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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第二章 盗賊団の黒蛇
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「なんだよこれ、もう最悪」


手のひらに乗るほどの窮屈な籠の中に押し込められたモニは、その居心地の悪さに頬を膨らませながら文句を垂れた。


着替えをする男の背中に声を掛ける。


「あんた、本当にミランの幼馴染なの?」


「そうだ」


メイファンの首領、黒蛇のルォレンは小さな声の主へと振り返ってから、上着を羽織ってボタンを留め上げた。


顔を向けられて、モニはふんっと一度は目を背けるが、敵を観察しておかねばと思い、再度ルォレンを見た。


野性味のある精悍な顔。すらりとした肉体。


剣の腕前はわからない。


だが、そのきびきびとした身のこなしで、いつも女の尻を追いかけているシュワルトのような鈍臭さは感じない。


ルォレンが羽織った黒のジャケットに無駄な飾りはなく、そのシンプルな形が、ルォレンのしなやかな身体の線を浮かび上がらせている。下半身をだぶついているズボンが隠してはいるが、鍛え上げられた上半身からみれば、その筋力も一目瞭然だ。


(鍛えているなあ。さすが盗賊団の首領だ)


「初めからミランを狙っていたんだ?」


「…………」


格子状の籠は確かに手のひらに乗るほどの大きさだが、それでも小さなモニにとっては十分な牢獄だ。格子の間から長くふわふわとした尻尾を出して振ると、モニは格子を握った両手を揺らした。


「ミランになんかしたら、ボクが許さないぞ」


握った格子を揺らすたびミシミシと音がするのは、この籠が植物の蔓で編んだ簡易なものだからであろうか。ガシガシと立派な前歯でかじっては、ぺっぺっと口に入った蔦のかけらを吐いてみたが、容易に脱出は不可能だ。


ジャケットをきちんと着たルォレンは、手首のボタンを留めながら、サイドテーブルに置いたモニの籠の方に目をやった。


「お前は、ミランとは長いのか?」


「そりゃそうさっ。ミランとボクは一心同体だ。ボクはいつもミランの側にいて、ミランを守ってる。シュワルトだって、」


そこで、ドアがトントンとノックされた。


「入れ」


ドアを開けて入ってきた男が、頭を下げる。腰から下げた揃いの短剣で、盗賊団の一味とわかった。男は言いにくそうに顔をしかめるが、表情を変えないルォレンの前で観念したのか、切羽詰まったように早口で言った。


「竜めを取り逃がしました」


ルォレンが男を一瞥する。


「……そうか。わかった。下がれ」


「はい」


短い返事に、男の顔に緊張が走る。頬が引きつって見るも哀れな表情となり、モニはこの男が相当、ルォレンを恐れていることを知った。


(シュワルトはどうやら逃げたらしい)


「おい、お前の仲間が迎えに来るぞ」


「まあね。シュワルトもミランを愛しているから」


その言葉に、ピクッとルォレンの眉が反応した。


だが、直ぐにベッドの上に放ってあったベルトと剣を取り上げると、すかさず腰に巻き、剣の位置を直す。


「悪いがミランは俺が貰う」


「なんだって‼︎」


「幼い頃に別れてから、俺はずっとミランを探し続けてきた。お前らの愛などは俺には関係ない。ミランは俺のものだ」


「これはこれは……お前がそこまで何かに執着するのは、いたって珍しいな」


種類の違う声がして、モニは慌ててドアの方へと顔を向けた。


半開きのドアから、一人の老人が入ってくるところだった。


中華風の洋服をまとった老人は、音も立てずにすうっと部屋の中へと入ってきた。


モニは老人のその異様な雰囲気に圧倒され、ごくと唾を飲み込んだ。 立ち居振る舞いにではない。目を惹く、その見事な白髪にだ。


老人の白髪は、黄色人種特有である黄色味も帯びておらぬ、完全なる真白だった。


(まさかこの人が『白蛇』?)


『白蛇』は死に、『黒蛇』が実権を握っていると聞いていた。


「……ラオレン」


ルォレンが丁寧に頭を下げる。


(やっぱり、そうだ)


どうやらモニの勘が当たったようだ。


「まさかその女盗賊を捕まえるために、あの翼人をさらってきたとはな……引退した身で、お前のやることにいちいち口は出さぬが、」


口調は優しいが、貫禄のある物言いに底知れぬ恐怖を感じて、モニは外へと出していた尻尾を仕舞い、前で抱きかかえた。


「くだらんことに兵を使うな」


下げていた頭を戻し、ルォレンがその白髪の老ラオレンに視線を向ける。


「ラオレン、くだらないかどうかは俺が決める」


「ふん……そういえばそうだった。思い出したぞ。お前は幼い頃から、ミランミランと何かあるごとに泣いておったなあ」


「…………」


「それがあの女盗賊とは、思いも寄らなかったがな」


「ラオレン、俺は貴方が大切にしているメイファンに決して迷惑はかけない」


「そうか? お前からは育ててやった恩義を全くと言っていいほど感じないがな。ははは、さっそく竜族のを取り逃がしておいて、どの口が言うのだ」


唇を歪ませて、老人は高らかに笑った。


「忠誠心や情に厚い竜族のことだ。必ず女を取り返しに来るぞ」


「わかっている」


「余計なものに心を奪われおって……」


溜め息混じりの悪態をついた。老ラオレンは踵を返すと、半開きだったドアへと歩いた。そのよろよろとした頼りない様子で、ラオレンがかなりの高齢だと見て取れる。ドアの前で歩みを止め、老ラオレンは少しだけ振り返って言い放った。


「あのリの国主がこよなく愛する妹君は、すぐにでも売り飛ばすが良い。もちろんわかってはいると思うが、国主の手が届かぬアンダーグランドへ、だ。あれは異形としては見目麗しい種族だから、かなりの値で売れるはず」


「…………」


「翼が邪魔で売れ残るようなら、翼をはいでから売ってもいいぞ」


モニの背筋が凍った。


(なんて、酷いことを……このままだとボクもペットのエサかゴミ箱行きだ)


「……わかった」


ルォレンが短く返事をして、老人に退室を促した。


老ラオレンが部屋から出ていくと、ルォレンは小さく息をついた。腰に下げた剣に近づけていた手を下ろす。


剣に遠慮なく手を近づけていた姿を見て、モニは老ラオレンの目が完全に見えていないことを知った。


(白蛇と黒蛇、仲、むちゃくちゃ悪っっ‼︎ それにしても、白蛇のじいさんは引退しただけだったんだね。ということは、まだ実権は白蛇が握っているんだ)


考え込んでいると、籠がぐらっと動いて、格子で頭を打った。


「痛ったああ」


籠に入れられたままのモニが、ルォレンに乱暴に掴まれ、籠の中で振り回される。


「わわわああ‼︎」


(……シュワルトは逃げたみたいだから、シュワルトになんとかしてもらわないと、)


必死に格子に掴まる。


「ちょっとお、もう少し丁寧に運べよっ。船酔いするだろっ‼︎」


ルォレンに届くよう叫びながら、モニは大きな耳をそばだてていった。

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