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159話 迫る気配

※前回までのあらすじ


 罠を設置したことが分かる目印を手に入れた!


 プゥルゥにマムゥの実のことを教えてもらったことで、設置した罠に目印を付けることが出来るようになった。



「これがあれば皆が誤って嵌まったりしないな」

「だね」



 もっと早くに知って置きたかった!



「じゃあ早速、設置して行こうか」

「うん」



 設置する為の罠は、素材が揃っていたので既に合成済みだ。

 用意出来ているのは、トラバサミ、箱罠、くくり罠、バネ式ネズミ捕りの四種類、各三十個ずつ。



 これをプゥルゥと一緒に設置して行く。



 とはいえ、森全体に設置するには、まだまだ数が少な過ぎる。

 なので森の道に沿った周辺に置いて行くことにした。



 どんな手順かというと、



 まず俺が置きたい場所に罠を設置。

 そこへプゥルゥが、体内に貯め込んでいるマムゥの果汁を口(?)から吹き付けて目印を付けるというもの。



 しかも彼女のそれが結構器用なもので、まるでカラースプレーのように文字まで書けちゃう。



 例えば、俺が草むらにくくり罠を設置すると、彼女がその側にある木の幹に、



『↓↓↓ この足下、罠あり。踏むと危険! ↓↓↓』



 という感じで注意書きをしてくれる。

 それがそこら中にある訳だから、まるで町中に書かれたスプレー落書きみたくなってた。



 これ全部見えてたらバレバレなんだけど……本当に見えてないんだよな?

 と、ちょっと不安になってしまう。



 しかし、これだけ親切に目印が書いてあれば、配下の誰かが罠に掛かることもないだろう。

 その点は安心だ。



 そんな訳で、そのまま俺達は、あっと言う間に総個数百二十個の罠を設置し終えていた。



「案外早く終わったな。これもプゥルゥのお陰だよ」

「えへへ、そんなことないよ。ボク、かじゅうをふきつけてただけだし」



 と、謙遜する。



 ざっと周囲の森を見渡すと、草葉の陰に蛍光色がちらほら窺える。



 ここまでしてやってもアイルだったら罠に嵌まりそうだよな……。

 自分から罠に嵌まりに行くスタイルだし。

 しかも今、外にいるみたいだし。



 というか、俺の予感だとそろそろ彼女の「ギャー」という悲鳴が聞こえてきてもおかしくはない頃合い。



 だから、いつそんな事が起こってもすぐに救出に行けるように身構えていたのだが……。



 特に何も起こらない。



「平和だな」



「ん? ヘイワ……だけど、どうしたのキュウに?」

「ん……いや、なんでもない」



 プゥルゥが不思議そうにしていたが、説明するようなことでもないのでそれ以上は言わなかった。



 被害が出ないならそれに越したことは無い。



 それにしてもアイルのやつ……見かけないけど、どこに行ったんだろ?




          ◇




〈アイル視点〉



 ここは死霊の森の西側。

 その外縁からほど近い場所を流れる川。



 そこにアイルは一人でやって来ていた。



 何の為かというと、この川に生息するオバケ魚と、その水の流れの中で育つサクミ大根を取りにきたのだ。



 魔王様が新しいレシピの為にその二つの食材を欲していると知った彼女は、すぐにピンと来た。

 この場所にそれが揃っていることを知っていたから。

 だから助けになればという思いが生まれた。



 それに、美味しい料理を食べさせてもらったお礼をしたいと思っていた。



 ――あのハンバーグ……とても美味しかった。だから、私も手作りの料理で魔王様を喜ばせてあげるのです!



 ここで取れるオバケ魚とサクミ大根で、何か美味しいものが作れそうな予感がします。魔王様がその二つの食材を欲していらっしゃるというのなら、これは一石二鳥ではないですか! むふふ……。



 アイルはニヤニヤしながら、自身の尻尾を伸ばし、川の中に鋭く突き刺す。



 すると、一抱えほどの巨大な魚が串刺しになって水揚げされる。

 それがオバケ魚だった。



 尖った牙を持つ、なんとも醜悪な顔をした魚だが、身は焼くとホクホクとして優しい味がする。



 ――このオバケ魚と、みずみずしいサクミ大根を魔王様が合成して下さった調味料類で煮込んだら、凄く美味しくなる気がします。出来上がったそれを魔王様に食べて頂いて……そうすれば……あの時のことは……。



 彼女はつい先日のことを思い出していた。



 魔王様から貰った温泉饅頭を食べて、サキュバスとしての本能に火が付いてしまったことだ。

 あの時のことを思い出すと、今でも恥ずかしさで顔から火が出そうになる。



 ――温泉饅頭の効果とはいえ……私自らあのように破廉恥なことを……。魔王様は私のことを軽蔑してはいないでしょうか……。



 アイルは不安な面持ちになるが、それもすぐに消え去る。

 胸の前でグッと拳を握る。



 ――でも、大丈夫です。ここで私の手料理を振る舞えば、きっと見直してもらえるはず……。



「わあ、アイルの手料理か。美味しい上に、仕事が丁寧だ。案外、慎ましい所もあるんだね」

「えへへ、そんな事ないですよ。えへへ」



 ――という具合になって、この前の失敗は帳消しにして下さるはずです。



「うふふ……」



 ――そして、更に魔王様の方から、



「見直したよ、アイル。好きだ!」

「あっ、魔王様、ダメです! こんな所で……」

「よいではないか、よいではないか」

「いや、そんな……。でも、魔王様がお望みであるならば……私は……」



 ――という展開になるかもしれません。いえ、きっとなります。



「うふふ……うふふふ……」



 彼女の中で妄想が広がりをみせていた。



 口元を弛ませ、心ここにあらずといった感じで水中にはえているサクミ大根を引き抜こうとした時だった。



「……!」



 アイルの表情が途端に鋭く引き締まったものになる。



 川向こうに広がる平原にただならぬ威圧を感じたのだ。



 顔を上げ、平原の彼方に目を向けると、そこには数千の騎兵がこちらに向かってきているのが見えた。



 彼女は川から上がり、目を凝らす。



 すると、騎兵達の先頭に白銀の鎧をまとった男女がいることに気がついた。



「あれは……勇者……ですか」



 アイルはそれが分かると、美味しい獲物を見つけた者のようにニヤリと笑みを浮かべた。


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