87話 アイルの正体
※前回までのあらすじ
アイルが今更サキュバスだと判明した!
アイルがあんまり朗らかに、
「私はサキュバスですよ」
なんて言ってくるから、俺は唖然としてしまった。
今までそんな要素、微塵も感じられなかったし。
なんか、ハァハァ言ってることはよくあったけど、それは勇者に対してのサディスティックな部分を刺激された時だった。
まあ、俺が彼女をお姫様抱っこをした時とか、カレーを食べさせてもらった時とか似たような反応を示していたけど、それは普通の女の子でも有り得る反応だろう。
唯一、大浴場で背中を洗ってくれた時にそんな感じがしなくもなかったが……それ以外は寧ろ、忠義を尽くし、誠実で真面目な部分の方が多いくらいだ。
本当にサキュバスなの? って疑ってしまう。
尻尾の存在だって今まで全然気付かなかった。
普段は凄く短く収納されているらしく、パッと見では気付かないレベルらしい。
そもそも、そんなにまじまじと彼女のお尻を見ていたわけじゃないので、気付かないのも当たり前だった。
「サキュバスって……あのサキュバスだよね?」
「はい、夢魔とも呼ばれるそのサキュバスですが、何か?」
彼女はきょとんとした顔で答える。
何か? と言われても困るんだが……。
でも、今後のこともあるから、一応は聞いておかないといけないだろうな……。
「ってことは、やっぱり……男を誘惑したりとか……精を吸い取ったりとかするわけ……?」
すると途端に彼女は、顔を真っ赤に染め上げてあからさまに動揺し始める。
「と、突然……なななっ、何を言い出すんですかっ!?」
「えっ? だってサキュバスってそういうもんじゃないの?」
彼女は目を丸くする。
「へ? そうなんですか!?」
まさかの自覚無しだったー!
ってか、自覚無しのサキュバスって一体、どんな存在なの!?
「いや、別に知らないなら知らないでいいんだけどさ……」
「なんとか……その……ど、どど、努力しますっ!」
「しなくていいからっ!」
ってことは……前世でのファンタジー知識としてのサキュバスと、この世界のサキュバスって違うかもしれない可能性も考えられるな。
「逆に聞くけど、サキュバスって何が得意な種族なの?」
尋ねると彼女は誇らしげに答える。
「夢や幻惑を操ることを得意としております」
「それって相手に幻を見せたりとか、そういう?」
「はい、仰る通りです」
「ほう」
良いことを聞いた。
それはなかなか有用な能力だぞ。
侵入者対策にかなり活躍しそうだ。
「その能力、貸してもらう時があるかもしれない。その時はよろしく」
「勿論です。魔王様の為なら喜んで。それと一緒に誘惑の能力も……」
「そっちはいいから!」
慌てて断ると、俺は改めて設置した罠に目を向ける。
アイルの尻尾に意識を奪われ、すっかり罠の方から気が逸れていた。
「ひとまず、この小部屋の罠はこんな感じでいいかな」
とりあえずの設置完了。
確認をして引き上げようとした時だ。
アイルが何か気になったようで、声を掛けてくる。
「あの……」
「ん?」
「あの大弓のことなのですが」
彼女は小部屋の最奥に設置されている大弓を指差しながら言う。
「あれをここでお使いになるということは、誰か弓を射る者を置いておく必要があるのではないかと……」
「ああ、それについてはゴーレムにやらせようかと思ってる」
「なるほど、それはよろしいですね」
正面の通路から入ってきた侵入者に向かって矢を放つだけだから、それほど難しいことでもない。
一応、操作周りがどうなってるのか、それくらいは確認しといた方がいいかな。
そう思って大弓の後ろへ周り込み、弓の構造を把握する。
見た目はクロスボウに近いが、台座に固定されている。
しかし、引き金のようなものが一切無い。
これって……どうやって射るんだ?
手で弦を引っ張って放つような方式の弓には見えない。
そもそも大弓の詳細には、矢は無制限で自動装填され、速射性があると書かれていた。
いちいち一本ずつ矢をつがえていては、それもままならない。
速射なんて夢のまた夢。
ってことは、何か別の方法があるはず。
そこで台座周りを調べてみると、何やらスライド式のスイッチのようなものを発見した。
「これか」
直感的にスイッチを入れると、大弓がウィィンと音を立てる。
それは、なんか火が入った……というか、電源が入ったような感覚。
これってもしかして……。
俺の中で、ある予感がしてくる。
「アイル、ちょっと俺の方に避けておいてくれる?」
「あっ、はい」
言うと彼女は大弓の前からササッとどいて、俺の隣にやってくる。
それを確認すると、俺はまたしてもノーマル金ダライを合成した。
現出させたそれをアイルは不思議そうに見ている。
俺の予感が当たってるなら、恐らく……。
そう思いながら、俺は金ダライを大弓の射線上へ放り投げた。
直後、
シュバババババババババババババババァッ
矢がマシンガンのように放たれ、金ダライが一瞬にして穴だらけになる。
金ダライは射貫かれた勢いで宙を舞い、そこを更に射貫かれる。
それが猛烈なスピードで繰り返され――
最終的には百円玉ほどの金属片しか残らなかった。
標的が無くなると射撃が収まる。
「……」
「……」
俺とアイルは何もしゃべらず瞠目していた。
「こいつは……」
動く標的を追尾捕捉し、射撃する。
まさかの全自動防衛兵器だった!
こんなの射撃手なんて……いらないじゃん!




