-1限目:実習準備-
「来週から実家に帰るので、三週間ほど休みます。」
バイト先の店長にそう報告した後、店長は初めて聞いたかのように騒ぎ立てていたが、オーナーやマネージャーには二か月以上前に話してあり、店長にも何度も話している。この店長なにかと人が休む時は何かしら言いがかりをつけては困らせていた。今回もその一例である。とは言ったものの根気よく言わないと黙らないので、オーナーやマネージャーがいる時を狙い店長に話した。
しぶしぶ店長は納得していた。ちなみにこの店長周りからは駄々こね店長と揶揄されており、実習から戻りバイト先に戻ると、いなくなっていた。個人的には面白い店長だったので、少し寂しい気もするが話の大筋には関係ないのでこれくらいにしておこうと思う。
大学先にも同じように連絡を入れた。大学は関西の田舎の方にそびえたっており、周りにこれといって施設もなく周りに流されず落ち着いて勉強できる学校といわれている。いわゆる小規模な大学ではあるが、歴史は浅くなく少し有名な私立大学である。図書館があの名門東大よりも充実して使いやすいし、資料も豊富なんて言われているらしい。その大学の授業の一環で教職という資格が取れるカリキュラムがある。
教職とは文字通り教師になりたい人が必要な教育免許を取得するためのカリキュラムだ。
これを取るには、必修科目、自由科目、専門科目をそれぞれ一定数以上取らなくてはならない。
教職といっても、別に教師になりたいわけでもなく、ただ資格を取得したいし子供が好きだったため、
この単位を受講している。すべての受講が完了すると教員免許が自動的にもらえるというのだから、
こんなとりやすい資格はないと軽く考えていた。
ただ、思った以上にたくさんとらなければいけない単位があり苦労したところもあったが、
何とか教育実習を受けれる単位を取得し、いよいよ実際に教育実習にたどり着けた。
実習先は自分で決められるが3年生の時に自ら電話しなくてはならなかった。
地元の高校ではじめは行おうとしたが、日数が合わず中学校で実習を行うことになった。
何年かぶりの地元と中学校ということで、緊張半分、期待半分だった。
教育実習用にスーツ一色を新調し備えた。ただ、不安が残っているのは確かである。
ふつうは実習の前に打ち合わせを行うのが一般的であるが、今回行く中学校は打ち合わせは行わないと
していたからである。理由は忙しいのもあるが、教育実習生が少ないこともあり、初日に行えばいいと
教務主任が言ったからである。そのためどの範囲を行うのか、クラス担任、指導教官など、本来
事前情報として知っておくべき情報は知らされないまま行かなければならなかった。
「君、ほんとに教育実習申し込んでいるよね?」
「はい、といっても教務主任今年の四月に変わったみたいですが、電話したら体制はできていると。」
「それなら大丈夫か。」
教職担当や教務課の人が口をそろえて心配していたが、そこは抜け目なく確認している。
ということもあり、不安がぬぐい切れないのは事実であった。
ともあれ、実習の日も迫ってきており、地元に帰省し登校ルートを確認した。