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【完結】この男に甘い世界で俺は。〜男女比1:8の世界で始める美味しい学園生活〈 SNSラブコメディ〉  作者: 漂鳥
第6部 桜が咲くその時は 編

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合格発表


 雷霆医科大学。


 日本最難関の国立大学であり、地球の未来を担うことを使命とする、気高い志を抱く者が集う最高学府である。


 学舎の中央に、同心円を描くように、すり鉢状になった大きな階段がある。日頃は学生の憩いの場となっているその場所に、期待と不安がないまぜになった顔の、数多の少女たちの姿があった。


 東に面した校舎のパノラマウィンドウに、誰もが注目していた。声も漏らさず、押し黙って、ただ熱い視線だけを浴びせていたのである。


 その中の一人に、高橋志津がいた。


(受かりますように。受かりますように。受かりますように)


 今更なのは分かっていたが、そう願わずにはいられなかった。

 手元の受験票に何度も目をやり、自分の受験番号を確認する。


(1539。ちょうど真ん中くらいだから、掲示されるのも多分中央かな)


 正午丁度。


 窓が一斉に開かれ、窓枠から掲示板が吊り下げられていく。

 静かだった合格発表の場の各所に、次第に、騒めきと興奮の渦が巻き起こった。


(1200……もっと右……1400……1492……1531……39! 1539! あ、あった! 1・5・3・9。間違いない。受かった! 受かってる!)


 見間違いではないことを確認したくて、何度も瞬きをした。受験票を持つ手に、思わず力がこもった。


 しばらくそのまま、掲示板を見つめて佇んでいたら、気づけば目尻が濡れていた。無意識に指で拭おうとした、その時。


「あら。高橋さんじゃない。『おめでとう』で、合ってる?」


 聞き覚えのある声に振り返る。思った通り、伊東だった。今日も一人ではなく、二人の少女と徒党を組んでいる。


「伊東さん! ありがとう。あなたも?」

「もちろん合格よ。不本意ながら、同級生になるみたいね。でも、今から心配だわ」

「何が心配なの?」

「だってあなた、婚活するのよね? あの高校を選ぶくらいですもの。周囲の迷惑も顧みず、大学に入っても男探しに躍起になるんでしょ」

「栄華秀英って、お金で釣った吝嗇ケチな男しかいないんだって」

「やだ。男なら誰でもいいってこと? どれだけ飢えてるの? あり得な〜い」

「でもね、男漁りの片手間にできるほど、医学研究は甘くないの。今から脱落する姿が目に浮かぶわ。いっそ入学するのを辞めたら?」


 相変わらずの言いたい放題。伊東たちの露骨な喧嘩腰に、さすがに黙っていられず、言い返そうと口を開いた。


「私、大学では婚活なんてしないわ。だって……」

「シズ! やっと見つけた」


 今この場で、シズにとって一番聞きたい声が聞こえた。心を揺さぶるような、魅惑的な甘いテノールの声が。見上げれば、最上段にその声の主の姿があった。


 世界で一番格好よくて、優しくて、誰よりもシズに甘い。恋しい青年が、真っ直ぐに自分を見つめている。


「シズ、もう時間だよ。おいで!」


 その言葉に、気づけば飛び跳ねるように、階段を駆け上がっていた。

 自分のために広げられた力強い腕。

 いつも彼女を優しく抱き止めてくれる、結星の温かい胸の中に、シズは躊躇なく飛び込んだ。


 来てくれた。そう思うだけで、決壊寸前だった涙が、限界を越えて溢れ始めた。


「受かった。受かったよ。合格したの」

「おめでとう、シズ。これで夢がひとつ叶ったね」

「うん。叶った。夢が叶ったよ。結星くん、来てくれてありがとう」

「来るに決まってるさ。シズは泣き虫らしいけど、俺が放ってなんておかないから」

「会いたかったの。年末以来、ずーっと結星くん断ちをしていたから、夢に見るくらい、すっごく会いたかった」

「俺もだよ。俺もシズの顔が見たかったし、めっちゃ会いたかった」


 恋人たちのド派手な逢瀬に、フリーズしていた観衆に動揺が走った。


 青春を勉学一筋に費やしてきた少女たちは、自分たちが目にしているものが、到底現実とは思えなかった。


「えっ何あれ? イケメンのダイビングキャッチ!?」

「『おいで!』だって。幻聴? 妄想? あれってバッチこいの構えだよね?」


 その場にいる誰もが大いに混乱し、負荷ストレスに耐えきれずに、悲鳴を漏らし始めた。


「夢だった? 受かったと思ったのに、これって全部夢だったの?」

「ここ、雷霆の合格発表会場だよね? なんでドラマのロケやってるの? まさかドッキリ?」

「泡風呂王子が服着てる」


 周囲に動揺と興奮が広がる中、驚愕の表情に固まる少女たちがいた。


「……は、半裸くん? やだ、本物? なんで! なんで高橋さんと半裸くんが一緒にいるの?」


 いつの間にか階段を上がってきた伊東と取り巻きの面々。彼女たちも、その他大勢と同様に、この光景を信じられなかった。いったい何が起こったのかと、自分の目を疑った。

 おかしい。こんなの絶対におかしい。さっきまでは、自分たちが絶対に優位だと思っていたのに。


 天下の雷霆女子に通い、最高学府である雷霆医科大学にも合格した。ひと握りの選ばれた人間なのだ。エリート中のエリートである自分たちに、敵う者なんていない。ただそれだけの根拠で、マウントを取ったつもりでいた。


「一緒にいる理由? それはもちろん、恋人同士だからよ」


 結星に抱きついた手を放さないまま、シズが少し首を傾げて言葉を返した。


「嘘! 嘘よ! そんなのありえない」

「プリン王子が恋人? そんなのウン十億積まなきゃ無理なんじゃないの?」

「ほっぺツネったら痛い。つまり、夢じゃない?! これってリアル?」


 伊東たちの追求に、シズは両手を結星の腕に絡めて、伊東たちに向き合った。


「見ての通り、もう恋人がいるから、私は大学で婚活するつもりはないし、必要もないの。ガッツリ研究するつもりよ。だから、よろしくね、同期さん」

「シズ、知り合い?」

「うん。中学の同級生。大学でまたご縁があったみたい」

「そっか。皆さん、とても優秀なんですね。《《俺の》》シズをよろしくお願いします」


「「「は、はいっ!」」」


 階段の上でシズを探し、合格発表の場らしからぬ不穏な様子を見つけて、思わず声をかけてしまった結星。牽制のつもりで、目力に気合いを入れて、いつもよりクールに声をかけた。


《主人公補正【悩殺アイビーム】を獲得、即時発動しました》

《都市伝説【俺の女】を具現化、全方位に無差別攻撃を行いました》


「じ、じゃあ、行こうか。シズ、お腹空いてない?」

「空いてる! 入学手続き用の書類を受け取りに行きたいから、その後でいい?」

「もちろん。それって、どこに行けばいいの?」

「たぶん、あっち。あっ、でも、その前に一緒に記念写真を撮りたいかなぁ」

「撮ろうよ。他の人の邪魔にならないように、あの辺りに移動しよう」


 魂も肩の力も抜けた少女たちは、いったい自分は何を見させられているのだろうかと、いまだ呆然としていた。


 自撮りするために、ぴったりと密着して腕を組み、仲良く微笑み合う二人。なぜか甘い甘いバニラの香りが辺り一帯に漂っていた。


 甘いマスクのイケメンが、目の覚めるような青いマフラーを自分の首から外し、隣にいる少女に愛しそうに巻きつける。そして、髪を払うついでだとでもいうように、少女の目尻にチュッとキスをした。


「泣いてるシズも可愛いかったけど、もう涙はいらないね」

 

 受験を終えて、まだ抜け殻から脱し切れていない少女たちには、あまりにも刺激が強過ぎた。


「なんか、い、息が……息が苦しくなってきた」

「ちょっと、過呼吸起こしてる場合じゃないわよ。この目に、耳に焼き付けなきゃ。雷霆医科大に入学したら、たぶんこんなシチュに遭遇する機会なんて二度とないから」

「砂糖吐きそう。何この香り。甘くて咽せそう」

「なんか吹っ切れたかも? 臨床医の方が男性との出会いが多いっていうし、専門大学で頑張ろうかな」

「ロ、ロマンス? 本当にあった。え、マジで?」

「あ、あれ、ああいうの、頑張れば私にもできるのかな?」


 彼女たちは、夢と希望をいろいろな意味で見出し始めていた。

 と同時に。見下していたはずのシズの完全勝利に、がっくりと肩を落とす伊東たち。


「まさかのプリンくん。うわぁ、マジか。あれって、プリンくんが栄華秀英にいたってことだよね?」

「奨学金を貰った上に、あのクラスのイケメンとガチで付き合えるんだ」

「伊東ちゃん、大丈夫? 涙目になってるよ」

「だって。だってだってだって。共学校に来るような男はクズだって。ロクな男がいないって。ママが。ママが言ってたのに。全部嘘だったーーっ!」


 悲喜交々、阿鼻叫喚を背後に、志津と結星は仲良く恋人繋ぎをしながら、受験会場を後にした。

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