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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第四章 翼人の姫君
17/54

十六

ドンっと、地響きとともに大きな音がした。


「シュワルトか?」


モニから詳細は聞いてはいて心づもりはあったが、そのあまりの爆音に、やはりギョッとなってしまった。


ミランはベッドの上で半身を起こし、モニが入った籠を取り、腰布を外して籠の中に通した。廊下の天井に大穴が開いたのはわかっているので驚きはしないが、シュワルトが人の形でドアを開けて、「ミラン、お迎えにあがりました」と言いながら、胸に手を当てお辞儀をした時には、ぷっと吹きそうになった。


「シュワルト、ありがとう」


すぐさまシュワルトが大刀を投げて寄越す。ミランはその大刀を振り回し構えると、自分の足元に一直線に下ろした。


ガキンと音がして、足枷の鎖が切れる。


自由になった足で床に立つと、ミランはすぐにシュワルトの首にモニの入った籠をぶら下げ、大刀を持ったまま廊下へと躍り出た。


「シュワルト、あんまり揺するなよ。ボク、酔いやすいんだからな」


モニの声を後ろに聞きながら、走る。


廊下のすぐ先、右に折れた突き当たりに、翼人の姫君がいる。ティアを助けにと、ミランは廊下を進んだ。


だが。


廊下を右に折れたところで、足を止める。部屋のドアの前には、剣を持ったルォレンが立っていた。


「よくもまあ、あの硬い鎖を切ったものだ」


ミランが大刀を構える。


「この刀はよく切れるんだよ」


「僕の尻尾の骨でできているからね」


シュワルトの得意そうな声が廊下に跳ねる。


「なるほど、竜の骨とはな。竜は余程のことがない限り、人間に自分をさらけ出すことはない。お前たちの関係は相当深いとみえる」


ルォレンが顔を歪ませる。


眉を寄せ、唇を噛む。


悲しそうに笑うその表情を見て、ミランは動揺した。


(なぜ、そのような顔を……)


ミランはそんな思いを振り切るように、大刀を握る手に力を込めた。


「そこをどけ」


一歩、二歩と歩みを進める。裸足の足が、その足指が、無機質な廊下を捉えながら、進む。ひた、ひた、と冷たい感触が足の裏から伝わり、脳へと運ばれる頃、ミランの頭はその冷たさにキンと冴えた。


ルォレンの構える剣の間合いギリギリのところで、歩みを止める。


「どかない」


「どけと言っている」


「力ずくで通ればいい」


「では遠慮なく、通してもらおう」


ミランが廊下の床を蹴った。


「やあああっっっっ」


大刀を振り上げたかと思うと、すぐに下ろして、真っ直ぐに突く。


それをルォレンが身体を反らせ、かわした。


狭い廊下で大刀を振り回すのは難しい。ミランは刃を返して、素早く第二弾を繰り出す。次なる攻撃に、ルォレンは剣で応じた。


大刀が真っ直ぐに突かれるところを、身体を避けたルォレンの剣の刃が重なり合って、滑っていく。


ギギギギッと、頭から足の爪先までにその音が走り響き、ミランはすぐに大刀を引いた。そして、大刀の天地をひっくり返す。


ルォレンの懐に入ると、握っていた大刀の握り手をルォレンの腹へと入れた。


「ぐうっっ」


どかっという音とともに、ルォレンの呻き声が上がる。身体を折り曲げながら、その場に崩れ落ちると、ミランはその横をしなやかに通り過ぎ、ドアを蹴った。


「ティアっ」


部屋の中に入り、ベッドに寄る。壁側に身体を寄せて、身を縮めていたティアの姿を認めると、ミランは勢いよく一番奥の鉄格子を足で蹴った。


「ミラン様っっ」


ガランと音がして、鉄の格子が外れる。


「ティア、こちらへ来るんだ」


ミランが手を伸ばす。


ティアは初め、その手を取ろうと自分の手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。


「ミラン様、わ、私……」


ミランはその様子を見ながら、後ろに向かって叫んだ。


「シュワルトっっ」


ドアから入りながら、人の形だったシュワルトが、竜へと変化していく。部屋いっぱいに翼を広げて、二度、バタバタと羽ばたいた。


その姿。


ティアには、そのシュワルトの翼を伸ばす真の姿が、自由の象徴のように見えたのだろうか。


そして、ティアを招く、ミランの手。


「さあ、私と行こう」


ミランの瞳を見る。ティアは手を伸ばして、ミランの手を掴むと、ぐっと引っ張られ、そして牢の外へと出た。


「シュワルト、頼むぞ」


「オッケー‼︎」


シュワルトが天井に向けて、大きくがばっと口を開けた。


そして。


「ウオオオオオォォ」


ビリビリと鼓膜をつんざく音。それは超音波のように天井のいたる所にあるひび割れに滑り込み、そしてそのひびを広げていく。


天井からパラパラと粉が散って落ちる。


ミランがティアを懐に入れて抱きしめて庇うと、次には小さな破片の雨が降った。


「オオオオオォォ」


続けざまにシュワルトが叫び声を上げる。


どんっと音がして、天井が一気に崩れ落ちる。辺り一面、白い粉が舞って真っ白になり、視界を遮った。


「ミランっ、大丈夫か?」


「シュワルト、行くぞっっ」


部屋の天井の半分が落ちている。シュワルトが翼を広げても、十分通れる大きな穴だ。


ミランがシュワルトの背中にティアをまたがせる。そして、その後ろに自分も飛び乗るのと同時に、シュワルトが翼をはためかせた。


さらに白い粉塵が舞う。


「行くよっ、ちゃんと掴まっててよー‼︎」


バサバサという羽音が響く。ふわりと宙に浮くと、シュワルトが上へと向かって飛んだ。


「ミランっっっ‼︎」


叫んだのは、シュワルトでもモニでもなかった。


「ミランっっ、行くなっっ‼︎」


腹を押さえてくの字になったルォレンが、ドアから中へと入ろうと這いずってくる。


その姿を、ミランは見下ろしていた。


「ミラン、ミランっ‼︎」


声が次第に遠くなる。バタバタと浮上して、ある程度のところで留まり下を見る。と、パン屋から外へ出てきた女の子が、両手を大きく振っていた。


「シュワルトー‼︎ またパンを買いに来てー‼︎」


「わかったー‼︎ また寄るよー。穴に落ちちゃダメだよー‼︎」


シュワルトが答えると、翼をぐんっと振った。そして、そのまま一気に郊外へと飛んだ。


(……ルォレン)


ルォレンの最後の声。


シュワルトの羽ばたきが全ての音を搔き消してしまう中、ミランの耳は確かに拾っていた。


「……ミラン、やっと、お前に会えたというのにっっ」


胸が、ずきりと痛んだ。




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