ロケット砲)が取り付けられている。そこから噴進砲弾(ロケット弾)が勢い良く飛び出し、砲弾底部から束ねられた鉄索ワイヤーを延ばして飛翔していった。

 やがて、砲弾は大きく丘を飛び越え、陣地を外れた所に着弾した。爆発は起こらなかった。


 その様子を見ていた歩兵達は、一瞬、噴射炎に驚いたものの、砲弾が外れ、しかも不発だったことにせせら笑っていた。しかし、その笑いは長くは続かなかった。


 砲弾が着弾した後、空中に展張された索がゆっくりと舞い降りる。

 それは見慣れない光景ではあった。

 あったのだけど、歩兵はそれが何であるのか、記憶の底から呼び起こす。

 そして、それを思い出したのだ。


 地面に着くや索その物が突然爆発したのだった。鉄索には爆導索が平行して括り付けられていた。

 爆導索とは、端的に言ってしまえば紐状の爆薬であり、ゆっくり燃焼する導火線とは違い、一瞬にして燃焼、つまり爆発する工兵機材の一種だった。導爆線とも言う。

 塊の爆薬とは違い、紐状の爆薬だ。

 それが空から舞い降りて、地雷原のただ中に展張して爆発したのだ。


 驚く歩兵達の前で、爆導索は機体側から順次爆発が走り、地面を切り裂いていった。そして、その衝撃でもって索から左右数m以内に存在する地中の地雷を誘爆させ、衝撃が走りぬけた後には地雷原に一本の道ができていた。


 この機材は九式地雷原開設噴進砲弾といい、砲弾そのものは単なる飛翔体でしかないが、地雷原に踏み入ることなく爆導索を展張できた。これなら、従来のように地雷を一つ一つ手で無力化させたり、専門の重車輌を敵前で使用せずとも、遮蔽物の陰から安全に地雷を除去できる。


 当初、ことの成り行きに驚いていた歩兵達だったが、やがて敵の意図を見抜いた。

「歩機の野郎、地雷原を突破する気だ」


 試製一〇式歩機の開発母体である実験中隊は、元来、工兵部隊だった。その部隊に技術士官や民間から出向した技官で編成して今日に至る。であるから地雷の除去などお手の物ではあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ