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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第一章 女盗賊ミラン
3/54


「それにしても、ここはなんて窮屈な場所なんだ」


ミランは、宮廷の中を歩きながら、そう呟いた。


「まったく、どこを歩いても女ばかりだ」


それもただの女ではない。化粧をし煌びやかに着飾った、観賞用の魚のような女たちだ。


「もーっ‼︎ なんだよ、ここはっ‼︎」


ミランの胸ポケットから、不服そうな声が上がった。


「だだっ広いだけで何にもありゃしないっ‼︎ 必要なものはメナスに頼めと言っていたのに……そもそもそのメナス本人がどこにもいないじゃないかっ」


「モニ、お前の自慢の耳はまだおねんねか?」


「失礼なっ‼︎ 足音がたくさんの割に話し声が極端に少ないから、聞き取れないんだよっ」


「それにしても、こう闇雲に探し回っていても、無駄足が増える一方だ」


ミランが、きょろと辺りを見回すと、廊下を足早に歩く一人の女の姿が見えた。かかげるように差し出した手に、何かの荷物を乗せている。垂れ下がっている布のひらひらとした感じと豪華な刺繍飾りから、女物の高級なドレスのようだった。


「すまないが、そこの方。ちょっとお尋ねしても良いか?」


ミランが声を掛けると、女官が足を止めた。


「はい、どうぞ」


「メナス殿のお部屋はどこだ?」


「……メナス様、ですか。今から近くを通りますゆえ、ご案内いたします」


「すまない」


ミランが女官と肩を並べて歩く。


二人が気の遠くなるほどの長い廊下に差し掛かった時、ふいに窓ガラスがガタガタと震え始めた。


その震えは次第に大きくなり、時々波を打つように、ガシャンと大きな音をさせる。


「きゃあ、何かしら」


女官が後ろへと後ずさった。


「窓ガラスが割れそうですわっ」


ビビビと共鳴するような音が廊下に響いたかと思うと、さらにガラスがガタガタと震える。


ミランは、溜め息を吐きながら、窓へと近づいていった。


「お客様、危のうございます」


「大丈夫だ。驚かせてすまないな」


ミランが窓を一枚、開け放つ。その瞬間、ぶわっと強い風が入り込んできた。


その風は、一つにまとめてあったミランの栗色の髪をほどくと、バサバサとたなびかせ、女官のスカートの裾をも、ふわりふわりとまくりあげた。


「おい、シュワルト、いい加減にしろっ‼︎」


ミランが叫ぶ。


すると、空から一頭の竜が降りてきて、その羽ばたきを止めた。すうっと降下し、そっと地面に足を着く。大きな翼を折りたたむと、ミランが開けた窓に、その細長い顔を突っ込んだ。


「ミラン、その女の子、紹介してよ」


普段から空を飛ぶ乗り物として利用されている竜は、このリの国の空で見かけるのは珍しくない。ただ、言葉を話す竜は数千頭に一頭の割合でしか生まれず、珍重されている。


いかつい顔が迫ってきて、女官はきゃあっと驚いて、後ろへと下がった。


「お前の女好きはもはや病気だな」


ミランが呆れて言う。


「これ、あげてくれない?」


庭園で摘んできたのだろう、バラの花の束だ。短い手を窮屈そうに顔を入れている窓から突っ込むと、シュワルトはミランへと花束を差し出した。


窓から顔を突っ込めるくらいに、シュワルトは竜の中でも小型な方だ。


「お前が直接やればいいだろう」


「わかった。自分で口説くよ」


シュワルトは突っ込んでいた顔を引き抜き、一二度足踏みをしたかと思うと、次第にその姿形を変えていった。


あっという間に、一人の男となる。


碧眼に艶のある金髪。


竜から変幻したというのにもかかわらず、紳士なスーツをちゃんと着ている。


いつ見ても不思議な光景に、ミランは慣れていた。


が、過去に一度、疑問を口にしたことはある。


「いつのタイミングで服を着るのだ?」


ミランが言うと、シュワルトはその整った真面目な顔を崩さず、返した。


「僕の裸、見たいの? いいよ、でも一つ条件がある。ミランも一緒に脱ぐんだよ」


いそいそと服を脱ぎ始めたシュワルトの喉元に、剣を突きつけたという経緯があり、それからは一切その疑問については触れないようにしている。


「この格好なら、口説きやすい」


そう言いながら開いた窓を長い足でヨイショとまたいで、シュワルトは廊下へと入ってきた。ビクビクと恐れ慄いている女官に近づくと、花束を差し出しながら、女官の腰を抱いた。


「ねえ、キミ可愛いねえ。今から僕とデートしない?」


女官が頬を染める。


それほどの、正統派イケメン顔だ。


ミランは腰に手を当てて、呆れながら言った。


「悪いが、その女性とのデートは、私が先約だ」


「えっっっ」


シュワルトが、ばっと両手を挙げ、ミランへと振り返った。


「ミランっっ、まさかオマエっっ」


驚くシュワルトの手からバラの花束を取り上げると、ミランは女官の胸に花束を抱かせた。


「さあ、こんなのはほっといて、メナス殿のところに案内してくれ」


女官の背中に手を添えて促す。


「あ、ちょっと、僕も一緒に混ぜてよっっ」


慌てて、シュワルトが女官とミランの両肩を後ろから抱くと、三人はそのまま歩いていった。

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