二十五
「……あの時の芋は、どうなったのか」
ミランは、湯の中で立ち上がると、ゆっくりと段を登った。
身体からは白い湯気がほわりほわりと立ち昇っていて、温泉の湯がミランの身体を温めたことを物語っている。薄暗い夜の帳の中、ミランの真っ白な肌がぼやっと浮かび上がった。
ミランは大きな木の株にかけておいたタオルを取ると、身体全体に滑らせて水分を拭き取った。タオルを元の場所に放り投げると、あの日のことをもう一度思い出す。
正直、その時の芋がどうなったのか記憶は定かではない。
覚えていないのだ。
大木に着いた時、そこにルォレンの姿はなかったが、すぐにルォレンは戻ってくると思っていた。だが、いつまで経っても戻らない。
待っても待っても帰らないルォレンを探し、あてもなくふらふらと街や市場を彷徨った。
(ルォレン、どこに行っちゃったの?)
悪い予感を抱えながら、急いでミランは大木に戻る。
けれど、やはりルォレンはいない。
「……ルォレンは、……どこなの? どこに行っちゃったの?」
絶望した。まさか、と思おうとした。一ヶ月、大木に通ったが、やはりルォレンは戻ってこなかった。その間にも、市場などで盗んできたルォレンのための果物やパンが、一つ一つと増えていっては腐っていく。
そして。
唐突に理解した。
自分は捨てられたのだ、と。
「ルォレン、どうして……どうして、どうしてっっ」
涙がとめどなく流れ落ちる。泣いても泣いても、目や頬がヒリヒリと痛むのみで、心は救われなかった。
「どうして、離れていったの? 私が、嫌いだったの?」
幼い心は、悲しみでいっぱいになり、溢れてこぼれた。
(もっと、食べ物を盗ってくれば、ルォレンは離れていかなかったかもしれない……)
後悔のような気持ちも湧き上がってきて、ミランを責め立てた。
けれど、やはり裏切られたという気持ちが、日に日にその量を増していった。
(どうして、私を置いていったの? なんで、私をひとりぼっちにしたの? ひどい、ひどいよっっ)
大声をあげて泣いた。
市場の大男に殴られても、養父母に罵倒され踏みにじられても平気だった心が今、悲鳴をあげて壊れていく。
ミランはある日突然、姿を消した幼馴染を、いつしか憎むようになっていった。
「……今さら私の前に現れて、どうだと言うのだ……私は許さない、そうだ、許せないのだ」
裸の身体に、夜着を羽織る。その上から大刀を提げると、ミランは宿屋へと戻る暗い小径を、歩いていった。




