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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第十章 それぞれの想いの中で
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四十四


「なぜ、兵を引き返させた?」


メナスは舌打ちをしながら、目の前で膝を折っている男、ハリアを見つめている。


「ティア様は翼人の里へと無事に帰られた、とのこと。そこまで追う必要もないだろうと……それにあのような沼地で待機させられた兵の疲弊ぶりでは、ティア様をたとえ追ったとしても、山越えは保たないと判断した」


「だが、きっちりと殺してこいと、私は言わなかったか?」


「なぜ、そこまでティア様を……」


すぐにそのハリアの言葉を遮って、強い声で言い切った。


「邪魔なのだよ」


見下すような目で、空を見つめる。そんなメナスの様子を見て、ハリアはそこまで、とは思った。


「ティアがいると、リンドバルク様の目が本道より逸れてしまうのだ。いつも、とんだ回り道になってしまう」


「それくらいは許されませんか……」


ギロリとハリアを見る。その目が冷ややかで、熱の欠片も感じられない。


「ハリア、お前もリンドバルク様を憎んでいるのだろう」


そのことを言われると、ハリアはいつも胸が痛んだ。自尊心はいたく傷つき、そしてリンドバルクに浴びせられた罵声が、頭の中で響いて消えない。


あれは、ティアがまだ宮廷の奥にいた頃、ティアにこっそりと野の花を摘んできて欲しいと頼まれたことがあった。


ハリアは平民出とはいえ、身体も頑丈で近所に住んでいた剣の使い手に剣術や柔術を教わっていてその技術があった。近衛兵団の欠員があった時、一枠しか募集がなかったのにも関わらず、日々鍛錬に励んだこともあって、見事に狭き門を突破して近衛兵となった。


すると、剣術柔術で右に出るものはおらず、ハリアはその才能を発揮して、トントン拍子に近衛兵団の団長となったのだ。


団長ともなれば、宮廷の警備についての話し合いにも出る機会も多く、翼人と呼ばれるティアの姿を垣間見る機会も多い。


そんな中、ある日ティアに呼び止められ、その理由は言わなかったが野の花を摘んできて欲しいと声を掛けられた。女の子らしい、可愛い頼み事だと思った。


「私はその……外に出ることは許されておりませんので……あの、で、できたら、この籠にいっぱいになるくらいの……」


「お安いご用ですよ」


宮廷の奥から一歩も外へ出してもらえないティアを不憫に思い、辿々しく不安げに頼んでくるティアを安心させるために、ハリアは了承した。


それが。


「二度と、ティアに近づくな」


花を渡す場面を、リンドバルクに見られてしまったのだ。


以前から、リンドバルクの妹ティアに対する執着心が異常であるとは感じていた。だから、今回の騒動に頭を下げながらも、野の花ごときで、と反抗心が湧き上がった。


「ティア様はただ、野の花を集めたかっただけで……彼女をもっと自由に宮廷の外に、いや、中庭くらいは……」


その言葉にすかさずリンドバルクが言葉を下した。


「俺にたてつくとは、いい度胸だ、ハリア。お前はティアに二度と近づくことはならん。だが、近衛兵となれば宮廷の警護が仕事。その仕事をティアに会うなと言って取り上げては、なんとも可哀想だ」


「リンドバルク様、」


「お前は、外回りの警備隊に降格する」


「なっ、リンドバルク様っっ」


「もちろん、一兵卒からだ」


「待ってください、私が何をしたと言うのでしょうか‼︎」


「もういい、出て行け」


「リンドバルク様っ‼︎」


「うるさい、出て行けと言っている」


こつこつと鍛錬を続け、団長までのし上がってきた自負と自信が、完膚なきまでに叩き壊された瞬間だった。


(だが、あの執着ぶり。本当の妹ではないと聞いて、納得したのも事実だ)


リンドバルクは、ティアを愛している。


そして、今回の騒動。ティアを助けろと、発狂寸前の様子だと言う。


メナスが声を荒げた。


「ハリア、お前はリンドバルク様を憎んでいるはずではないか。ティアを殺せば、その復讐も叶うというのに……それなのに、おめおめと引き返しおって」


だが、ハリアにとってティアには何の遺恨もない。ティアが故郷へ帰ったと耳にし、馬の脚の部族の長にも、言質を取った。


「メナス殿。再度、派兵するにも、もう少し兵を休ませねばならぬ」


ハリアはこの時、降格された警備隊の任務を終え、リの国の軍隊に一から入り直し、今は第一師団を任されている。能力のある者は昇進も早い。リンドバルクは把握してはいないであろうが、ハリアはすでに軍隊の三分の一を、その信頼で掌握している。


「リンドバルク様を憎むお前が適任と思ったが、そんなにも弱腰の男だったとは見当違いだったな」


「メナス殿」


「まあ、いい。とりあえずはこのまま様子を見よう」


冷ややかな眼差しはすぐにどこかへと向けられた。それが一体、どこへなのか。ハリアには見当もつかなかった。



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