60話 盗聴するぞ
※前回までのあらすじ
勇者達の会話を拾えるかも!
俺は上空で勇者達を撮影しているメダマンにマイク感度を上げるように命じた。
すると次第に声が聞こえ始める。
『っど……レムで……はゴ……シャァァァ……と……ピヨ……んだ……ら』
感度が良すぎて、違う環境音まで入り込んでしまっているようだ。
それでも時折、ハッキリと聞こえる時がある。
断片的ではあるけれど、情報としては貴重だ。
んで、最初に明瞭に聞こえたのはこれだった。
『解呪。高位の聖職者のお前なら出来るはずだが?』
これは勇者が聖職者の人に言った言葉だ。
解呪。
って、魔法を無効化するような魔法のことだよな?
ここでその話をしてるってことは……ゴーレムに対してそれを使う気だな?
ゴーレムは泥と土を魔力で繋ぎ合わせた人形。
その魔力を無効化すれば、簡単に元の泥土に戻るはず。
なかなか考えてきてるじゃないか。
で、そのあとに聞こえてきたのは、これ。
『泥と土の塊に大量の水を注いだらどうなると思う?』
勇者が魔法使いの彼女に問うた言葉だ。
恐らくこれもゴーレムに対してのこと。
これを聞いて俺が率直に思ったことは、
そんなことしたらゴーレムがドロドロになっちゃうやん!
ということ。
その大量の水はどうすんの? って話だけど、周囲に水場なんて無いから、多分、水系の魔法か何かで仕掛けてくるんだと思う。
魔法使いに話してる訳だし。
魔法騎士隊はそれらのサポートって感じか?
とりあえずそれで、彼らがやろうとしていることが、なんとなく分かった。
「さて、なんかやってくるみたいだけど、どうしよっか」
するとアイルが言い難そうにしながらも口を開く。
「あの……解呪についてですが……。一介の聖職者に今の魔王様の魔力を解くなど、不可能かと思います。それほど警戒せずとも……」
「もしかしたら世界最強の聖職者かもしれないし、用心に越したことはないよ」
「えぇ……」
アイルは言葉も出ない様子だった。
そこへキャスパーが続ける。
「魔法使いについてもそうです。例えあの者が人間最強の魔法使いだとしても、あの高い防御力を誇るゴーレムならば、如何なる魔法も簡単に弾き返してしまうことでしょう」
「もしかしたら物理攻撃だけに強いってことかもしれないし。魔法には、めっちゃ弱いって可能性もあるよ?」
「えぇ……」
キャスパーもそれ以降、どういう訳だか押し黙ってしまった。
何? どうしたの?
皆、勇者を舐めすぎだよ?
「あ、でも前に勇者が放ったあの技は物理攻撃に入るのかな?」
俺がそんなことを口にした時だった。
『行くぞ』
そんな声がメダマンの集音マイクから聞こえてきた。
勇者達が行動を開始したのだ。
「っと、そんなことしてるうちに動き出してるぅぅっ!」
俺は慌ててカメラ映像をオスカーリーダーに切り替えた。
メダマンからの上空映像はマルチスクリーンで画面の端に表示しておく。
その他にも、森の木々や他のゴーレムに設置してあるカメラからの映像をマルチアングルで画面の下の方へ小さく表示させておいた。
オスカーリーダーの正面に現れたのは聖職者だ。
早速、彼は杖を胸の前にかざし、もごもごと呪文のようなものを唱え始める。
「縫い目、結び目、封じ目。全ての繋がり、炯眼と光を以て魔を断ち切らん――」
今度は近距離なので、オスカーリーダーに付いてるメダマンからハッキリと音声が聞こえてきた。
どうやら解呪の魔法を放つっぽい。
実は俺、この短い時間に、それへの対応策を思い付いていた。
「解呪!」
聖職者が杖を向けて叫ぶ。
これに対し、今あるもので俺に出来る事。
それは――。
ズンッ
地響きと共にゴーレムの前に石壁が出現した。
解呪は、その石壁に当たり力無く霧散する。
「なっ……!?」
聖職者は瞠目していた。
俺がオスカーリーダーに命じて極々普通の石壁ブロックを盾代わりに出したのだ。
ただの石壁なら魔力のへったくれもない。解呪なんて無意味になると思ったのだ。
それに石壁なんて腐るほどあるしね。
聖職者は別角度から何度も解呪を放つが、全て石壁で防御してゆく。
「な、なんなんだ……このゴーレムは……」
聖職者は唖然とするだけだった。
「何やってんのよ、もう! 私に任せなさい!」
そんな声と共に巨大な水柱が発生。
水流波となって宙を駆ける。
魔法使いの水魔法だ。
その水流波は、ゴーレムの周囲にあった石壁をまるで豆腐でも崩すように破壊する。
そりゃそうだ。ただの石壁だからね。
攻撃魔法には、敵わないと思う。
でも――
魔法使いの彼女は、石壁を全て破壊し、丸裸になったオスカーリーダーに向けて最大魔法を放つ。
「これで砕けなさい! 水龍滅波!」
水柱が龍となってオスカーリーダーに迫る。
水龍が大口を開け、その牙を剥いた時だ。
パチンッ
そんなふうな音がして、オスカーリーダーの少し手前で水龍はただの水になって弾け飛んでしまった。
「え……なんで……?」
魔法使いは目を丸くしていた。
自分の全力っぽい魔法が、目標に届くことすらなく弾け飛んだのだから。
これにはアイル達も刮目していた。
「なんか……ゴーレムの前に、見えない壁のようなものがあるように見えましたが……」
「おっ、鋭いね」
俺は嬉しくなってしまった。
「あれは魔法の扉だよ」
「え……」
アイルは言われてハッとなった。
魔法の扉は不可視な上に、強度が高く破壊されにくいとの説明書きがあった。
恐らく魔法防御にも使える。
そう思って防護盾として使用してみたのだ。
相手にとっては自分の魔法が対象に届きもしない。そんなふうに見えたことだろう。
それにしても、ある程度の防御力はあるとは思ってたけど、ここまで完璧に防いでくれるとはね……。
聖職者と魔法使いは呆然自失。
勇者と魔法騎士隊は、彼らの後ろで出番無く、立ち尽くしていた。
「さて、じゃあこっちのターンと行きますか」
俺は企みに満ちた笑みを浮かべた。




