25話 ある意味ゴーレム城
※前回までのあらすじ
魔王城の人員を全部ゴーレムで賄うことにした!
「魔王城の人員を全部、ゴーレムで賄う」
「本当にそんな事を……?」
アイルは信じられないといった表情をしていた。
「だって魔王だけ玉座に座ってても不自然極まりないでしょ」
魔王の他には四天王がいて、その団員や近衛兵、門番もいる。
そして表には見えないが、魔王城を裏方で支えてくれている者達もいる。
それらがごっそりダンジョンに引っ越す訳だから、それに見合った偽物が必要だ。
「それは……魔王様の仰る通りですが……。そのゴーレム達を変装させる服が問題になるかと。そのような数の用意がありませんが」
そりゃ無いだろうね。
「確かにゴーレムの姿のままよりは、見た目を着飾った方がずっといい。けど、無いものは仕方が無い。だから取り敢えずはそのままで。良い案が思い付いたら随時追加してゆくよ」
「承知致しました」
というわけで、俺は大量のゴーレムを合成することにした。
ただ、ある程度、能動的に動いてもらう必要がある為、ゴーレムリーダーを大量に作る。
その数、二十四体。
それが俺の前にずらりと並ぶ。
壮観だ。
それで先のアルファリーダーからズールリーダーまで、アルファベット二十六文字分のゴーレムリーダーが出来上がった。
その他に普通のゴーレムを二百体ほど作って、それぞれのリーダーの下に割り振った。
近衛兵役から掃除係まで役割は様々だが、多くの人員は勇者が来るまでは出番が無いのでダンジョン作りの方へ回した。
あと、ダンジョンばかり掘っていると鉱石系の素材しか集まらないので、一つのゴーレム部隊は城の周囲に広がる森へ素材採取に行かせた。
今後、新しいレシピが手に入った時の為に、多種類の素材を集めておいた方がいいと思ったからだ。
森だと植物系の素材が集まりそうだな。
ゲームと同じ感じなら、それらの素材で服とか装備品とかが作れる可能性が高い。
それでゴーレム達に着せるものが出来たらいいなー……なんて、今後のことを見据えた上での指示だった。
ゴーレム達が、それぞれの持ち場に向かって行った後、玉座の間は再びガランとした感じになる。
そんな広い空間に、五体のゴーレムリーダーだけが残されていた。
「魔王様、このゴーレム達は?」
アイルは指示を与えずに残したゴーレムリーダーを不思議に思ったようだ。
「この五体には四天王役をやってもらう」
「まあ!」
アイルは、それは面白い、というような顔をした。
「でも一体、多いですが、それは?」
「決まってるじゃないか、魔団参謀役だよ」
「わ、私っ!?」
彼女は思わず絶句した。
「声真似は得意みたいだから、上手く出来ると思うんだけど」
「ひぃぃっ……!」
アイルは再び怖気が走ったようで、体をブルッと震わせていた。
「そんな訳だからチャーリーリーダーはアイル役」
『了解です、魔王様』
厳つい巨体からアイルの声が漏れる。
「うひぃぃっ……!」
それで本人が卒倒しそうになっていた。
「んで、デルタリーダーはキャスパー役ね」
「デキナイ」
「えっ」
予想外の事を言われたので戸惑った。
「なんで?」
「コエ、キイタコトナイト、デキナイ」
「なるほど、お手本が必要な訳ね」
そういう事情があるみたいなので俺は、すぐさまこの場に四天王達を呼び寄せた。
「ほう、これが私の物真似をするというのですか」
キャスパーが物珍しそうにゴーレムを見る。
「何か手本を見せてやってくれる? しゃべり方だけじゃなく、出来ればキャスパーらしい動きとかもやってくれたら嬉しい」
「承知致しました」
キャスパーは紳士らしく一礼すると、
「不肖、キャスパー。演舞を御覧に入れます」
突然、激しい蹴りを披露し始めた。
それはまるで俺の前世で言う所のムエタイのような型だった。
仮想の敵と戦っているような体裁き。
しなやかでバネのある素早い動きと、獣のような力強さが剛柔の如きに入り混じり、思わず見入ってしまう。
キャスパーって、普段はTHE執事だけど、実は俺が想像してたよりもかなり強いのかもしれない。
「お目汚し、失礼致しました」
キャスパーは再び一礼する。
「いやあ、良い物を見せてもらったよ」
「そのお言葉、有り難き幸せに御座います……にゃん」
その、にゃん……が無ければもっと締まったのにな。
「じゃあ、デルタリーダー。真似てみてくれる?」
「リョウカイ」
デルタリーダーは重量級の体でドスンドスンと進み出ると、こう告げる。
『不肖、キャスパー。演舞を御覧に入れます』
「「えっ……」」
俺とキャスパーは、ほぼ同時に目が点になった。
直後、デルタリーダーがその巨体でムエタイを真似し始めたのだ。
体裁きは本人に遠く及ばないが、同じようにやろうという意志は窺える。
だが、
ドガゴッ、ドスン、ガスンッ、バゴンッ
その激しい動きに、魔王城が地震のように震える。
「うわわっ!?」
なんか天井から埃が落ちてくるし、足元がグラグラして気持ち悪い。
「ストップ! おっけー、もう分かった!」
言うと、デルタリーダーは機械のようにピタリと動きを止めた。
ふぅ……焦った。
ともかく声真似は完璧。
動きについては、もっと控え目にっていうことを指導しておこう。
と、そこで一連のゴーレムの動きを見ていたキャスパーが、感心したように口を開く。
「このゴーレム、ただのゴーレムではありませんね」
「どういうこと?」
「私の知るゴーレムは、このように柔軟性に富んだ行動は出来ません。恐らく、魔王様が作られたゴーレムだからこそ、なのでしょう」
「ほう」
どうやら俺の作るゴーレムは特別製らしい。




