逆
「そうか、確かに、我々は人間を殺してきた。」
私の前に一人の青年が対峙していた。彼は強い。私などより遥かに。恐らく誰も超えることはできない。
彼はその力をもって、我が同胞を沢山と殺してきた。
「ただ、な。貴様に問おう。貴様は正義か?」
青年は呆れたように笑った。
「当たり前だ。」
当たり前、か。
「我らの同胞···貴様らは魔物と呼ぶのだったな。それを幾万と殺してきてか?」
「あのねえ、あんたら魔物も人間を殺してきたでしょ?」
青年は未だに呆れた顔つきでそう言う。
「そうか、なるほどな。確かに我々は人間を殺してきた。···それは正義か?」
「はあ?正義じゃないに決まってるでしょ。」
やはり、か。
「青年よ、貴様は何者だ?」
「え?俺?俺はリウ。あんたを殺しにきた人間だ。」
「そうか、だろうな。いや、そんな事を聞いているのでは無い。貴様は神か?」
「違うけど。」
「ならば貴様は正義ではない。」
青年は何を言っているんだ?とまるで言っているかのように黙っていた。
「正義というのは罪だ。悪意よりも遥かに罪だ。わかるか?貴様にとって魔物というのは悪で、それを征伐する者は正義である。しかし、我々にとってそれは逆だ。いや、むしろ、全くの別物だ。逆とか正とかの問題ではない。そういう次元にないのだ。」
「つまり、俺を悪と言うのか?」
「そうだ、れっきとした悪だ。ときに貴様、何故我らが人間を殺すかわかるか?」
「知らねえよ。」
「ならば教えてやろう、生きるためだ。」
「生きるため?」
青年の顔は釈然としていない。
「貴様らが牛やら鶏やらを食うのと同じ、我々の主食は人間である。たまたまそうなるのだ。これは自然の摂理で、抗うべきでない事実なのだ。鮫に食われる鰯が仇討ちをするか?」
「だったら、俺達は素直に食われろと?」
「違うな。」
「何が違うんだ。」
私は黙っていた。敢えてだ。
この青年は強い。が、無知だ。すべてをその力のままに手にしている。それでは駄目。ただの道化、天狗。
私を倒すに相応しく無い。
「貴様は己の力を過信し過ぎている。所詮、人間の力というのは我らに叶わぬ。しかし、貴様はそうでない。負けを知らない。だから、進化が無い。万物が進化する中、貴様だけが取り残される。」
「は、負け惜しみか?」
「そうかもな。」
この青年は恐らく、いや、確実に、私より人間を知らない。
ただ、そんなことはどうでもよい。
「貴様は英雄となるだろう。しかし、一方で、悪名高き極悪非道な人物となるだろう。」
「英雄にはなっても、極悪非道な人物なんかにはならないけどな。」
いや、なる。断言する。
一面のみを考えて、もう一方を知らぬ。青年の脳には私を倒し、そして無事に帰ることしか考えていないだろう。
その裏を知らない。全てを一人で背負うせいで悲劇を知らない。
「まあ、いい、貴様のその圧倒的な力で私を殺せ、ただ、一つだけ貴様の街に土産を届けておいた。」
「そりゃどうも。」
私はやはり圧倒的な力で殺された。
それでいい、彼には私の土産の意味もわからぬだろう。それが滑稽で仕方なく、そしてもどかしくもあるのだ。
如何でしたでしょうか。最近はこういうことばかり考えていて、どうしようもなく、まあ、書いて見たわけです。僕としては、答えを書いてはいけないように思ったわけなので敢えて書きませんでした。
僕の考えていることがわかって貰えればいいと思います。
では。