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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第四章 翼人の姫君
16/54

十五


「早く……この格子をなんとかしなくちゃ」


ミランが何かの薬品を、一番奥の鉄格子の根元にかけていたのを見ていた。ミランが眠ってしまい、連れていかれる時、手元に転がっていた瓶を、さっと裾の中に隠した。


ティアはその瓶の蓋を開けると、同じ格子の根元にかける。鉄製の格子が汗をかいたように少しずつ溶けていき、そして緩んでいく。


(……もうすぐで外れそうなんだけど)


ぐっぐっと、両手で思いっきり引っ張る。思いのほか鉄格子は堅牢で、それはなかなか外れなかった。


「外れない……」


ここ盗賊団の盗品は高値で売買されることを、ティアは知っていた。そうでなくとも、ミランが自分を助け出したとしても、リの国の国主である兄の元へと戻らなければならない。


(どちらにしても、籠からは出られない……)


ティアの瞳が、大粒の涙で潤んだ。


(……戻りたくない)


強くそうは思うが実のところ、例えミランに逃がしてもらい、この世界に放り出されたとしても、独りで生きていけるのかにも自信がない。


物心ついた頃からずっと宮廷の奥で過ごし、兄の他に顔を合わすのは、お付きの女官シュラと国外からの賓客に目通しされるだけの生活を送ってきたからだ。


(人はみんな、どうやって生きているの?)


メイファンの盗賊に連れ去られた時、宮廷の外へと飛び出すチャンスにも思えて、昂ぶった自分がいた。


だが、自分はこのまま知らない誰かの元へと売られていくのだ、そう気づいた途端、恐怖で身体が震え出したのだ。


(けれど、兄様の元へは……戻りたくな、い)


大粒の涙が、ほろっと落ちる。


だが思い浮かぶのは、冷ややかではあったが、そんな兄の顔のみ。


ティアは、もう一度鉄格子を引っ張り、それが少しも動かないのを絶望的に思うと、そのままベッドに伏せた。


涙が次々と流れていく。


流れる涙をそのままにして、ティアは目を瞑った。


✳︎✳︎✳︎


「兄様、これは一体なんですの?」


ティアが手にしたのは、煌びやかな金銀のビーズを繋げた、長い首飾りのようなものだった。ただ、首飾りにしてはあまりに長さがある。


ティアがそのビーズを手繰り寄せていくと、先端には緑と赤の大きな宝石が一つずつ、ぶら下がっていた。


「お前の翼につける飾りだよ」


隣に座ったリンドバルクは、大きな箱から淡い桃色のドレスを引っ張り出している。そのデザインを見たティアは、頬を染めながら慌てて言った。


「兄様、それでは背中が開きすぎやしませんか?」


「これで良いんだよ。お前の綺麗な翼をみなに見てもらわねばなるまい」


ティアは手の中にある飾りを見た。


「これでは、飛べません」


「何を言う、お前は飛ばなくていいのだ。それにもうすぐ羽切りの時期だ。俺がまた切ってやろう」


「兄様、羽切りは痛いので、私……」


「ティア」


きつく発せられた声に、ティアは身体をビクッと揺らした。太く低い声が、ティアの背筋を撫ぜて、凍らせていく。


「何度言えばわかる? お前は、飛ぶ必要は無いのだ。なぜなら、お前は一生、ここから出ることはないのだからな。欲しいものは全て揃えてやる。だから、わがままを言うんじゃない。わかったか?」


「……兄様、でも外の世界は、」


「ティアっっ」


落雷のような怒声。ティアはとうとう、口を噤んでしまった。


「宮廷の外は恐ろしい世界なのだっ。事実、ここの周りは盗賊ばかりで、お前などすぐに連れ去られ、どこぞの男に売られてしまう。お前をそのような危険に晒すことはできん。俺はお前が大事なのだ」


「…………」


リンドバルクは持っていたドレスをティアへ向けて放り投げた。正座しているティアの腰元に、バサッと落ちる。


「さあ、これを着て用意をするのだ。今夜はカの国の宰相が、わざわざお前を見に来ている。宴までに間に合うように」


言い捨てて、リンドバルクは踵を返した。部屋から出ていくと、ティアは羽飾りを翼にと巻きつける。宝石が背中にあたり、そしてビーズが翼を締め上げて、ズキズキと痛みが走った。なるべく翼を小さく折りたたむと、少しだけその痛みがマシになったような気がした。



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