164話 対抗策を練る
※前回までのあらすじ
やって来た勇者の対策を練ることにした!
ここはダンジョン第一階層にある食堂。
その場所にアイルと四天王、リリア、そして帰還したばかりの瞬足くんがいつものように集まっていた。
「えー、皆に集まってもらったのは他でもない。またまた勇者がやってきました」
「「「「「えー」」」」」
各テーブルからブーイングが上がる。
「そんな訳で今回の勇者に対しての対抗策を皆と一緒に練りたいと思う。幸い、領地内に侵入してくるにはまだ時間が掛かりそうだから、その間にささーっと良いアイデアを出しちゃおう」
「「「「「「はーい」」」」」」
皆さん、良いお返事で。
「じゃあ勇者達が持っているスキルから、その方法を考えて行くとしよう」
俺はウインドウを皆の前に拡大して広げると、そこに瞬足くんに寄生してるメダマンがキャプチャーしてくれた画像を表示する。
画像は二枚。
それぞれに男と女の勇者が写っている。
「今回の勇者はこの二名。捉えた音声から、レオとヒルダっていうらしいよ」
「ほう、大盾と三叉矛の勇者ですか……」
キャスパーが画像をじっくり観察しながら言った。
「まずは女の勇者、ヒルダの方から見ていこう」
俺は森で拾った木の枝を指示棒代わりにして画像を指す。
「この勇者は回復系のスキルを持ってるみたいで、それがちょっと厄介そうなんだ。今回、普通の兵士をめっちゃいっぱい引き連れて来てるんだけど、彼らが傷ついてもアッと言う間に回復しちゃうんだよね」
「それなら、カイフクできないようにコロシちゃえばいいんじゃない?」
プゥルゥが可愛い声で物騒なことを口走った。
「それがさ、人間って即死してもしばらくは細胞が生きてるんだよね」
「サイボウ?」
「体を構成する最小単位みたいなものさ。その細胞が生命活動を続けているうちは回復のスキルが有効みたいなんだよね」
「それってコロシてもいきかえるってコト?」
「傍目には、そんなふうに見えるかもしれないね」
「ほへー……」
プゥルゥが驚きの声を上げた。
「この映像を見てもらえる? 瞬足くんが捉えた映像を拡大したものだからちょっと見づらいけど、雰囲気は伝わると思う」
俺が画面上の画像をタップすると動画が始まった。
丁度、瞬足くんが到着する寸前に、遠距離からアイルと勇者軍の戦闘を撮影したものだ。
そこにはアイルが尻尾を兵士の腹に突き刺す映像が映っていた。
あの威力なら内臓は破裂し、背骨まで砕けて即死のはず。
だが、すかさずヒルダが三つ叉の矛を地面に突き刺して回復スキルを発動。
腹部に風穴を空けられた兵士は、傷一つ無い状態で立ち上がり、何事も無かったかのようにピンピンしていた。
「これって……私がゾンビさん達を操るのに似てるかも」
シャルが興味深くその様子を窺っていた。
「確かに。でも、ゾンビとは違う所があるんだ」
「違う所?」
「ゾンビは元から死んでるから、どこを斬られても燃やすか粉々にされなければ活動出来るじゃない? でも生者の場合、体を制御する中枢である頭を切り離されてしまうと、さすがにこのスキルでも回復出来ないっぽいんだよね」
人間は首をはねられても暫くは生きてるっていうけどね。
俺は瞬足くんが兵士達の首をはねるシーンを再生してみせた。
「ホントだ、勇者が回復出来なくて困ってるね。だったら皆、この方法で殺っちゃえばいいんじゃない?」
「ああ、兵士に対してはこの方法が有効かもしれない。でも、数が多いのがちょっとね。首だけ狙ってあれだけの数を倒して行くのは結構大変かも」
「そうかー……。あ、そうだ。なら、アイルの能力を使えばいいんじゃない?」
シャルが何かを思い付いたようだ。
「サキュバスの能力である魅了の力で兵士達を骨抜きにしてしまえば、首を刈るのも簡単じゃないかな? というか、この時もなんで使わなかったの?」
彼女が動画を指差しながら言うと、当の本人は驚いたようにビクッと体を震わせる。
「そ、そそそ、そんなの無理です! 人間共に対して私がそんなことをするなんて……考えられませんっ! 私が魅了の力を使うのは魔王様だけなんですからっ!」
アイルは顔を真っ赤にして動揺していた。
サキュバスらしからぬ発言だな……。
ってか、俺には使うのかよ!
「勇者が攻めてくるのに、そんなワガママ言ってられないでしょ?」
「ワガママじゃありません! せっ、性質です……」
「まあまあ、無理強いはしないよ」
純情サキュバスには辛いのだろう。
俺もそんなに鬼にはなれない。違う方法を考えよう。
「そもそも数の多い兵士を倒すより、回復の大元であるヒルダ一人をなんとかする方がいいんじゃないかと思うんだ」
「そうだね、カノジョがいなくなればダレもカイフクできなくなるもの」
プゥルゥが納得したように体を曲げて頷く。
「それにもう一人の勇者、レオが攻撃を全く受け付けない防御系のスキル持ちなんだ。こいつの体力を削るのは結構大変そうだし、その上で回復なんかされたら相当面倒臭いことになるからね」
「わお」
「だからヒルダの回復スキルを先になんとかしたい」
「さんせー」
プゥルゥがそう言うと、他の皆も同意した。
「でだ、その回復スキルを使う際に彼女は矛を使ってるんだ。映像でも見てもらった通り、矛先を地面に突き刺すと放射状に電撃のようなものが走って、それが倒れている兵士を捕まえると体力が回復する……みたいな感じだと思う」
俺は皆にも分かり易いように、画面上で三つ叉の矛を拡大表示させた。
「これは予想なんだけど、聖具だと思われるこの矛が無ければ回復スキルは使えないんじゃないかな? だったら――」
「奪う……」
そこで今まで沈黙していたイリスがボソリと呟いた。
「そう、それだ」
「……」
俺がイリスを指差すと、彼女は照れ臭そうに下を向いてしまった。
「そんな訳で、奴が魔王城に辿り付く前に矛を奪いたい。その為に皆の立ち回り方を決めておきたいんだけどいいかな?」
「「「「「「はーい」」」」」」
皆、揃って手を上げた。
「良い案があったら採用するから。どんどん意見を出してね」
斯くして、この場にいる全員でブレインストーミングが始まった。




