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4-14 日曜日③ 後の祭り

 

 大国祭が終わり、やっとひと息つけた結城家。その姉弟が集うリビングでは。


(りん)(ねえ)、結局どうするの?」


「どうするのって?」


「とぼけてもダメだよ。片桐くんのことに決まってるじゃん」


「凛姉、ちょっとお(かんむり)〜?」


 長女の凛にそう突っ込むのは、怖いもの知らずの三女、四女の(ともえ)(まどか)である。


「怒ってなんかいないわよ。なんで私が怒らないといけないの?」


「だってさ。片桐くん、あれだけ凛姉に本気っぽく迫っていたのに、どう見ても巫女ハーレム願望ありそうなんだもの」


「うんうん。あの様子じゃあ、凛姉一筋ってわけにはいかなそうだよね」


 二日間の大国祭の期間中、C組男子の片桐克也、平野長俊、脇坂靖春の三人は、売店で売り子のアルバイトをしていた。


 弟の廉も含めると総勢四人の若い男性売り子の存在。それがネットで話題になり、これまでにない記録的な売り上げを果たしている。


 神社の経営的には万々歳の結果であったが、結城四姉妹ーー特に長女の凛にとっては、喜ばしいことばかりではなかったようである。


「片桐くんが巫女服をだぁい好きなのは分かった。でもあれが義理のお兄ちゃんなのはちょっと……かなぁ」


 祭期間中の臨時アルバイトには、彼らだけでなく若い女性も何人か採用していた。巫女服姿の女性に取り囲まれて、明らかにデレていた片桐。さらにそれだけでなく。


「買い物客に対しても、凄く可愛い子に鼻の下を伸ばしてたよ」


「『俺の働きぶりを見てください!』って、凛姉に言ってたのにね」


 あんなに忙しかったにも関わらず、こういった素行は案外見られているものである。


「まあまあ、二人とも。それはちょっと採点が辛過ぎない? 片桐くんが巫女服フェチなのは既に分かっていたことだし、だからこそ、自ら進んでアルバイトにも来てくれたんじゃない」


 片桐を(なじ)る双子を、そう(いさ)めるのは次女の杏である。


「それはそうだけど、凛姉の前で他の女の子にデレ過ぎでしょってこと」


「言葉と態度を一致させて欲しいです!」


「鼻の下が伸びていたのは否定しないけど、業務に支障が出るほどではなかったわよ。デレるくらいは仕方ないって私は思うけど。ちゃんと異性に興味があるってことだしね」


「杏ちゃんはいいよね。平野くんって、見た目は軽そうに見えたのに、杏ちゃんに始終べったりだったし」


「あれは意外だったね。杏ちゃんやったね! 彼は案外当たり物件かもよ」


 そうやって好き放題語る双子に、姉二人が応酬する。


「こらこら、話を盛らない。忙しくてべったりする暇なんてなかったでしょ? 他人事でもないんだから、そうやって面白おかしく誇張しないの!」


「そうよ。私たちに構っていないで、あなたたちは自分自身のことをもっと考えるべき。四人姉妹で、誰一人として相手が決まっていないなんて。跡取りの私はともかく、あなたたちについては、お母さんが頭を抱えていたわよ」


「だってぇ。いい男がいないんだもん」


「ねぇ。でも、このままじゃ廉に先を越されそう。どこかにいい男が転がっていないかなぁ」


「廉ったら、売店でナンパされてたもんね。どうなったのあれ?」


「あの二人、同級生なんでしょ? ワッキーがそう言ってたもん」


「ねぇ、廉ったらどうなのよ!」


 鉾先をかわそうと、一気にまくし立てる双子の姉たち。そんな彼女たちに目もくれず、手元のゲーム画面を見ながら結城は言い放った。


「そんなだから彼氏ができないんだよ。巴も円もやかまし過ぎ」


「廉、生意気!」

「ぶー、ぶー」


「煩いな。あの二人……鍋島と田原とは付き合うことになった。だから俺にも構わないでね」


 口煩い小姑になりそうな巴と円を牽制する結城。彼が女性に素っ気ない原因には、この姉たちの存在が関わっているのかもしれない。


「あーあ。『構わないでね』なんて言っちゃうんだ。昔はトモちゃん、マドちゃんって、どこにでもくっついて来て、めっちゃ可愛かったのに」


「育て方を間違ったかな?」


「仲がいいのは良いことだけど、双子だからって、いつまでもずっと一緒にいられるわけじゃないのよ。私も含めて、そろそろ本気で相手を探した方がいいのは確かね。結婚する気があるのなら」


 杏が二人にそう言って釘を刺す。


「うーん。結婚はしたいけど、誰でもいいわけじゃなくて。できれば、背が高くてスポーツマンでイケメンで、私たちの目の前では他の女の子とイチャイチャしない。性格は、ねちっこくなくて、優しくて、でも話が面白い。そんな人がいればなぁ……」


「そんな人、もしいても引く手数多で絶対にフリーなわけがない。既に女の子が鈴なりになっているはず。並居る競争相手を出し抜いて割って入る気概が必要なわけで、私たちには無理なのよねぇ」


 この双子。姉と弟には言いたい放題だが、案外内弁慶である。


「だよね。人を押しのけて私が私がってアピールするのは何だかイヤ。できれば向こうからアプローチして欲しいんだけどな」


 そして意外にも恋愛面では受け身であった。


「それってさ。話が面白い以外は、モロ武田だと思うんだけど。春休みの旅行でずっと一緒に滑ってたのに、アプローチしなかったの?」


「武田くん? 彼は確かに……確かに条件には合ってる。でも、いくらなんでもキラキラ過ぎるというか。芸能界デビューして、みんなの王子様になっちゃったから」


「それに武田くんて、ちょっと優柔不断っぽい感じがしない? できればもうちょっと強引な方が……」


「二人とも贅沢過ぎ。あんな優良物件にまでケチをつけているようじゃ、一生相手なんて見つからないよ」


「廉の言う通りよ。そんなオーダーメイドしたみたいな男性、いるわけないじゃない」


「ぶーぶー。もう! 廉も杏ちゃんも優しくない!」


「そうだよね。いないよね。こうなったら、ワッキーで手を打とうかな?」


 不意にポロリとそう呟く円を、巴が驚いて注視する。


「えっ? ワッキーって、あのワッキー?」


「そう、あのワッキー。理想よりちょっと背は低いけど、優しいし、スノボは今は下手だけど、素直に練習とか頑張ってくれそうだから、いいかなって」


「ワッキー……ワッキーか。私たち以外に目移りしないでって言えば、聞いてくれそうな感じではある?」


「何その疑問系。あれで脇坂は、学校でも親しみ易いって理由で案外人気があるよ。自分を意のままに振り回そうとする女なんて、あえて選ばないんじゃないかな」


「えーーっ。ワッキー、モテるの?」


「そりゃそうでしょ。性格がいい、話し易い男子なんて、めっちゃ需要ある」


「……それもそっか。無愛想で愛敬のない廉ですら、ナンパされちゃうんだものね」


「そういえば脇坂くん。アルバイトの女の子たちと、かなり仲良くなってた。楽しそうに連絡先を交換しているのを見かけたわ」


「えーっ! ワッキーの癖に生意気!」


「やだ! それってもう手遅れってこと?」


「優しい男はモテるんだよ。こんな世の中じゃあね」


「廉、こんなってどういう意味?」


「それはもちろん、日々の疲れを解消するために癒しを求めている女性が、巷には溢れているって意味だよ」


「「なるほど」」


 そう相槌を打つのは、肝心の双子ではなく、世間のありようが分かってきている年長の二人の姉たちの方であった。


祝100話!


100話までに評価ポイントが大台に届くかなと期待していましたがちょっと及ばず。


でも皆様のおかげで、かなりいい線まで近づいて参りました。日々応援してくださる読者の皆様に感謝! なお一層のお引き立てを宜しくお願い申し上げます。


ブクマ・☆・ちょっとした感想など大歓迎。応援がとても励みになっています。


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[一言] 100話おめでとうございます! 一旦更新が止まってからいつかいつかと、待ってました。 今の異世界ものや転生ものが流行ってる中で、ラブコメは珍しいので楽しく読ませてもらってます✨ 頑張ってくだ…
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