表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/239

91話 死にたがり

※前回までのあらすじ


 エルフ勇者が殺してくれと言ってきた!


 エルフ勇者は、偽魔王の台詞にそのまま同意してしまっていた。



 普通、「貴様の命もここで終わりだ!」とか言われたら、大体返し文句としては、



「その言葉そっくりそのまま返してやる!」



 とか、



「死ぬのは貴様の方だ!」



 とか、そんな感じの台詞を返しくるもんなんじゃないの?



 なのにもかかわらず、この勇者は、



「はいどうぞ、殺して下さい」



 って、あっさり受け入れたもんだから俺だけじゃなく、アイルや四天王も呆然としてしまっていた。



 この勇者の考えてることが良く分からん。

 もう少し会話を進め、真意を暴き出す必要がありそうだ。



 なので俺は偽魔王に話を続けるよう指示を出した。

 すると、



「勇者よ、よくぞここまで来た。だが、貴様の命もここで終わりだ」



 だあぁぁぁっ!

 同じ台詞言ってどうするよ!?



 きちんと魔王っぽい台詞は仕込んでおいたはずだが、使い分けまでは難しいらしい。



 それでも勇者は、首を傾げながらもちゃんと受け答える。



「ん? だからいいですよ? ここで終わりで」



 このままじゃ埒があかないので、ここからは偽魔王に寄生しているメダマンを使い、俺が直接音声で話すことにした。



「ならばそうなる前に、貴様の名前くらいは聞いておいてやろう」



 勇者は「ん?」となる。

 急に口調が変わったことがバレたのかと思ったけど、そうでもないようだ。



「私? 私の名前はリア・ヴォルケノフと言います」



「勇者リアか……。何故、貴様は死を望む。我を倒しに来たのではないのか?」



 うーん、我ながら、なかなか貫禄のある魔王っぽいしゃべりだ。

 そんなふうに自賛していると、彼女が訝しげな目で見てくる。



「あのー……その前にちょっとお伺いしたいんですけど、魔王さんでよろしいんですよね?」



 そういえば、魔王っぽく振る舞ってたけど、こっちからは何も名乗ってなかったな。

 でも、あからさまに魔王っぽいとは思うんだけど……。



「いかにも」



 一応、そう答えると、彼女は安心したような表情を見せた。



 罠は見破れるけど、ゴーレムは見破られなくて良かったー。



「で、さっきの質問の答えでしたね」

「うむ」



「そもそも、私は魔王さんを倒しに来たわけじゃないんです。どちらかというと魔王さんに倒される為に来たんです」



「え……」



 俺は言葉に詰まった。



 どこの世界に魔王にやられる為に魔王城にやってくる勇者がいるのか。

 いや、ここにいるか。



 って、そうじゃなくて!

 おかしいだろ、そんなの。



 でも、嘘を言っているようには見えないし、そんな嘘を吐くことに何のメリットも無い。



 何か事情がありそうだ。

 もう少し聞いてみるしかない。



「倒されに来たと言ったが、そうまでする理由は何だ?」



 尋ねると、リアは真剣な眼差しを向けてくる。



「人質に取られている私の村を救う為です」

「村……?」



 自分がやられることが村を救うことに繋がる?

 どういうことだろうか?



「私は表向きはラデス帝国の勇者……ということになっていますが、実際は他の場所から連れてこられた勇者ですから……」

「……」



 俺は目線をスクリーンからアイルに移す。



「そういうのアリなの?」

「ええ、国の利益がかかっていますからね。領地外で生まれた勇者を引っ張ってきて、自国の勇者として複数擁立させるという話は良く聞きます」



 なるほど、なんとなく見えてきたぞ。

 単純に勇者の数だけチャレンジの回数が増えるというのなら、どの国だってこぞってそうするだろう。



 勇者だって高額の報酬を支払うと言えば、喜んで協力する奴もいるだろうし。

 今は瞬足くんと化している勇者アレクもその類いだろう。



 ということは、中には逆に勇者をやりたくない……という者がいてもおかしくはない。



 いくら金を積まれたって、大怪我の恐れや、命をかけるようなことをやりたくない奴は必ずいる。



 実際、俺もそっち派だし。



 目の前のリアも恐らく、勇者をやりたくない派だ。



 なんでかって?



 彼女は自分の村を人質に取られていると言った。



 勇者をやりたくない奴を、やらせるにはどうしたらいいかを考えれば自ずとそうなるだろう。



 村を滅ぼされたくなければ、勇者としての使命を果たせ、とかなんとか。



 ラデスは圧政が敷かれている国だとキャスパーが言ってたし、そんな事が行われていてもおかしくはない。



 じゃあ、彼女はなんで魔王を倒すつもりがなく、死ぬ気満々なのか?



 そこだけは良く分からないが……。

 思い付くのはこんな感じ。



 彼女は、自分が魔王にやられたという事実さえ残れば、村が解放されると思っているのだろう。



 ラデスにとっても村は、彼女を脅迫する為だけの材料にすぎない。

 それが達成できなくなったら、必要の無いものだ。

 脅す相手がいないのに、わざわざ村を滅ぼすのは無駄な労力でしかない。



 それでも腹いせのように村に手を掛けるというのなら、それは虐殺に快楽を感じるような人間だ。



 と、色々思い付くままに言ってしまったが……、



 俺の予想が当たっているのか、答え合わせをしていこうじゃないか。



 ついでに監視網を擦り抜けたり、罠に気付いた理由も知りたいし。



 俺は偽魔王を通して、リアの瞳を見詰めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ