78話 ジェスチャー
※前回までのあらすじ
マホガニー材を手に入れた!
雑草を掻き分け進むと、急に森の木々が開けた場所に到着する。
フィールドの中央には大岩が鎮座しており、その周りに草牛の群れがいた。
「うわ……すげー一杯いる」
その数、百頭以上。
二十頭くらい確保できれば……と思ってたけど、この際だから全部、持って帰ろうか。
ダンジョンは広い。
この数でも余裕で飼える。
食材の供給が安定するし、多ければ多いほどいいだろう。
たくさん食べる人もいるしね。
乳製品だけでなく、食肉用、繁殖用としても使えるし、背中に生えている草からは小麦が獲れるので、動く畑でもある。
ただ、考えなきゃいけないのは餌だ。
これだけの数を飼うには、それなりの量の餌が必要になってくる。
今、ここにいる草牛を見ると、地面から生えているキノコのようなものを頻りに食べている様子が窺える。
「あれは何を食べてるんだ?」
隣にいるシャルに聞いてみた。
「霊芝だよ」
霊芝って、民間薬になったりするアレのこと?
でも、なんだがぼーっと光を帯びているし、やっぱりなんかちょっと違う。
これもマホガニー材と一緒で、この世界ならではの霊芝なんだろうな。
「あれは草牛の大好物で、この辺りにしか生えてないんだー」
なるほど、だからここにこれだけの数が集まっている訳か。
「草牛は霊芝以外では何を食べるんだ?」
「あとは、その辺に生えてるポムポム草かなー」
それは以前、素材として確保したことのある草だ。
確かに、そこら辺によく生えてるので見つけることは容易いが、餌として供給するには掻き集めるのが大変そうだ。
ゴーレムを動員させれば行けるかもしれないが……もっと作業を簡単にしたい所。
あの霊芝が栽培出来れば、餌には困らなそうなんだが……。
ダンジョンの中だと薄暗いし、ジメッとしてて良く育ちそうだもんな。
ともあれ、草牛だけでも先に確保しておくか。
「シャル、向こう側から草牛を追い込んでくれない?」
「わかったー」
彼女はそのまま森の中を回り込み、俺が今いる場所の反対側へと向かう。
一頭一頭捕まえるより、彼女に追い立ててもらったところを強欲の牙で一挙に確保した方が効率が良いと考えたのだ。
大岩に被らないよう向かい側に到達したシャル。
それを確認すると、俺は手を振って知らせる。
それで向こうも笑顔で手を振り返してくれた。
じゃあ、始めようか。
俺は再び手を振って彼女に作戦開始を告げる。
すると――、
彼女もまた同じように手を振り返してきた。
ん……そうじゃなくて、始めてくれって言ってるんだけど……。
これ……全然伝わってない感じだな……。
今度は両手を使って、
だーかーらー、もう、始めていいよー?
身振り、手振りで、そんなふうに伝えたつもりだったが……。
彼女は俺の動きを笑顔で真似するだけだった。
ぬぉぉぉ……もどかしい! もどかしすぎる!
ならば、体全体を使って表現してみよう。
物真似だ。
俺は草牛の格好を真似ると、何かに驚いて慌てて走り出す様子を表現して見せた。
すると――、
シャルは、こちらを指差しながら腹を抱えて笑っていた。
ウケてる場合じゃねぇーっ!
ダメだ……こんなのでは永遠に伝わらないぞ……。
そもそも向かわせる前に合図を決めておくべきだった。
というか、どうやって追い立てるのかも聞いてなかった。
こんな事で苦労するとは思ってなかったという理由もあるが……。
今更反省していても仕方が無い。
とにかく、やるべきことをやろう。
彼女のことだから、薪へ火をつけた時みたく、ウィル・オ・ウィスプを呼び出したりして驚かせるつもりじゃないかと予想する。
なので俺は両手を広げ、そこから炎が立ち上るイメージを体で表現した。
ブォォォッってな感じで……。
すると、それを見た彼女がウンウンと頷いた。
おっ!? もしかして今ので伝わった!?
よし、いいぞ。その調子で追い立ててくれ。
彼女は俺がやったように両手を横に広げる。
そのままそれを頭の上に持って行き、振りかぶって――
投げた!?
振り下ろした勢いで自分の両腕を飛ばしたのだ。
まるでセルフなロケットパンチである。
やっぱ、全然伝わってなかったー!
しかし、そのロケットパンチに驚いた草牛達が一斉に動き始めた。
群れが俺の方に向かって迫ってくる。
結果的には、これでも良かったってことか。
俺はすかさず強欲の牙を現出させると、猛進してくる草牛の前で口を開ける。
そのままの勢いで飲み込まれてゆくものもあれば、慌てて反転しようとするものもいる。
それらも全て強欲の牙で一頭も残さず取り込んだ。
確保完了。
アイテムボックスを見ると、草牛×121と表記されていた。
「うまくいったねー」
シャルが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ああ、結果はね。でも……」
俺はスタスタと早足で歩き、シャルの二本の腕を回収する。
そして、
「体は大切にして欲しいな」
「あ……」
言いながら取り付けてやると、彼女は――。
「……うん」
とだけ言って頷いた。




