三十
「メナス。お前に任せておけば良いとは思うのだが……メイファンの動向はきちんと把握しているのだろうな?」
双子の用心棒ルイとライをひと時ばか退出させ、リンドバルクは頭を垂れるメナスに向かって問うた。
「はい、今はメイファンに動きはありません。ミランがそれほど遠くに離れていないのでしょう。ティア様がご一緒ですので、ミランも無理はできぬはずです」
「そうか……なら良い。メナス、ミランはどこへ向かうと思う? 自分の隠れ家だろうか?」
「私がミランならば、自分の隠れ家には向かわないでしょう」
「メイファンに嗅ぎつけられる、か」
「はい。ミランは孤高の女盗賊として名を知られています。仲間も限られており、少人数で移動するのでその動向も掴みにくい」
「ああ、あの竜族の男か」
「はい。主にあの男とペアを組んで仕事をしているようです。無論、世間の者はミランがどこに居を得ているのかも、知ってはおりません。そんな完全で完璧な隠れ家を、メイファンとリンドバルク様の二方から追われる身となった今、手放すことになるような真似はしないでしょう」
「……二方から、と言ったか?」
リンドバルクがぎろ、と強い眼差しをメナスに向けた。その睨みでメナスの鉄面皮も崩れるかと思いきや、メナスは目を細めただけだった。
「何もするな、ミランに任せろ、と言わなかったか?」
「仰る通り、護衛も用心棒もつけてはおりません。ただ、何かあってからでは遅いと、動向だけは耳に入れております」
「……そうか。なら良い。メナスよ、お前は先回りが得意なようだが、あまり考えが過ぎてしまうと、回った先が見当違いの場所だった、ということにもなりかねんぞ」
「肝に命じます」
メナスは軽く頭を下げると、退席し、部屋を後にした。ドアの両脇にはルイとライが微動だにせず、立っている。
「メナス殿、話は終わりましたか?」
ルイが訊く。
「ああ。だが、まだ時間は掛かりそうだ」
曖昧な返事で、双子を翻弄する。
(国政もあるというのに、まったく……こと妹君に関しては、いつも本当に面倒臭いことになる)
思った通り、眉をひそめた二人は顔を見合わせると、次にはライが口を開いた。
「ミランはまだティア様を連れて?」
さも意地悪そうに、メナスが言い放つ。
「なんだ、お前たちもミランの尻を追いかけたいのか?」
「……い、いえ、俺たちは別に、……ただ罪を犯した男を牢から出すとは、と、」
「いいのだよ、ガナシュに任せておけば。あれは、お前たちと違って、やると言ったからには必ずやり遂げる男だからな」
ただ、それが皮肉であり意地悪な意を含む言葉であるという自覚が、メナスにはあった。
予想通り、双子は押し黙り、そしてバツの悪そうな顔をした。
リンドバルクが暴漢に襲われた時、ミランに助けてもらったという事実が、まだ双子の中の根っこのところで、ぶすぶすとくすぶり続けているからだ。
(これで、この双子はリンドバルク様の前では、その口を一層、噤むだろう)
人心を掌握することに長けた男は、鉄面皮を貼り付けたまま、その場を離れていった。




