表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/239

番外編2 パンダ姫の憂鬱


 ここは魔王城より南西に位置する国、ラデス帝国。



 正確にはラデス帝国だった場所である。

 便宜上、元ラデス帝国と呼ぶことにしよう。



 そんな元ラデス帝国の帝都に広大な更地が存在していた。

 魔王の力によって破壊されたラデス城の跡地だ。



 今は乾いた薄茶色の土と小さな瓦礫しか残っていない。



 そんな場所に元ラデス帝国の姫、ラウラが立っていた。



「ふぅ……」



 パンダのような隈を目の下にこしらえた彼女は、深い溜息を吐いた。

 それは遠く離れた場所にいる思い人を脳裏に浮かべた為。



「はぁ……魔王様はいつ妾を迎えにきて下さるのじゃろうかー……」



 彼はラウラを側室として迎え入れてくれると約束してくれた。

 だから、ずっとその時が来るのを待ち続けているのだ。



 彼はこの地に新たな拠点を建設すると言っていた。

 恐らく、それが完成する頃には彼もやって来ると思われる。



 その為の物資が魔王城より運ばれてくる予定なのだが、未だにその様子が無い。



「魔王という身……多忙なのじゃろうな。しかし、待ち遠しいのじゃ」



 ラウラ自身、ただぼんやり待っていたというわけではない。



 突然、この地を統治する人間がいなくなったのだ。民の混乱は必至。

 それを避ける為に彼女が先頭に立って奔走していた。



 それに、いつ魔王城の第二拠点の建設が始まってもいいように城跡を綺麗に整地するなどの作業も行っていた。



 金ダライ落下の衝撃で地面は陥没、多くの瓦礫が飛散したこの地を平坦にならすのは大変な作業だった。



 もちろん、それをラウラ一人でやったわけではない。

 作業には彼女を慕う民兵や、元ラデス帝国の残兵が投入された。



 残兵はラウラ派の者達で構成されていたが、一部、旧皇帝の派閥に属していた兵も混じっていた。



 なぜ、皇帝派の残兵が未だこの地でラウラの下で働いているのかというと……。



「くっそ、なんで俺がこんなことしなきゃなんねーんだ!」



 ラウラの目の前をブツブツと文句を言いながら瓦礫を荷車に積んで運ぶ兵士がいた。



 右肩が赤く塗られた鎧を着ている、元警備兵の小隊長だ。



 彼は魔王代理こと、瞬足くんのピコピコハンマーに叩かれたことによって、命令を受けた際、自分の意志とは正反対の行動をしてしまう力が働くようになっていた。



 他にも同じような兵士が何人か居て、皆同じように文句を言いながら働いていた。

 反抗心があるうちは忠実に働いてくれるという訳だ。



 ――む……瞬足くんで思い出したのじゃ……。そういえば妾は、まだ魔王様と直接お会いしたことがないのじゃった。



 そう思うと、彼への妄想が高まる。



「はぁ……どんなお方なのじゃろうか……。やはり、妾が想像する通り、勇ましく威厳のあるお方なのじゃろうなあ……」



 ラウラは自身の武器である鎌に縋りながら体をクネクネと捩らせる。



「あぁ……想像すると、溢れ出る思いが止まらなくなってしまうのじゃ……」



 このままでは気持ちが落ち着かない。

 その思い、どうしようかと倦ねていると、ふとあるアイデアを思い付く。



 ラウラは自身の大鎌を手にすると、その鋭利な切っ先を使って地面に絵を描き始めたのだ。



「ぬふふ……妾の想像する魔王様はきっと、こんな姿に違いなのじゃ……」



 うきうきしながら鎌を滑らせる。



「魔王様は魔王であるからのお、やはり立派な角が生えておるじゃろうなあ……」



 四角く尖った輪郭の頭に鋭く突き出た角が描かれる。



「そして……欠かせないのはムクムクのお髭じゃろう。ふんふふん……♪」



 付け足されたのは口の周りだけでなく顔全体を覆うほどの毛。



「その眼光は、見る者を震え上がらせるほどの力を持っておるじゃろうな」



 顔の半分を占めるほどのギョロリとした目玉が描き足されて……。



「ふんふふん、ふふふん♪」



 そのまま鼻歌を歌いながら描き続けること数十分。



「完成なのじゃ」



 彼女は地面に描かれた魔王の想像画を改めて見直す。



「な、なんというイケメン! 惚れ惚れするのじゃ……」



 ラウラは頬を紅潮させて、鎌の柄に掴まりながら再び体をクネクネとさせる。



 すると、そこへ先ほどの赤肩の兵士が荷車を押しながら通りかかった。



 彼は地面に描かれた絵に目をやると、



「ん? なんだこりゃ……ゴブリンか? いや、この感じはオークだな……」



 不用意にそんな発言したことが災いした。



 次の瞬間、彼の顔の一寸前を大鎌の刃が横切る。



「ひっ……!?」



 兵士が声にならない悲鳴を上げた弾みで、口髭の一部がポロリと削ぎ落とされた。



「口は災いのもとと言うぞ、よいか?」



 ラウラが隈の奥で殺気を帯びた睨みを利かせる。



「……!!」



 すると兵士は青褪めた顔を見せるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こいつの感性終わってんなw
[一言] 理不尽…… 妄想しつつ描いただけの絵なのに(笑) 兵士、可哀想。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ