198話 餌付け
※前回までのあらすじ
電気鼠と思しき生き物が部屋に現れた!
部屋の隅に突如として現れた電気鼠。
俺は強欲の牙を取り出し、そいつの捕獲を試みようとしたのだが……。
「駄目だ……可愛すぎる……」
電気鼠はモコモコのふわふわ。
しかも、俺の方を見ながら黒目がちな瞳をウルウルとさせていたのだから堪らない。
思わず右手を引っ込めていた。
捕獲するだけなら問題無いけど、こいつの肝が必要なんだよなあ。
素材の為とはいえ、こんなモフモフの生き物を殺めるのは気が引ける。
電気柵作りは、取り敢えず止めておこう。
少し屈んで、ブルブルと震えるそいつと目線を合わせてみる。
「驚かせてゴメン。何もしないよ。だから……」
だから……何だ?
自分で口にしておいて、その先の言葉に困る。
「うーん……と、そうだ」
俺は思い付いて、アイテムボックスからパイ生地を取り出した。
ミートパイの中間素材に使われているものだ。
そいつの端を少し千切って電気鼠に差し出してみる。
だが、相手は体をビリビリとさせて警戒している模様。
さすがに直接、手から上げるのは難しいか。
俺も感電しかねないし。
なので、電気鼠の前にそっと放り投げてみた。
「……ュッ!?」
急に自分の方に何かが飛んで来たもんだから、電気鼠は一瞬、ビクゥゥッとなった。
随分とビビり屋みたいだけど、野生動物といったらみんなこんなもんか。
「そんなに警戒しなくても平気だよ。美味しいから食べてみな」
優しく投げかけ、根気よく待っていると……。
「……?」
俺の顔と餌の両方を窺い始める。
そして、恐る恐る小さな手を伸ばし――、
食べ始めた!
「むしゃ……っ!? はむっはむっはむむっ」
一口食べると、何かに火が付いたように物凄い勢いで食べ始める。
お腹が空いてたのかな……?
なら、もうちょっと千切ってやるか。
俺は手元のパイ生地を食べやすい大きさにして追加で放り投げてやる。
しかし、投げた側からどんどん無くなっていく。
気がつけばミートパイ一人前に使うパイ生地が全部無くなっていた。
全てを平らげた電気鼠はというと――、
腹を丸くして「げふぅ……」と言いながら床の上に寝転んでいた。
よくあの小さな体にそれだけの量が入ったな……。
しかし、見れば見るほど可愛い……。
俺は寝ている電気鼠に近付き、そーっと上から様子を窺ってみた。
いかにも柔らかそうな黄色い毛皮。
小さな前歯の横からは白い髭がピンと伸びている。
あーモフモフしたい。
そんな風に思っていると、こちらの気配が伝わったのか、電気鼠はハッとしたように目を見開いた。
「っ!?」
いつの間にか俺が凄い近くにいることに驚いた電気鼠は、慌てて逃げようとするが、食べ過ぎた腹が重くて動けない様子。
ただ床の上でジタバタしているだけだった。
「案外、間抜けなのな……」
その姿を見ながら呟くと、さっきまでジタバタしていた電気鼠の動きが止まる。
そして――、
「誰が間抜けだ!」
「っ!?」
少女みたいな高い声で、突き返された。
俺は呆然とする。
「ネ、ネズミが、しゃべった!?」




