230話 敗走の二人
※前回までのあらすじ
枝豆が、あらぬ方向に飛ぶ危険なアイテムだった!
枝豆(塩茹で)が、コントロール不能の凶器だと分かった俺は、アイテムウィンドウをそっと閉じた。
強力ではあるが、自分達に被害が出るかもしれないので実際に使うのは、ちょっと待っておこうと思う。
そんな訳で枝豆以外の新しい罠と、これまでの罠を再配置して準備を進めることにした。
アイルと二人で試行錯誤しながら作業を進めること数日。
ほぼ完了と思えた頃合いに、通知音が鳴る。
どうやら森の外周に設置してあるメダマンの一つが何かを捉えたらしい。
もう、モルガスが来たのか?
やけに早いな……。
そう思いながら、反応のあったカメラを確認すると、そこに映っていたのは見慣れた顔の二人だった。
「あ……これは例のゼンロウの勇者か」
死霊の森の外でユウキとカルラはゴーレム達に囲まれていた。
そんな彼らの声がマイクを通して聞こえてくる。
「な、なんですか……!? このゴーレムの数は……。いくらなんでも防衛が過剰すぎるっ!」
「そ、そんな事より、このままじゃマズいでこざるよ!」
映像で見た限り、彼らに戦う意志は無いように窺えるが、大量のゴーレムに囲まれおののいていた。
「何しに来たんだ……あいつら……」
しかし、彼らがここに到着したということは、モルガスもそろそろ現れてもおかしくはないということだ。
警戒しておいた方がいいだろう。
それにしても……。
「仕方が無いでござる。ここは私が分身してこの数に対抗するしか……」
「数の問題じゃないんだよ! ってか、魔王殿! どうせ、どっかで見てるんでしょ? ちょっと、これを止めて貰えませんかねえ?」
ユウキはカメラとは正反対の方向へ向かって叫んでいた。
「……」
なんか、あいつら……最初の印象とどんどん懸け離れて行っているような気がするのは俺だけか?
しかしながら、彼らに敵意は感じられない。
取り敢えず、ゴーレムを下げてみるか。
何かあってもすぐに出せるようにはしておくけど。
俺はコンソールを弄って、ゴーレムを控えさせた。
「おおっ!? どうやら私達の声が届いたようですよ!」
「さすがでござるよ、ユッキー」
「誰がユッキーやねん!」
ゴーレムが退いたことで、彼らの緊張が解けたようだ。
俺は小ボケをかます彼らの元へメダマンを飛ばした。
モルス山脈から、ずっと彼らを追跡させていたメダマンだ。
「わわっ!? なんかまた出たでござるよ!」
突然、空から飛んで来た目玉コウモリの異様な姿にカルラは驚きの声を上げた。
ユウキも刮目して様子を窺っている。
かなりの高度から追跡させていたので、やはりメダマンの存在には気付いていなかったようだ。
目の前で翼をゆっくりと羽ばたかせ、滞空し続けるだけで何もしてこないメダマンにユウキは何かを感じたようだった。
彼はメダマンの大きな瞳を覗き込んでくる。
「もしかして、この魔物を使って私達の姿を見てる?」
相変わらず、そういう所は鋭いようだ。
すると彼は何をお思ったのか、メダマン(カメラ)に向かって手を振ってくる。
「魔王殿、これを見ているのなら少し話をしたいのですが」
そんなユウキの行動にカルラが反応した。
「え? これで魔王殿に伝わるのでござるか? ならば……」
彼女はカメラの正面に回り込んで顔を近付けてくる
「おーい、魔王殿。見てるでござるかー? カルラでござるよー」
近い近い!
フレーム一杯に彼女の顔が映し出されたので、俺は思わず仰け反ってしまった。
それはともかく、彼らは俺との対話を望んでいるようだ。
だが、信用にたる存在にならなければ会わないと前に伝えたはずなんだけどな……。
しかし、彼らをこのままにしておくわけにもいかない。
俺は直接会わないが、代わりに瞬足くんを送ろうか。
彼らは一度、魔王代理としての瞬足くんに会っているわけだし。
そんな訳で、俺は瞬足くんに命令を下した。




