-3限目:実習初日Ⅱ-
「では、教科書24ページを開いてください。」
田所先生の声掛けに合わせ一斉に教科書を開いた。カサカサという音が教室中に響いていた。
学習プリントと呼ばれるものを生徒に配布しそれの流れに合わせるように授業は進められていった。
「では、5行目のところから次の意味段落まで音読してください。そのあと、わからない単語があれば鉛筆で線を引いてください。でははじめ。」
生徒に指示を伝えた後一斉に音読が始まった。大きな声ではきはき話す子もいれば全く読もうとしない生徒も見られた。田所先生は様子をうかがうために机の周りを巡回していた。
自分もとりあえず、後ろから全体的に様子をうかがっていた。
しばらくして音読が終わり授業が進んでいった。
「先生、ここ全く分かんないよ。ヒントおしえてよ。」
授業中生徒が口を合わせて述べた。筆者の言っていることを理解することがどうも難しかったらしい。
確かにこの部分は自分が中学の頃もよく分からなかった部分だった。
その時は先生がこういうことだよと教えてくれたがあまり理解はできていなかった。
「そういえば近くのコンビニで肉まん買ったんだけど…」
ヒントを求める生徒に対し田所先生が余談話を始めた。生徒は集中力が切れて他のことをしていたために、
その先生の話を食い入るように聞いていた。
そして肉まんの話は最近流行っているゲームへの話へと流れていった。
自分もその話が面白くて、終始話を聞いていた。先生の話声と笑い声や生徒の反応する声は
先ほどよりもにぎやかになっていた。
「で、これがこのゲームの人気が出た理由になるんだけど、なんとなくわかったかな。」
「うん、確かになるほどって思ったよ。」
「あれ、、、先生、それってこれに書いているのと似ているような気がする。」
話の途中でこう切り返した先生に対し生徒が教科書を指して反応していた。
田所先生は笑顔でそうそうとうなづきながら授業に戻っていった。
「そう、みんながよくわからないって言ってたこの部分ってまさにさっき話したゲームも人気が出た理由と同じなんだよ。つまり、この作者が考えた理由っていうのはね…」
先ほどまでみんながつまずいていた箇所だった筆者の考えた理由を解説し始めた。
ただ、自ら答えを教えるのではなく、考えさせて生徒の口から答えを言わせていた。
日常会話の余談話から本文に結び付け、さらに理解しにくかった点を生徒に伝えて、答えを導きだしたのである。これが、国語の先生なのかと感心した。
生徒の表情は後ろからは見えなかったが、発言する声色からすごく納得したように感じた。
終始和やかな雰囲気で授業は終わりを迎えた。
「田所先生、まずは一時間目ありがとうございました。余談話から授業につなげるなんて、すごいですね。」
そう、感想を伝えると先生は淡々としてこう述べた。
「まあ、これは一つの方法だね。最初はみんな悩んで集中力も切れてたから、雑談して息抜きみたいなことを考えていたけど、生徒が話についてきたから、これはチャンスだと思ってね。」
「その場で答えが思いつくように持っていこうとしたんですか?」
「いや、話の流れに合わせてだってけど、この教材は何度も繰り返し教えているからね。大体つまずくポイントなんて同じだよ。どう話せばわかってくれるかは違ってくるけどね。」
若干聞いていたのとかみ合ってない気もするが、なるほどと思い話を終えた。
「だから、この式はここの公式を使って解くんだけど、この公式を覚えないとだめだからね。」
「言ってしまえば、君たちみたいなことだよね。みんな元気がいいんだよ。わかった??…返事。」
「いいですか、先週学んだ事がら覚えていますよね。その事がらがきっかけで今回の大事件になったわけです。ここテストに出しますからね。覚えてくださいね。」
その後も、いろんな先生の授業を見学し先生によって当たり前だが教え方が違うことを学び、
それに対する生徒の反応もそれぞれあった。
こうして初日の授業見学は終わった。
大学から渡された教育日誌というものがあり、それを描く作業を行った。
初日で緊張したこと、現場の先生の授業から学んだこと思ったことなどを記入した。
《教師・生徒のしぐさから学ぼう、吸収しようとした前向きな姿勢が見られます。その行動、言葉一つに込められた意図があります。その意図を読み取り自分ならどう伝えるか考えるとより多く学べると思います。初日お疲れ様です。》
と教育日誌の先生コメント欄に優しく記されていた。