3-05 お家に帰ろう
方向が違う二人とは駅で別れ、結衣と一緒に電車に乗って家路に向かう。
幸いまだラッシュ前で、電車の中は比較的空いていた。でもいつもの習慣で車両連結部に移動して、隅っこの席に結衣と二人で並んで座った。小柄な結衣が、さらにちんまりしていてなんだか可愛い。
「楽しかったね。モクド」
「うん。結衣の友達は、二人とも気さくで良さそうな人たちだね」
「でしょ。そりゃあ、私の友達だもん」
あの子たちと一緒なら、結衣の高校生活は当面は大丈夫そうだ。
「新しいクラスはどんな感じだった?」
「んー。まだよくわかんない。でも新入生レクリエーションは、すっごく楽しかったよ」
「そりゃよかった。結衣のクラスの担当は確か沖田と……」
「永倉先輩!」
「ああ、永倉ね。あの二人なら、かなりゲームが盛り上がったんじゃないか?」
「うん。すっごいスピードでゲームを回すから、めっちゃ忙しかった。だけど、その分とっても楽しかったんだ」
「やっぱりな。3-Bは全員スポ根系男子なんだけど、その中でも特にあの二人は熱血なんだよ」
「お兄ちゃん、先輩たちのこと知ってるの?」
「うん、そりゃあね。体育の授業で一緒になることがあるし、あと、2月のサッカーの対抗戦で仲良くなったから」
「そっか。ねえ、どんな人たち? 人柄とか」
「さっぱりした性格のいい奴らだよ。単純っていうか、一直線って感じかな? 目標を決めたら、達成するまでとにかく頑張る。そんなタイプ」
「ほぅ。見たまんまなんだね」
「そうだね。割と今どき珍しい男臭いタイプかも」
「ふんふん。あとでみんなに教えてあげようっと」
「みんなに?」
「そう。今、三年生の先輩たちは、女子の間で人気急上昇中なんだ」
「おー。あいつら、一年生にモテモテなの?」
「そうだよ。でもそういうお兄ちゃんだって、モテモテだったんじゃないの?」
「俺? うーん。どうかな? モテモテっていうより、今日はいっぱいタックルされまくった」
「タックル〜。結衣もいっぱいやったよ! 思いっきりドーーン! って」
「そうそう。でも、ドーーンっていうよりドドドドカーーーン! かも。みんな勢いがあるっていうか容赦ないっていうか」
身体全体で突っ込んでくるんだもんなぁ。受け止めるのにもう必死だった。
「そりゃあせっかくの機会だし、先輩たちと少しでも仲良くなりたいもん」
「その気持ちは嬉しいんだけどね。沖田たちは、普段から足腰鍛えてるから平気だったかもしれないけど、俺は結構あの勢いには押されてた」
「お兄ちゃん、確かにちょっとヒョロいもんね」
ヒョロい? えっ? その評価は……お兄ちゃん的にはちょっと「グサッ!」っときちゃうぞ。
「これでもそれなりに筋肉はついてるんだけどなぁ」
一応腹筋は割れている。見せるほどではないけど。
「そうなんだ? でも沖田先輩や永倉先輩に比べると、お兄ちゃんって細身じゃない?」
くっ。それは否定できない。比較対象がスポ根男子だと、筋肉ではどうしても勝てない。
「先輩たちって凄くがっしりしてたよ。タックルしても『どんとこーーーーい!』みたいな感じだったし、首とか肩とか、結衣がぶら下がっても余裕で大丈夫そうだった」
「お、俺だってたぶん大丈夫……だ」
ちょっと自信ない。だけど、結衣は軽そうだからきっと平気。
「じゃあ、今度ぶら下がってみようっと!」
「いいよ、でも今度な!」
……こっそり筋トレでも始めようかな。
もし万一、結衣に抱きつかれてひっくり返っちゃったりしたら、兄の沽券に関わる。鍛えておくに越したことはない。念のため。念のためだけどね!
*
「お帰りなさい」
家に帰るとすぐに、母さんが玄関に顔を出した。
「あれ? 今日は母さん早いね。仕事は?」
「急遽、家にお客様が来ることになっちゃって、半休を取ったの」
「お客様?」
「そう。結星は面識がある方々のはずよ。それに、そもそもあなたに関係がある話だから、着替えたらリビングに来てくれる?」
「分かった」
そう言われて玄関を改めて見ると、見慣れない女性ものの靴が二足揃えて置かれていた。俺に関係がある話って、いったいなんだ?
そう疑問に思いながら、取り敢えず二階の自室へと階段を上がった。




