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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第八章 馬の脚の部族の長ハルージャ
36/54

三十五


「マスマスキニイッタゾ……だってさ」


クサッたように言い放ってから、普段はナッツでいっぱいに膨らんでいる頬を、モニは今回ばかりは空気だけを入れて膨らませた。目一杯広げていた大きな耳を垂らすと、組んでいた腕を下ろす。


「そりゃミランは、そこら辺に転がっているただの女じゃないからね。男がミランを放っておかないってことは、わかってんだけど」


ベッドに横になり、片肘をつきその上の頭を乗せているシュワルトが、足元に丸めてある毛布の塊を、返事の代わりに蹴り飛ばした。もちろんシュワルトも、隣の部屋にいるハルージャとミランの会話は、否が応でも耳に入っている。


モニがこうべを垂れて、ぽつりと言った。


「ミランは生きたくないのかな……」


「…………」


沈黙で返す。


「……ミランには、ボクたちがいるのに」


ミランの一連の行動に、モニがショックを隠しきれていないのが、シュワルトには忌々しく思えた。


「ボクたちだってミランのことがこんなにも好きなのに……」


「……もういいよ。早く寝よう」


シュワルトは、ガバッと起き上がると、足元に転がっている毛布を引っ張り上げて、また横になった。毛布を肩まで上げると、背の高いシュワルトの足が出てしまう。足をぐっと曲げると、毛布の中にすっぽりとくるまった。


(……アイツだ。アイツのせいだ。メイファンの黒蛇、ルォレンのせいだ。アイツがミランを翻弄するんだ)


そのうち首元にゴソゴソとくすぐったさを感じ、シュワルトは迷惑顔を浮かべて、潜り込んできたモニに苦言を呈した。


「おいー、鬱陶しいんだよ。こそばいいだろ」


「いいだろ、別に。ここ、隙間風が入ってきて寒いんだよう」


「潰しても知らないからな」


「ミランとおんなじこと言うなよ」


ぶつぶつとお互い文句を言いながら、シュワルトとモニは眠りに就いた。


✳︎✳︎✳︎


「馬の脚の部族が、女盗賊ミランを仕留めたと、噂を流すんだ」


ハルージャは、そう言ってニヤリと笑った。


「そうなれば、俺たちの魔鏡石を狙う輩も減るだろう」


「わかった」


「ああ、」


馬の脚の部族の者は、四つ脚のため、相手に対してあまりその脚を折って、頭を下げることをしない。たとえ、それが長ハルージャの前でも、だ。


若い者が二人、ハルージャの言葉に頷くと、部屋から出ていった。


「噂に名高い盗賊の首を取ったとなれば、他の部族の俺たちを見る目も変わる。これで、数年は安泰でいられるだろう」


(問題は、あの翼人だ)


ハルージャは、考えた。


実はここ馬の脚の部族の住む集落と、その雰囲気から桃源郷と揶揄される翼人の住む集落とは、山を二つほど挟むだけの距離にあった。ただ、その二つの山が、簡易な装備では越せないような険しい山々であったため、その程よい距離感から、その二つの部族間で積極的な交流はなかった。


(国主リンドバルクの妹君だ。国主に返しても、翼人に返しても、どちらにせよ恩は売れる。ここに置いておくだけのメリットはない)


ハルージャは、さらに考えた。


(早く返さねば、リンドバルクが邪なものを寄越すかもしれん)


ハルージャが熟考を重ねていていたその時、部屋の外がにわかに騒がしくなった。


(なんだ、何をしている?)


部屋の外へと出ると、テントとテントの間で二つの影が暗闇の中を動き回っている。その影の一つより、ぜいぜいと苦しそうな荒い息づかいが聞こえてきていた。


「ミランっっ、何をしている」


だがそれは一方の影に襲われ、ミランが応戦しているということは、一目瞭然だった。


ハルージャは、部屋の中へと戻り、弓矢を取った。踵を返して外へと出ると、ミランは地面に倒れるところだった。


倒れたミランに、その影が覆いかぶさろうとしている。


「死ねええええ」


男が振りかぶった手元で、剣がギラっと光った。


ハルージャはすかさず、けれど冷静に弓矢を引いた。ぎり、と音がしたかと思うと、素早い動きに任せて指を離した。


びゅうっと音をさせて、一直線に矢が放たれる。


だが、剣を振り上げた腕は、そのまま下ろされた。ギンっという鈍い音がしたかと思うと、男が倒れたミランにおおいかぶさった。


その鈍い音で、剣が地面を刺したことがわかっていたので、ハルージャは構えていた次の矢をゆっくりと下ろした。


影は大きな塊となって、動かなくなっていく。


すでに手ごたえを感じていたハルージャが、ゆっくりと蹄を鳴らしながら近づき、声をかけた。


「ミラン、無事か」


影がもぞもぞと動き、男と女の呻き声が混じる。けれど、それはそのまま女の荒い息のみに、形を変えていった。


「はあはあはあ、」


ハルージャが近づくと、その影の形がはっきりと現れる。倒れたミランに、覆いかぶさった男は、すでに息絶えている様子だ。男の手の近くには、剣が転がっていた。


「……助かった、ハルージャ、はあはあ、」


ミランは苦しそうな声で言った。腕で男をぐいっと押し退けようとしては、力尽きる。


ハルージャは近づくと、男の背中の洋服を引っ張り上げ、そして横へとずらした。男の首に矢が立っている。


「ふん、急所を狙ったが、少しだけズレたようだ。お前に当たらないようにと気を使ったからな」


ハルージャの負け惜しみのような言葉を聞き、ミランは頬を緩めた。だが、ミランは男から解放されても、倒れたまま荒い息を続けている。


「病み上がりで身体がなまっていたようだから、いい運動になっただろう」


ハルージャが前脚を折り、筋肉のついた太い腕を伸ばす。腕をぐいっと掴まれ、身体を起こされる。


ミランは、クスッと笑うと、その腕に自分を好きにさせた。


「……ああ、そうだな。だが少し寝すぎてしまったようだ」


身体ごとすくわれて、ハルージャに抱き上げられる。ミランの喉元に巻いた包帯が、暗闇でぼやっと白く浮かび上がる。


「……シュワルトを呼び戻さねば、」


「あの翼人を守っているのか?」


「ああ、空の上でな」


「では、呼べ」


ミランは意識が朦朧とする中、シュワルトの名前を呼んだ。そして二度、その名を呼ぶと、意識を失って眠った。


(ミラン、お前を俺の女にするぞ)


抱き上げたミランの顔に、そっと顔を近づけると、ハルージャは頬をすり寄せ、そのミランの体温で身体を熱くした。


唇で頬をなぞっていく。伏せられたまぶたにも唇を寄せると、逞しい腕でぐいっと力強く抱いた。

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