二十一
その頃には、病気で寝たきりの父親の代わりを、リンドバルクは弱冠二十歳にして十分に務めており、何もかも全てのことを自分の思い通りにできていた。
「執務もしっかりと行っておられ、リンドバルク様はすでにご立派な国主様であらせられるな」
宰相のメナスもそう言い、近隣の貴族たちも口を揃えてそう言った。
ついに、長い間寝たきりであった国主の死が近づいた。
「父上、ご安心ください。このリンドバルクが、貴方の代わりを立派に務めてみせますゆえ」
皮肉たっぷりに言ったつもりが、皮肉を交えて返されるとは思ってもみなかった。
死ぬ間際、父親が言った言葉が脳裏から離れない。
「リンドバルクよ、翼人は人間との子を産むことができん。お前は跡継ぎを残していかねばならぬ。誰でもいい、人間の女と結婚しろ。そして、」
あれほどに力強く生命力に溢れていた声がかすれ、次第に小さくなっていく。
「……子を成すのだ。血を、途切れさせるな」
父親に気づかれていた。自分がティアを愛してしまっていることを。
リンドバルクは驚きはしたが、父親の死が近づいた今、何を言われようが気に留めなかった。
「翼人は美しい。俺もひととき、心を奪われた……」
(……それでティアをさらってきたのか)
吐き気がした。
けれど、ティアを奥の間に囲っている自分にもまた、唾を吐きたい気分になった。
「だが、人とは交われないのだ」
翼人と人間とが結婚できないと言うなら、やはりティアは父親が成した娘ではない。
そして、自分もまた、何者なのか。
リンドバルクは、その事実が滑稽すぎて、自分で自分を笑いたい気持ちになった。
(血は、……繋がっていないのだ。俺とこの男とは。……そして俺とティアも、同じように血は繋がらぬ……俺は一体、何者だというのだ。このリの国の国主であってもいいのだろうか……ティアを愛しても許されるのだろうか……)
冷静に考えるリンドバルクをよそに、父親は言葉を続けた。
「リンドバルクよ、秩序を重んじろ。国を守るのだ。この国を、……結婚し、跡継ぎをこさえるのだ」
父親は何度もそう言って、静かに息を引き取った。
(貴方ができなかったことを、俺に託そうとしているのか?)
『跡継ぎ』
その言葉が呪縛のように、リンドバルクを締め上げる。
(この国を守るためには、ティアとは結ばれてはいけないというのか?)
リンドバルクは、思った。
(ティアが……俺と、……人と結婚できないというなら、)
こぶしを握り込む。
(……ティアを翼人の世界へ返さねばなるまい。そうすればティアはそこで家族を持つことができる。そして幸せに暮らすことができるのだ)
涙が知らぬうちに流れていた。
(そうか。そうなのか。……では、ティアが大人になったら翼人の世界へと戻してやろう……それまでは、俺の妹として、側に置くだけだ)
必死に。こう思おうと努力した。
(ティアは妹だ、妹なのだ。愛してはいけない。妹を愛してはいけないのだ)
何度も自分に言い聞かせる。
それ以来、リンドバルクは周りにたくさんの女を寄せて、ティアとは距離を置いた。ティアを着飾らせて、賓客に「妹」として紹介し、間違いが起きないようにと、外堀を埋めていったのだ。
本当の心に蓋をして。
(いつか外の世界を見せ、本来いるべき世界へと返さねばと思っていたが……)
「このように長い時間が、掛かってしまうとは、な」
ティアを盗賊団に連れ去られ、初めは辺り構わず怒り狂うだけであったが、ふと、これが良い機会と考えを反転させた。
自嘲の笑みを浮かべる。
「しかも他の者の手を借りてとは、……自分のことながら笑ってしまう情けなさだ」
ミランに託す。そう決めたはずだが、ティアのことが心配で夜も眠れていない。
「妹離れとは、思ったよりも難しいものだな……」
さらに笑うと、眠れぬ夜を過ごすため、リンドバルクはベッドへと滑り込んだ。




