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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第六章 首領ルォレン
23/54

二十二


「ルォレン様あぁ」


甲高い声が地下道に響き、ルォレンは後ろを振り返り、足を止めた。


「マチ、どうした?」


小さな背を少しでも大きく見せようと、マチはかかとの高いクツを好んで履いている。そのクツを重そうに引きずりながら、ルォレンの横に並んだ。


マチは盗賊団メイファンの一員で、まだ見習いの少女だ。二十代後半のルォレンに対して、マチはまだ十七歳。少しおっちょこちょいなところはあるが、元気で明るいため、皆から好かれる存在だ。


「ルォレン様っ、今日は私の誕生日ですよっっ」


ぴょんぴょんと跳ねながら、笑顔を振りまく。ツインテールが同じように飛び跳ねて、ウサギのようだなとルォレンは思った。ルォレンはそんなマチを自分の妹のように可愛がっていた。


「ああ、そうだったな。ようやく十七になったか」


「はいー。プレゼント、この前言ったあれ、ちゃんと考えてくれました?」


ルォレンが途端に困った顔を浮かべた。


「あのなあ、プレゼントがこんなオッサンとのキスとは、お前、嫁に行き遅れるぞ」


「いいんですー。あたし、ルォレン様の奥さんになるんだからあ。それにルォレン様は決してオッサンなんかじゃありませんっっ」


「俺は誰とも結婚しないと言っているだろ? バカなこと言ってないで、さあ欲しいものを言ってみろ。短刀か? それとも飛びナイフか?」


「ルォレン様のキスですー。絶対、譲れません‼︎」


「はああぁ」


確かにマチは愛嬌があり可愛い。けれど、ルォレンにとっては妹のような存在であり、恋愛対象にはまるで入らない。


「どうして、俺なんだ?」


ルォレンが問う。


「だって、恋人を作らないルォレン様にキスしてもらえば、皆んなから羨ましがられるから……」


「お前はそんなことのために、大事な恋人との初キスをドブに捨てるのか?」


「ルォレン様のことが好きだから良いんですっっ‼︎ さあ、さあっ‼︎」


ググッと寄せてくる身体を押し戻すが、マチはそれでも近寄ってくる。


「……仕方がないな」


マチの両肩に手をかける。ぐいっと引き寄せると、ルォレンはマチの額に軽くキスをした。


「え、あ、え?」


マチがおでこに手を当てる。


「これで勘弁しろ」


半笑いを浮かべながら、ルォレンが手を振る。そのまま地下から地上へと繋がる螺旋階段を、一気に駆け上がった。


「ちょっっとおおぉ、オデコだなんて聞いてないっっっ」


背中に掛かる声を聞きながら、ルォレンは駆け上がった。地上への扉を開ける。そして外へと出ると、ルーエン街の郊外へと向かった。


「あああ、今日は天気が良いな」


暖かい陽の光が差していて、小鳥のさえずりが響く小径をゆく。少し行った先に草原が広がり、ルォレンはそこにある一本の大木の根元に転がった。


両手を頭の下に差し入れ、空を見上げる。


こうして、大木の根元で昼寝をするのが、日頃は忙しいルォレンの楽しみの一つだった。


(……ここはあの、大木を思い出す)


幼い頃、ミランと一つのパンを分け合った。


血の付いたパン。ミランが命がけで盗ってきた小麦色の丸パン。


盗賊団の首領となってからは、高級な料理も口にした。けれど、ミランがくれた丸パンに勝るものは無かったのだ。


「ミラン、お前とキスができて、」


そっと自分の唇を触る。


「……何という、幸福感だ」


ミランをベッドに押さえつけた時、今までに感じたことのない興奮が奥底から湧いてくるのを感じた。


唇を、ミランの唇に押しつけると、ミランは目を瞑るでもなく、自分を睨み続けた。


(……幼い頃、ミランを置き去りにして去った俺を恨んでいる)


手の甲を額に乗せる。


(俺を、憎んでいる……)


ぶわっと胸に熱いものが広がっていった。


極端な幸福感と苦痛の落差。


「ミランに逢いたい」


逢って、話をして和解し、そして。


「愛し合いたい」


孤高の女盗賊ミランの噂。耳にはしていたが現実味はなかった。


あんなにも逢いたいと切望していたミランは、想像していたより美しく、そして相変わらず強かった。


(腹に一撃を食らわされるとは)


苦く笑う。


あの時。


丸パンを分け合った時。わざとルォレンはミランの血がついていた方を選んだ。丸パンを口に入れると、ミランを自分のものにできたような気がして、ルォレンはそれだけで昂ぶった。


(ミラン、愛しているんだ。あの時からずっと)


「愛しているから、……離れたんだ」


『ルォレンー‼︎』


丸パンで膨らませた腹を抱えながら、手を振って駆けてくる。


ルォレンは、愛しいミランのその姿を何度も思い出しては、今を生きている。




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