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189話 試飲してみた

※勇者レオ視点の回です。


 側にいたヒルダが誰よりも先に茶を口にしていたので、レオは度肝を抜かれた。



 まさか、そんな軽率な行動に出るとは思っていなかったからだ。



「お、おい……大丈夫なのか……?」



 心配して尋ねるも、彼女は無表情で茶を啜っていた。



 そのまま全てを飲み干すと、カップをテーブルの上に置く。

 それでようやく返答があった。



「案外、いけるわ」

「そういう事を聞いてるんじゃない。体は何ともないのか……?」



「問題無いわ。ただの美味しいお茶よ」

「……」



 見た所、彼女に変化は無かった。



 ただ遅延性の毒ということもある。

 すぐに結論付けることは危険だ。



 外部からは決して傷付けることの出来ない絶対防御(スヴェル)を打ち崩すには、こういった内側からの攻撃が有効だ。



 こんなチャンスを魔王が見す見す逃すなんてことは考えにくい。



 ――何かあるはずだ……。



 そう思って体調の経過をつぶさに窺う。

 と、そこで彼女は有り得ない行動に出た。



 置いてあったティーポットを手にして、二杯目を注ぎ始めたのだ。



「な……何をする気だ?」

「何って、もう一杯頂こうかと」



 平然とした態度でそう言うと、優雅に二杯目を飲み始める。

 これにレオは呆然とするしかなかった。



「濃厚なミルクの中に程良い苦み……そして華やかで心地良い香り……。お茶としてはかなり美味しい部類に入るわよ、これ」

「いくらなんでも軽率だろ……」



 そう訴えても彼女の態度は変わらなかった。



「大丈夫よ。回復スキル持ちの恩恵か、私、毒物を感知出来るの」

「なっ……そんな能力、初耳だぞ……」



「だって、教えてないもの」

「……」



 言われてみればその通りだった。

 そもそも、それほど彼女の素性に詳しい訳でもない。



 ――ということは、それは本当にただの茶……。



 そう認識したのは当然、レオだけではなかった。

 兵士達は確証が得られたことに安堵して、一斉にティーポットに飛びついたのだ。



 互いにひしめき合い、注がれたカップを手にした者からゴクゴクと喉を鳴らし無心で飲み始める。



「ぷふぁ~っ! うめぇ……」

「あー……体中に染み渡るぅ……」

「生き返ったぁー……」



 欲望は一度、決壊すれば歯止めは利かない。

 いつの間にか水の方まで手を付け始めている。



 レオはその様子に呆れながらも目の前のティーポットに目を向ける。



 ――どうせ飲むなら……ヒルダが口にしたのと同じティーポットから注ぐのが安全だ。他のポットは確証が取れていないからな……。



 レオはヒルダの前にあるティーポットを手にすると、空いているカップに注ぐ。



 出て来た液体は、まさに茶とミルクを混ぜたかのような色合いだ。



 そいつをゆっくりと鼻先へ持って行く。

 立ち上る湯気がレオの鼻腔をくすぐった。



 ――ん……やはり良い香りだ……。初めて嗅ぐ種類の香りだが、不思議と心地良い……。



 そのまま恐る恐る口元へと運ぶ。

 僅かに口に含んだ途端、



「……!」



 舌先から口内へ果実のような芳醇な香りが広がる。

 それが濃厚なミルクと相俟って絶妙な口当たりだ。



 ――これは……旨い。こんな美味しい茶は初めてだ。



 不本意ながら、そう感じてしまった。



 ついでに渇き切っていた体に久し振りの水分が投入され、それが全身に染み渡って行くのが分かる。



 一気に体に活力が戻った気がした。



 それに体調に悪い変化も無さそうだ。

 本当にただの茶だったらしい。



 兵士達の様子に目を向けると、そちらも同様だった。

 顔に覇気が窺え、体力を取り戻しているように見える。



 ただ、何も起こらなかった事へ、やや戸惑いを感じていた。



 そんな矢先――



「うう……」



 近くにいた兵士の一人が、体を窄めてモジモジしているのがレオの視界に入ってきた。



「おい、どうした?」

「いや、あの……」



 彼は青ざめた顔で言いにくそうにしている。

 そして、か細い声で囁いた。



「ト……トイレに行きたくて……」



「は……?」



 魔王を目の前にしたこんな状況で到底出てくるとは思えない言葉に、レオは怪訝な表情を浮かべるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] せめて女騎士にしてくれ〜!!
[一言] シリアスさんが死亡しました 草
[一言] 男のおしっこシーンは誰得なんだ⁈
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