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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第五章 リの国の国主リンドバルク
21/54

二十

「に、兄様、どこですか?」


柱の陰に隠れて、リンドバルクは高揚する心臓を、抱えていた。


うろうろと頼りなげに歩くティアの姿。両の手をぎゅっと前で握り合って、靴下だけの足をそろそろと床に沿わせている。


その足元に気づくと、リンドバルクはちっと舌打ちをした。


(……リナのやつ、またティアのクツを盗ったな)


ティアの身の回りの世話をする女官が、ティアを虐めているのをリンドバルクは知っていた。リナは手癖も悪いが、口も悪い。ティアの物を盗っては売りさばいたり、自分のものにしたりする上、ティアに向かって罵詈雑言を浴びせかけていた。


(父上に、世話係を代えてくれと頼んでも、知らんぷりだ。くそっっ、あれではティアの身体が冷えてしまう)


隠れんぼと称して、ティアを呼び出したのだが、呼び出した張本人が待ち合わせの場所に居ないと知ると、ティアはリンドバルクを不安な表情で探し始めた。


「兄様、どこにいらっしゃるのですか?」


「ティア、ここだよ」


か細く震える声に、リンドバルクは堪らなくなり柱の陰から出た。すると、ティアは喜んで、小走りで走ってきて、リンドバルクの懐に飛び込んだ。


「兄様、見つかって良かった」


リンドバルクが背中に手を回すと、この時はまだ小さな白い翼が、ふわふわと揺れた。


「ティア、お前、クツはどうしたんだ?」


抱きついたまま、ティアは顔を上げた。


「クツを履くのを忘れてしまったのです」


ニコッと笑う。その頬には茶色の涙の跡が付いていた。リンドバルクはその跡を見る度に、胸が痛む思いがした。


「では、マリアに言って、新しいものを用意させよう」


忘れたと言っているのだから、その通りならクツはティアの部屋にあるはずだ。おかしなことを言う兄を、それでもティアは抱き締めた。


「……ありがとうございます。兄様」


「ティア、隠れんぼはもうやめよう」


「はい。私、本当は……隠れんぼはあんまり好きじゃありません」


リンドバルクが翼を撫ぜる。ふわふわとした感触が心地よく、羽の向きに気をつけながら、手を沿わせた。


「どうしてだ?」


「だって、兄様がどこかに行ってしまわれるんですもの」


実は何度か、隠れんぼと言っては、ティアをその場に置き去りにしたことがあった。


よく泣き、そして自分の内をあまり出さないティアに、最初は苛々とした黒い気持ちしか持たなかった。


けれど、ティアのその純粋さ。純真な心を抱えたまま、ティアは成長していった。翼と同じように、真っ白なまま。


そんなティアの側で過ごすうちに、リンドバルクの気持ちもほぐれていった。


そして、いつしか。


「大丈夫。もう、どこにも行かないよ」


ティアが涙目で笑う。


「……良かった」


いつのまにか。


愛してしまうようになった。


もう永遠に手放せないと。自分以外の男の目に触れないようにと。


リンドバルクはティアを宮廷の奥に囲ってしまうようになった。


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