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5-05 家族の団欒

 

「結子、約一年ぶりだね。君は可憐な花のようだ。いつ会っても愛しさが溢れてくる。愛してるよ」


 うわっ。


「ありがとう。降星くんも全然変わらないわね。日本に帰ってきてくれて凄く嬉しい。私も愛してる」


 おおっ。


 目の前で繰り広げられるイチャラブな言葉の応酬。


 めっちゃ上機嫌な母さんと、大人の男の色気全開の父さんが、恐ろしく甘ったるい空気を醸し出している。例えるならグラブジャムン級(※ グラブジャムン:世界一甘いとされるインドの激甘ドーナツ)の痺れるような甘さ。


 ……状況的には分かる。うん、凄く理解できるよ。恋人同士(夫婦だけど)が、久々の逢瀬を喜ぶ麗しい光景だもの。だから、お互いにスイッチが入っちゃうのは自然な成り行きだ。


 でも。


 そのカップルが俺の両親だと思うと、なんかこうこそばゆいというか、居たたまれない感じがするのは何故か? 


 ひとつ目の理由としては、自分にとって母さんは「母親」というカテゴリー内にいる人で、一人の女性ーーつまり異性としては認識していないことがあげられる。


 そしてふたつ目、最大の原因は父さんのルックスにある。俺に激似だから、20年後の自分を見ているみたいな感じがする。


 当たり前だけど、姿形がそっくりでも別人なわけで、自分自身に対してよりも、より客観的に見えてしまう。だから、めっちゃ甘い表情で、煮詰めたシロップみたいにロマンチックな言葉を連発されると……ヤバイこれ。


 俺って端から見るとこんな? ホワイトデーの時なんか、これ以上のセリフを言っちゃったような……うわぁ恥ずい。人前でなければ身悶えてしまうところ。


「しばらく日本にいられるの?」


「うん。八月の中旬にイベントの予定が入っているけど、もう打ち合わせはだいたい終わっているんだ。あとは会場の下見と当日だけかな? 基本的には長期休暇だと思ってくれていいよ」


 なるほど、仕事もあるけど休暇も取れるわけね。


「本当に? あなたを独占できるなんて夢みたいだわ。他の人は怒ってなかった?」


「それは大丈夫。キャサリンは、日本への飛行機を手配してくれたぐらいだし、リンメイは日本の後に行くって約束したら、喜んで賛成してくれたよ」


 ん?


「残りの二人は?」


「マリーとベロニカは、仕事関係で行ったばかりだから、気兼ねしなくてもいい」


 んんっ?


「ならよかった。じゃあ、国内なら旅行に行けるかしら?」


「そういうかと思って、君の夏休みに合わせて、もうホテルは押さえてあるんだ。子供たちには申し訳ないけど、二人っきりで旅行しよう」


「二人で? でも……」


「お母さん、行ってきなよ」


「そうだよ。俺たちに遠慮しないでいいから」


 ここは母さんを猛プッシュだ。


「さすが、僕の子供たちは素敵な子ばかりだね。ありがとう。数日だけ結子を僕にちょうだい。申し訳ないけど留守番をよろしくね」


 父さんがそう言ってウインクする様は、凄くチャーミングで、とてもアラフォーには見えなかった。



 *



「お父さん、寝ちゃった?」


「ええ。時差を考えて飛行機の中では無理して起きていたみたい。もうすっかり寝入ってるわ。日本にいる間は、うちに泊まるって言っていたから、いろいろ話をしてみるといいわよ」


 やけにテンション高かったもんね。あれは疲れそう。


「お父さん、予想していた以上に若々しくてびっくりしちゃった」


「子供っぽいでしょ。マイペースに見えるけど、案外繊細なのよ。あれでも随分落ち着いたわ。以前はもっと夢みがちでフワフワしてたし、危なっかしい感じがしてたから」


 初対面の野人っぽい外見の印象が強過ぎて、とてもそうは思えなかったけど、実は夢見る青少年タイプってこと? 


「えっ、意外。我が道を行く人に見えたのに」


「そうね。我が道というか、無鉄砲なところがあるのよね。若い時にいろいろあって、自分を納得させるために、一人で世界を見て回りたいって言い出した時には驚いたもの」


 この世界を一人旅? それは無鉄砲というより、無謀?


「若い男性の一人旅なんて、可能なんだ」


「もの凄く珍しいと思うわ。だってもの凄く危険だもの」


 そういえばさっき、何度も誘拐されそうになったって言ってた。あれ、冗談じゃなかったんだ。


「この家に着いた時の格好が凄かったんだけど、いつからああなの?」


「そうねぇ。降星くんはとにかく隙だらけで、旅をし始めた当初は、何度も拉致されそうになったのよね」


「うわぁ。大丈夫だったの?」


「その度に、なぜか頼もしい女性が颯爽と現れて助けてくれるのよ。運がいいのか悪いのか分からないのよね」


「それがさっき言ってた人たち?」


「そう。海外にいる降星くんのお嫁さん。私以外に4人いるわ。キャサリン、リンメイ、マリー、ベロニカ。それぞれ住んでいる国は、イギリス、中国、マダガスカル、パプアニューギニアよ」


 お嫁さんが五人もいるのか。それも世界中に。あちこちバラけていて大変そう。


「なんか随分と国際色豊かだね」


「そうね。でもいろんな国を旅して、たった4人で済んだのは奇跡だと思うわ。なにしろ降星くんは、もの凄くモテるから。特に面倒見のいい強い女性には激モテなのよ」


「じゃあみんな、お母さんみたいバリバリ仕事してる感じなの?」


「もっとパワフルよ。5人の中では、お母さんが一番普通だもの。他の人は専門商社や貿易会社、大農場の経営者で、それ以外にも運輸業や倉庫業を始めとするいろいろな事業を手掛けているわ」


「なんか凄いね」


「そう凄いの。会えば分かるけど、非常にエネルギッシュな女性たちばかりで、社会的地位も財産もあるから自信に溢れている。でもそんな彼女たちも、降星くんの前では何故か普通の女の子になっちゃうのよね」


 つまり、天然人タラシってこと? 顔は似ていても、俺とは違うタイプなのかも。


「でも言葉の壁ってなかったの?」


「相手が英語を話せたから、最初は英語で意思の疎通をしていたらしいわ。でも、彼女たちが『降星くんの母国語を話せるようになりたい!』と言って日本語を猛勉強して、今は日本語で会話しているみたい」


 世界規模でのロマンス。言葉の壁もなんのその。恋愛パワーって凄い。


「うわぁ。愛されてる〜。奥さんがそんなにいるのに、うち以外に子供はいないの?」


「今はね。でもそろそろ増えるんじゃないかしら?」


「へぇ。海外に兄弟姉妹が増えていくなんて、なんか不思議な感じ」


「そうね。降星くんは、綺麗な花の間を飛び回る蝶々みたいな人だけど、そろそろ地に足が着くかもしれない。そんな気がする」

 

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