82話 スーパー金ダライ
※前回までのあらすじ
新しい罠を試してみることにした!
俺は第一階層と第二階層を繋ぐ迷宮の中にいた。
新しく作れるようになった罠を試す為だ。
複雑に入り組んだ細い通路はトラップの設置に持って来いの場所。
なんたって逃げ場が限定されているのだから、侵入者の行動を予測し易い。
という訳で、何から試してみようか。
色々ありすぎて迷ってしまうが、やはり……、
金ダライだろうな。
数ある罠の中で何故、これにこだわるのか?
それは、いずれ実行を考えている、とある計画に欠かせないアイテムだからだ。
計画に必要なのは魔黄石と魔蒼石と魔碧石を合わせた、アルティメット金ダライだが、とりあえず魔黄石が手に入ったので、比較の為にも実際にスーパー金ダライの威力がどの程度なのか、この時点で確かめておきたかったのだ。
スーパー金ダライのレシピは、
金ダライ×1 + 魔黄石×1
なので、まず先に素体となる普通の金ダライを合成しないといけない。
早速、俺は鉄鉱石と亜鉛を使い、ノーマルの金ダライを生成する。
そのまま、それを使ってスーパー金ダライを……と思ったのだが、その前に罠としての仕組みを確かめる為、ノーマル金ダライでテストしてみることにした。
勝手が分からないうちにスーパー金ダライをセットしては危険だと思ったからだ。
仕組みといっても大体、想像はつくけど……まあ、念の為。
という訳で合成済みのノーマル金ダライを取り出す。
ゴンコロロンッ
そんな金属音がして、目の前の床に金ダライが転がった。
当然だけど、本当に普通の金ダライだ。
このままでは、ただの容器にすぎない。
確か、床スイッチと連動させるんだったよな。
なら、この通路の突き当たりに設置しよう。
なぜなら、そこがT字路だからだ。
もし、真っ直ぐの通路に設置した場合、飛び越えられてしまう可能性がある。
しかし、T字路の突き当たりなら、その可能性がぐっと低くなるのだ。
この通路は人が二人横に並んで歩くのがやっとの幅しかない。
正面の床を踏まないようにするのは不自然な歩き方になる。
余程、用心深い人間でなければ、かなりの確率で踏むはずである。
ということで、合成済みの床スイッチを通路の突き当たりにセット。
で、ここからどうしたらいいんだ?
金ダライを手に持ったまま考える。
特に設置の説明とか、床スイッチとの連動方法とか、詳細に書いてなかったからなー……。
書いてないってことは、逆に考えたら書くほどのことでもない……ってことだろうか?
もし、そうなら……。
俺は、床スイッチの上に金ダライをポンと置いてみた。
すると――、
金ダライが宙に浮き始めたのだ。
「おおっ!?」
どうやら、合ってたっぽい。
そのまま天井付近にまで浮き上がると、そこで停止する。
これで床スイッチを踏むと金ダライが落下する罠の完成だ。
だが、事はそれだけじゃなかった。
金ダライの姿が煙のようにフッと消えたのだ。
「!?」
まさか……不可視効果まであるのか!
これなら見た目で見つかる心配も無い。
天井を見上げたら、なんか変なのがあるなーってならないし。
至れり尽くせりだな。
じゃあ無事、設置も出来たことだし、試しにちゃんと作動するかやってみよう。
俺はそーっと足を伸ばし、爪先で床スイッチを踏んでみる。
直後、
ガゴンッ
「あうっ!?」
鈍い金属音と共に、小さな悲鳴が上がった。
「いっ……つつ……な、なんですか……これ?」
そこには旋毛を押さえながら目尻に涙を浮かべるアイルがいた。
足元に転がる金ダライを怪訝そうに見ている。
いつもタイミング良くやって来るよなー……。
相変わらず罠に嵌まりやすい体質らしい……。
「金ダライだよ。アイルこそ、どうしてここに?」
「トントロから、魔王様が新しい罠の設置をなさるようだと聞きましたので……ハァハァ」
もう彼に会ったのか。
ってか、火照った感じで息が荒いんだけど……罠と聞いて喜び勇んでやって来た感じか。
彼女の手には皆に配布しておいた迷宮コンパスが見える。
それを使ってここまで来たらしい。
「それで新しい罠というのは、どのようなものなのですか? 私、とても興味があります……ハァハァ」
「今、アイルが嵌まったのがそうだけど?」
「え……」
彼女は目を丸くした。
「お言葉ですが……その……罠にしては、あまりダメージが無いように感じますが……」
「だろうね」
「??」
アイルは言葉の意図が分からず、きょとんとしてしまっていた。
「今のは、どんな感じに落下するのか、そのテストみたいなもんだから」
「なるほど、そうでしたか。それで本番はこれから?」
彼女は目眩く罠の世界にワクワクが止まらない様子だ。
「まあね」
今ので大体、どの辺に落ちるのかが分かったから、安全な場所で見届けることが出来るだろう。
そこで俺はコンソールを開き、スーパー金ダライを合成する。
目の前に現出したそれは輝かしい黄銅色を湛えていた。
「まあ、綺麗……」
アイルは思わずそんな声を漏らす。
俺はそのスーパー金ダライを拾い上げると、先程の同じように床スイッチの上に置く。
やはりタライは天井に向かって浮き、消えた。
「これで設置完了。危ないから下がってた方がいいよ」
そう促すと、彼女は数歩後ろに下がる。
当たると骨折するくらいの威力ってことらしいから、気を付けた方がいい。
さて、あとはどうやって床スイッチを押すかだが……その方法は既に決めている。
俺は、さっき使って床に転がったままになっているノーマル金ダライを拾い上げる。
そのまま距離を取ると、そのノーマル金ダライを床スイッチに向かって、まるでカーリングのように滑らせた。
カチッ
上手いこと目標点に載っかり、スイッチが入る。
刹那――
ズガシャァァァァァァァアァンッ
耳を劈くような破砕音が通路に木霊した。
「……」
俺とアイルは呆然としてしまった。
黄銅色の金ダライが石の床を陥没させ、周囲に亀裂を走らせていたからだ。
これ、骨折どころの威力じゃないでしょ!?
「あ……あはは……」
一歩間違えば、さっき自分の頭に落ちたのがこれだったんじゃないのか?
アイルは、そんな想像をしたらしく、渇いた笑みを浮かべていた。




