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女盗賊ミランと盗賊団の黒蛇  作者: 三千
第二章 盗賊団の黒蛇
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「酷い目に遭ったものだな」


ミランが猿ぐつわを解くと、女ははらはらと涙を零し続けた。後ろ手に縛られている紐も、結び目を解いてやる。身体が自由になると、ようやく手の甲で涙を拭った。


「…………」


しやくり上げる声以外は発しない。ミランはそっとその上下する背中をさすった。


「……大丈夫か? あなたがリの国のリンドバルクの妹君だな?」


女は頷き、そしてさらに泣いた。


「名前を訊いてもいいか?」


「……ティアと申します」


ミランがにこりと笑って、「良い名前だな」と言った。


その言葉に、ティアが顔を上げる。頬は濡れて茶色の跡がついて汚れてはいるが、その美貌は失われていなかった。


(美しい姫君だ)


「翼を広げてリラックスしてもいいぞ」


ミランが言うと少しだけ驚いた表情を浮かべたが、ティアは背筋をぴんと伸ばすと、背中から翼を出し大きく広げた。


「縛られていたから窮屈だったな。怪我はしていないか?」


「……はい」


「リンドバルク殿から貴女を連れ帰るよう仰せつかっている。今はこんな状態だが、なんとか抜け出して貴女が国に帰れるよう取り図るから安心してくれ」


すると、声だけでなく身体もビクッと跳ね上げると、ティアはさらに泣いた。


「嫌ですっっ、お願い。帰りたくない、兄様の元には帰りたくないんですっっ。このまま、み、見逃してください。お願い、お願いし、ま……す」


実はリの国、国主リンドバルクが、翼人つばさびとである妹君を、盗賊団メイファンに奪われたということは、裏ルートを通してミランは知っていた。


そしてまた、「翼を持つ異形」として、隣国との接待などの席で見世物にしていることも。


(このような美貌なら見せびらかしたくなる気持ちも分からないでもないが、)


「だが、困った。貴女の兄上からはすでに依頼料として相当な額を受け取ってしまっている。悪いが、私は貴女を連れて帰るしかない」


すると、さあっと、ティアの顔色が変わっていった。広げていた翼を折りたたみ、身を縮こませると、さらに涙を零し続けた。


ミランはそんなティアを憐れに思った。


リンドバルクのあの執着ぶりを鑑みると、戻ればこれからも鎖につながれたような生活をしなければならないだろう。


(だが、依頼は依頼、だ。仕事なのだから、やむを得まい)


ミランにとっては、それこそが生きていく糧なのだ。


「とにかく、早くここを出なければならないな」


ミランはベッドの上に横になると、目を瞑って考えた。この鉄の格子を抜けるのは簡単だ。だが、人質になっているモニのことが気がかりとなる。下手に動けば、モニに危害が及ぶはめとなるだろう。


(モニを、……なんとしても助けねば)


ミランはそのまま、ティアの啜り泣きの声を遠くに聞いていた。


✳︎✳︎✳︎


「ミラン、」


どれほど眠っていたのだろうか。


優しげな声が、耳の奥へと届く。


「ミラン、ようやくお前に会えた」


黒蛇と対峙した時にも、同じような声と言葉を聞いた。


ミランは重い瞼を少しだけ開けて、真っ直ぐに見た。


天井は白く、ぼんやりと豪華な飾りのついた電灯が、目に入ってくる。


黒蛇に捕らえられ、天蓋ベッド付きの鉄格子に入れられてから、ミランは差し出された飲み水や食料を軽々しく口にはしなかった。


「どうせ、毒入りだろう」


「ですが、何も食べずではそれこそ死んでしまいます。私たちが殺されるということはありません。私もずっとここで食事をとってまいりましたが、この通り生かされています。だから、お願いです。どうか、お水だけでも」


ティアに懇願されて、ミランは仕方なく、水を飲んだ。


「それでこの有様か」


霞がかかっていた頭は、次第にくっきりと雲ひとつない青空のようにクリアとなってくる。身体を半分起こすと、ジャラと鎖の音がして、自分の両足首に足かせが付けられていることに気がついた。ひやりと冷たい無機質な感触。


鉄格子のないベッドの上に寝かされていて、眠っている間に部屋を移動されたようだった。


「すまない、このようなもので拘束などして」


側に男が座っているのはわかっていたが、敢えてミランは振り向かなかった。


「強い薬ではないから安心しろ。もうそろそろ抜ける頃だ」


「こんな姑息な手を使ってまで、私に何の用だ?」


「ミラン、お前に会いたかった」


ここでようやく、ミランは男を見た。


黒蛇。


リの国一の盗賊団メイファンをまとめる首領。


「どれほどのいかつい男かと思えば、意外にも優男だったな」


ミランが表情を変えずに言うと、黒蛇は、悲しげにふ、と笑った。


「俺を……覚えていないのだな」


「覚えているよ」


ミランの言葉に黒蛇は顔を跳ね上げた。その太い眉尻を下げ、眉根を寄せる。


「ミラン、本当か、」


「お前、ルォレンだろ」


座っていた椅子を後ろへと倒しながら、黒蛇は立ち上がり、ミランへと一歩進んだ。


「そうだ、そうだよ。ミラン、ルォレンだ」


ミランへと手を伸ばす。その指先が、ミランの髪に届く寸前で、ぴたりと止まった。


「よくもまあ、のこのこと私の前に出てこられたな」


止まった指先が、ふるっと震える。


「……ミラン、会いたかった。お前を探していた」


ミランが顔を背けた。


「それで、リンドバルク殿の妹君を誘拐したというわけか」


「……そうだ。仕事の依頼以外では、お前は絶対に人前に現れない」


「妹君にとっては、いい迷惑というものだ」


「ミラン、」


「モニを返せ」


すかさずの返事に、ルォレンが唇を歪ませた。


「せっかくの再会だ。もっと話をしよう」


ミランが口元を緩めた。


「お前と何を話すというのだ? 兄弟同然だった私を置いて逃げたのに、今さら、」


「違うっ‼︎ 逃げたんじゃないっ‼︎ あれは不可抗力だった、自分の意思じゃない」


「うるさいっ‼︎」


「ミラン、聞いてくれ」


「モニを連れてこい……」


ミラン、再度名を呼ぼうとしたところを、ピシャッと遮られる。


「モニを返すんだっっ」


はあはあと荒く息を吐く。これくらいのことで息が上がるとは、まだ薬が切れていないのだな、ミランはそう思うと、ベッドの上にごろっと転がった。


ルォレンを視界に入れまいと、壁側へと寝返りを打つ。


薄い毛布を肩まで引っ張り上げ、足を曲げてくるまった。


「ミラン、会いたかった。ずっと探し回ってようやく会えたんだ。いいだろう、やっと手に入れたんだ。時間をかけて教えてやる。俺がどれだけお前を、」


口をつぐむと、ルォレンは部屋から出ていった。


鍵を掛ける音が、二回。一つはドアノブについている鍵。そしてもう一つは、そのスライドされる音から、かんぬきのようなものだとわかる。


「ルォレン、今さらなぜ私の前に現れた。私に殺されるためにか?」


くくっとミランは笑った。


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