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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第四章 翼人の姫君
19/54

十八

「ティアはそんなことやらなくていいんだよ」


モニがティアの肩で、小さくジャンプする。ティアが急に立ち上がったので、モニは肩から滑り落ちそうになり、その絹糸のような黒髪に、ぎゅっと掴まった。


「でも、洗濯ぐらい」


籠に入れた洋服や下着を抱えて、温泉への小径を降りていく。温泉場の横に設けてある木板のところで、ティアは洋服を洗い始めた。


「リーリアに教えてもらったの。もう二度目だし、一度目は失敗してしまったけど、今度は大丈夫」


「え、洗濯失敗するって、何やったの?」


モニがティアから降りて、籠の側に来る。


「……そ、それは、」


言いにくそうに口ごもりながら、ティアは湯の中でゴシゴシと手を動かす。


「僕のパンツを投げて、木に引っ掛けちゃったんだよ」


後ろからシュワルトの声がして、ティアは身体をビクッと揺らした。


「しゅ、シュワルト、」


慌てて、振り返る。


「僕、自分で洗おうか?」


「えっと、今日は大丈夫……だと、思います」


洗った洋服を両手で絞る。


「あああ、ほらあ。まだ、ビチョビチョだよ。これじゃあ、いつまで経っても乾きゃしない。貸して」


シュワルトがティアから濡れた洋服を受け取ると、ティアの横にしゃがみ込んで絞る。


ぼたぼたとかなりの水が落ち、シュワルトは洋服をパンパンとはたいた。


「これでよし」


「あ、ありがとうございます」


「ティアは非力だから、こういう力仕事は向いてないかもね」


シュワルトが言うと、ティアはがっくりと肩を落とした。


「なかなかお役に立てません」


「シュワルト、そんな言い方しなくてもいいじゃん」


モニが腕組みをして、足をトントンと鳴らした。


「でも事実じゃん。僕、色んな女の子と遊んできたけど、こんなに何もできない子、初めてだよっっ」


「シュワルト、いい加減にしろよ」


「いいんですよ、モニ。本当のことだから。実際、私、何にもできないし」


次の服をジャブジャブと洗う。


「ミランは何でもできて、本当に素晴らしい女性です」


「そりゃそうだ。ミランはとにかく別格だよ。優しいし強いし美人だし頭いいし盗みも上手いときてる。こんな女の子、他に見たことないからね」


「なんでシュワルトがそんな鼻高々なんだよ」


モニが不満そうに言う。


「恋人を自慢して何が悪い」


「はああ⁉︎ シュワルトのそのバカみたいに自分が世界の中心だって思ってるとこ、ほんと見習いたいよ」


モニが頬袋からナッツを取り出し、かじりながら言った。


「……ミランは恋人は作らないんだよ」


「ムカっ、確かに僕は正式な恋人じゃないかも知れないけど、恋人に一番近い存在だ」


「女の子の尻ばかり追いかけているヤツが何言ってるんだよ」


「ふんだ。別にいいじゃん」


シュワルトがティアから受け取った服を絞る。絞ってから広げて籠に入れるを繰り返し、シュワルトは濡れた手を何度もぴっぴと振った。


「……あの男、ミランの恋人かも知れない」


モニの呟きに、シュワルトが反応した。


「はあああ⁉︎ 何だって⁉︎ 誰のこと、それ誰のことっっ⁇」


「盗賊団の首領だよ。幼馴染だってさ」


「黒蛇⁉︎」


「ミランとキスしてた」


「えっっ⁉︎」


その瞬間、シュワルトが絞っていた服が、ビリっと音を立てた。


「シュワルト、服が破れたみたいですよ」


「……そんなの初耳だよ。でもそれ男が無理矢理にだろ? くそ、それでもムカつくけどっっ」


「うん、まあそうなんだけど……」


そこから長い沈黙が始まった。その沈黙に耐えかねて、ティアが言った。


「ミランは魅力的な女性だから」


ぶすっとむくれるシュワルトの顔を窺いながら、ティアが最後の洗濯物を洗う。


「でも、ミランがシュワルトとモニを一番に信頼しているのが、よくわかるわ」


「当たり前だよっっ。ボクたち、ずっとミランと一緒にやってきたからね」


「まあね、僕たちはまあ戦友って感じかな」


「それ恋人じゃないじゃんかあ。ま、いいけど」


ようやくシュワルトの機嫌が直り、洗濯を続ける。モニももう一つ、ナッツを取り出して食べた。


ティアが苦笑しながら、最後の洗濯物を渡そうとすると、シュワルトがティアの手元を見て言った。


「あ、それ。僕のパンツだ」


その途端、きゃあああっと悲鳴が上がり、ティアが手にしていたパンツを放り投げる。


「あっっっ、ちょっとっっっ」


シュワルトが飛びついて、パンツをキャッチすると、そのまま温泉の中にバシャンと落ちた。


「いい加減にしてくれよー」


全身濡れネズミのシュワルトが、ぶるぶると頭を振る。


「バッカだなあ。竜になってからキャッチすればいいのに」


モニが腹を抱えて笑った。


大笑いのモニに、そこでシュワルトが湯をバシャンとかける。


モニも頭のてっぺんからずぶ濡れになり、シュワルトが笑った。


「あははあ、モニは毛皮が濡れると、まるでガリガリのネズミだなあ」


「くっそ‼︎ ミランに言いつけてやるからなっっっ」


持っていたナッツを床に叩きつけると、モニは腕組みをしてその場に座り込んだ。


ティアがふふふっと、さも可笑しそうな笑い声を上げた。


「ティアのせいでこうなったんだぞっっ」

「ティアのせいでこうなったんだろっっ」


二人が声をハモらせて言う。


「ご、ごめん、なさ、い、ふふふ、ははは」


ティアが余計に笑い、そしてその様子を見ていた二人も、いつしか笑っていた。



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