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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第九章 死を以って
43/54

四十二


(……温かい)


冬にあたる暖炉の火のような、ほんわりとした温度を背中に感じて、ミランは目を開けた。いつのまに眠ってしまったのだろう、すぐに記憶は呼び覚ませない。


まどろみながら毛布の中で振り返ると、そこにはルォレンの眠る顔があった。息がかかりそうなくらいの距離で、二人は寄り添っている。


ミランは幼い頃、大木の根元で寄り添ってパンを食べた時の、ルォレンの体温を思い出した。


(メイファンに連れていかれたと言っていた)


眠気で意識がはっきりしない。ぼうっと薄暗い部屋に、ぼうっと霧がかかったような頭。


(私を置いていったのではなかったのか?)


「……ミラン?」


ルォレンの頭が少しだけ動く。


「目が覚めたか?」


「ここは?」


「ハルージャに寝室を借りた」


「そうか」


ごそごそと衣ずれの音がしたかと思うと、ルォレンが手を伸ばしてくるのを感じた。ミランの肩に触れる。その手を腕へと這わせていって、ルォレンはミランの手を握った。


ほっと吐息が漏れた。


「……ミラン、ミラン、」


欲していたものが目の前にある。そんな切迫した意が含められた声で名を呼ばれ、ミランはルォレンに握られた手から力を抜いた。いや、全身を脱力させたのだ。目の前にいるのは、敵でもなく友人でもない、それは紛れもなくルォレンだったからだ。


「ルォレン」


その言葉を。堪能するような間。


「ミラン、もう一度俺の名を呼んでくれ」


「……ルォレン」


ルォレンは堪らないというように、握ったミランの手に唇を寄せた。


「ミラン、抱き締めてもいいか?」


ミランは、ふ、と吹き出すと、目を閉じて言った。


「この前はそんなのお構い無しに、強引にキスしたのにな」


「あれはっっ……あの時は、お前に会えた喜びと、その……お前を手に入れることで頭がいっぱいで……まさかこんなにも、き、嫌われているとは、……憎まれているなどとは、思いも寄らなかった……から」


最後の方は、言いにくそうに言葉を濁した。握った手に力が入って、ルォレンの緊張感が伝わってくる。


「これ以上、嫌われたくない。だから、慎重になっている」


「ふ、いい心がけだ」


そっと手を伸ばしてくる。ルォレンの身体が徐々に近づいてきて、ミランの落ち着いていた心臓がトクトクと鳴り始める。


「ミラン、」


両腕が身体を包むようにして背中に回される。近くなった身体の体温を感じると、ミランの心臓がさらに高鳴った。そのうち血液が全身を駆け巡って脳まで届き、意識もはっきりしてくるような気がした。首の傷までもが脈打ち、熱を持った。


「ミラン、ミラン、」


ぐいっと抱き寄せられ、ミランの頭はルォレンの胸に引き込まれた。密着した身体が火照り出す。


「ようやく会えた。やっと見つけた。ずっと探していたんだ。ずっとミランだけを想って、」


「……ルォレン」


「お願いだ、これからはずっと一緒にいてくれ。俺と一緒に生きて欲しい」


「…………」


「愛してる、ミラン。愛してるんだ。お前と離れてしまったら、俺はどうやってこれから生きていくんだ」


覚えのある感情だった。ルォレンが去った時、ミランこそルォレンを失い、もう生きていたくない、そう思ったのだ。


「お願いだ、ミラン」


ルォレンの。いつのまにか、その声が震えていた。


「お願いだ……」


ミランの心臓が次第に安らいでいく。ルォレンの体温。声、そして優しく背を撫でる大きな手。


目を閉じると眠気に襲われ、ミランは遠くにルォレンの言葉を聞いている。


「ミラン、キスしてもいいか?」


その言葉に、ふふと笑う。頷くと、すぐに唇を奪われた。


頬を手で撫ぜられる感覚。ふわふわと心地よい眠気に見舞われて、ルォレンのするがままにさせた。長いキスに息が上がったが、軽く浅く呼吸をすると、また唇を強く吸われる。


「ミラン、ミラン、ミラン」


唇を離し、最後にぐっと抱き締められたのを機に、ミランは眠りに就いた。


その時。


ルォレンが息苦しそうに言った言葉が耳に残った。


「必ず、迎えにいく。ミラン、待っていてくれ。誰のものにもならずに、俺を待っていてくれ」


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