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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第五章 リの国の国主リンドバルク
22/54

二十一


その頃には、病気で寝たきりの父親の代わりを、リンドバルクは弱冠二十歳にして十分に務めており、何もかも全てのことを自分の思い通りにできていた。


「執務もしっかりと行っておられ、リンドバルク様はすでにご立派な国主様であらせられるな」


宰相のメナスもそう言い、近隣の貴族たちも口を揃えてそう言った。


ついに、長い間寝たきりであった国主の死が近づいた。


「父上、ご安心ください。このリンドバルクが、貴方の代わりを立派に務めてみせますゆえ」


皮肉たっぷりに言ったつもりが、皮肉を交えて返されるとは思ってもみなかった。


死ぬ間際、父親が言った言葉が脳裏から離れない。


「リンドバルクよ、翼人つばさびとは人間との子を産むことができん。お前は跡継ぎを残していかねばならぬ。誰でもいい、人間の女と結婚しろ。そして、」


あれほどに力強く生命力に溢れていた声がかすれ、次第に小さくなっていく。


「……子を成すのだ。血を、途切れさせるな」


父親に気づかれていた。自分がティアを愛してしまっていることを。


リンドバルクは驚きはしたが、父親の死が近づいた今、何を言われようが気に留めなかった。


「翼人は美しい。俺もひととき、心を奪われた……」


(……それでティアをさらってきたのか)


吐き気がした。


けれど、ティアを奥の間に囲っている自分にもまた、唾を吐きたい気分になった。


「だが、人とは交われないのだ」


翼人と人間とが結婚できないと言うなら、やはりティアは父親が成した娘ではない。


そして、自分もまた、何者なのか。


リンドバルクは、その事実が滑稽すぎて、自分で自分を笑いたい気持ちになった。


(血は、……繋がっていないのだ。俺とこの男とは。……そして俺とティアも、同じように血は繋がらぬ……俺は一体、何者だというのだ。このリの国の国主であってもいいのだろうか……ティアを愛しても許されるのだろうか……)


冷静に考えるリンドバルクをよそに、父親は言葉を続けた。


「リンドバルクよ、秩序を重んじろ。国を守るのだ。この国を、……結婚し、跡継ぎをこさえるのだ」


父親は何度もそう言って、静かに息を引き取った。


(貴方ができなかったことを、俺に託そうとしているのか?)


『跡継ぎ』


その言葉が呪縛のように、リンドバルクを締め上げる。


(この国を守るためには、ティアとは結ばれてはいけないというのか?)


リンドバルクは、思った。


(ティアが……俺と、……人と結婚できないというなら、)


こぶしを握り込む。


(……ティアを翼人の世界へ返さねばなるまい。そうすればティアはそこで家族を持つことができる。そして幸せに暮らすことができるのだ)


涙が知らぬうちに流れていた。


(そうか。そうなのか。……では、ティアが大人になったら翼人の世界へと戻してやろう……それまでは、俺の妹として、側に置くだけだ)


必死に。こう思おうと努力した。


(ティアは妹だ、妹なのだ。愛してはいけない。妹を愛してはいけないのだ)


何度も自分に言い聞かせる。


それ以来、リンドバルクは周りにたくさんの女を寄せて、ティアとは距離を置いた。ティアを着飾らせて、賓客に「妹」として紹介し、間違いが起きないようにと、外堀を埋めていったのだ。


本当の心に蓋をして。


(いつか外の世界を見せ、本来いるべき世界へと返さねばと思っていたが……)


「このように長い時間が、掛かってしまうとは、な」


ティアを盗賊団に連れ去られ、初めは辺り構わず怒り狂うだけであったが、ふと、これが良い機会と考えを反転させた。


自嘲の笑みを浮かべる。


「しかも他の者の手を借りてとは、……自分のことながら笑ってしまう情けなさだ」


ミランに託す。そう決めたはずだが、ティアのことが心配で夜も眠れていない。


「妹離れとは、思ったよりも難しいものだな……」


さらに笑うと、眠れぬ夜を過ごすため、リンドバルクはベッドへと滑り込んだ。



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