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第一話 転移

説明回です。つまらないかと思いますが、読んでやってください。二話からはガンガン進んでいこうと思います。


一日目 ——転移初日——



 最近月を見ていない、と思いながら駅までの道を歩く。今日もお昼過ぎから雨が降っていたからか夜も更けたというのに空には都会の灯りに照らされた雲が横たわっている。僕は上を見上げながら前を歩く二人についていく。




 今日は高校の時の生徒会メンバーでOBOG会をした。いつも通り会計の先輩が二代前の会長をいじったりいじられたり、俺も皆からいじられたり、同期の二人はいつにも増して意識高いし、みかちゃんは将来すみくんと結婚したいって言うし(結構ありw)、すみくんは笑ってるし、とても楽しかった。


 なかなかにカオスな会だったけど皆が楽しめたなら企画したかいがあった。




 前を歩く二人、みかちゃんとすみくんは、みかちゃんの愚痴をすみくんが聞くという、高校時代から変わっていない関係を保っている。


 高校時代と言ってもまだ卒業したばかりで、皆18か19歳だ。だから、今日の会でも先輩方は飲んでいたが、僕らは……。まあ、いい。取り敢えず健全に行われたということだけど明記しよう。


 先輩方は皆別方向で僕ら大学一年生組が一緒に駅まで行くことになった。入学して2ヶ月ほど、学部が違う俺はみかちゃんと話す機会がほとんど無かったから、こうやって近況を聞けるのは大変良かった。すみくんとはサークルで毎週のようにあっている。二人は学部が同じなのにほとんどあわないらしい。




 駅も近づき、みかちゃんの愚痴も一段落して僕らの間にちょっとした沈黙が流れた。駅前の喧騒は田舎育ちの俺にとっては耳を塞ぎたくなるものだった。特にカップルの出している、これからヤりますオーラが俺の胸に突き刺さってくる。






 なんて思っていたら本当に何かが突き刺さって来たらしい。俺は声も出せない激痛に胸を押さえて蹲った。ぬめりとした感触の液体が右腕を伝う。多分これが俺の血なんだろう。




 いきなり倒れこんだ俺に気付いた二人は振り返り駆け寄って来るが、俺よりも自分の心配をしたほうがいい。後ろからトラックが突っ込んで来るぞ。








 消えていく意識の中で地面の揺れを感じ、遠雷を聞き、ビルの崩壊を見る。


 この世の終わりというのは何故こうも唐突に訪れるのか。




 トラックが俺も巻き込みながら二人を轢いたのが見えたところで意識は完全に暗闇へ落ちた。






 二人の悲鳴さえ聞こえなかった。




――――――――――――――――――――――――――――




 眩しい。


 閉じていたはずの目は開いていて、真っ白な空間が広がっているのが見える。


 光源は無く、この空間自体が淡く白く発光しているように見える。


 四方八方白いので、下を見ると浮いているかのような錯覚をする。狭い部屋なら角に影ができるはずだがそれも見えないところから、本当に浮いているのかもしれないし、とてつもなく広い部屋なのかもしれない。


≪ここに床や地面はありませんよ≫


 不意に響いた声に周囲を見渡すが誰もいない。仕方ないので呼んでみる。


「申し訳無いんだけど、顔を見せてくれませんか」


≪随分と落ち着いている上に丁寧なんですね≫


 少し動揺しているような声の感じだ。そしていつの間にか、今までずっとそこにいましたとでも言いたそうなほど自然に、女の人が立っていた。いや、浮いていたと言ったほうがいいのか。


「普通に美人だな」


 するっとこんな言葉が口から漏れた。普段はこんなくさいセリフを平然と人前で口にするキャラじゃないのだが。


≪な、なんですかいきなり。び、美人だなんてそんな。はしたないですよ!≫


 そんなに大きな声ではなかったはずだがしっかり聞こえていたようだ。目に見えて動揺している声だが、目の前の女性は微動だにしていない。


「失礼。しかし、この人形はよくできているようですね。さあ、隠れていないで早く出てきてください」


 声と態度があっていないので、俺はこれが人形のようなものだと認識したのだがどうだろうか。


≪ば、ばれてしまっては仕方がありませんね。特別、特別に姿を見せてあげましょう≫


 やはり本物ではなかったようだ。




 今度は周りの空間の光が強さを増してきた。完全に視界が光で覆われた瞬間にその光が収束し、人型を取っていく。




 光が収まったところにいたのは、絶世の美少女だった。


「あなたは天使、いや女神ですか」


≪え、え、何で知ってるんですか。私まだ何も言ってませんよ≫


 何か言っているが関係ない。俺は言いたいことを言うだけだ。


「僕はあなたほどの美少女を見たことが無い。その長い黒髪、垂れた眉、グラデーションのかかった碧い瞳、すっと通った鼻筋、小ぶりだが形の良い唇、小さな顔、何よりもその長く細い足。全てが完璧にあなたを構成している。ああ、なんと美しいんだ」


 そこまで一息で言って、息継ぎをした後にまた続けようとしたら、彼女の叫びに阻まれてしまった。


≪だから! そ、そんなはしたないことを言わないでください! 私なんてそんな美しくなですし、美少女なんて言われるほど若くありません! それにこちらにも都合があるんです。私にもしゃべらせてください≫


「では最後に一つだけ言わせていただいても」


≪べ、別に一言なら≫


「あなたはとても可愛い」


≪からかってるんですかー!≫


 彼女の言葉が頭に響くように聞こえるのは相変わらずだが、目の前の美少女はその言動とともに非常に可愛らしい仕草を見せてくれる。


 これは天使と言う枠で語れるものではなく、女神を越えた域に達していると言っても過言ではない。俺はこれまで漫画やアニメで女神と形容される美女たちを見てきたが、ここまでではなかったように思う。


≪な、なんてこと考えてるんですか!≫


「僕は何も言ってないけど」


≪私は人が考えていることを見ることができるのです。そしたら、あなたがか、可愛いとかなんとか……≫


 彼女は顔を小さな手で隠す。しかし、耳が赤くなっているのがわかる。


「人の考えが読めるということは、あなたは神様なのですか?」


≪最初っからそう言ってます。というかあなたが当てたんです。私が女神だって≫


 真っ赤な顔を隠すことを忘れ噛みついてくる。


「いえ、僕はその容姿を女神のようだと形容したまでです。あなたが本物の女神だということは今知りました」


≪な! まだ言いますか~!≫


 ついに掴みかかってきた。これでは本当に噛みつかれて、鼻がちぎれてしまうかもしれない。


「まあまあ、落ち着いてください。あなたが女神であるなら何か理由があって僕がここにいるはずですから」


≪そうでした。あやうく闇堕ちするところでした≫


「闇堕ち? あなたの闇堕ちなら是非見てみたいです。どうやったらなるんですか」


≪神は人を殺めると闇に侵されてしまうのです。いえ、話が進みませんね。この話はここまでで≫


「殺める? 僕はもう死んでるんじゃないですか?」


≪いえ、正確には死んだ、ですね。あなたはここに来る時に、体をこれからの環境に適応できるように改造され、離れていた魂を入れ直されたのです。今は体と魂の癒着をしています。その間に色々と説明してしまおうということなのです≫


「そうですか。ではまずこの場所の説明からお願いします」


なんだかすごいことをさらっと言われたような気がするが、取り敢えず俺が死んだことに変わりはないらしい。




≪ここはあなたの精神世界です。よってあなたの身体はここにありません。先ほど説明したように、身体との癒着を行っているためまだ意識を戻すことは出来ません≫


「それではここでは僕が考えた通りになるということですか?」


≪そうですね≫


「ではもっと寛げる場所にしますね」


 俺は目を閉じた。




 畳と程よい日差し、爽やかな風をイメージする。時間帯は昼過ぎ。昼食を食べてお腹が膨れ、眠くなる時間だ。



 頬に風を感じ目を開けると、そこは懐かしい祖父母の家の座敷だった。縁側には日が射していて、とても暖かそうだ。外に生えている木々の葉が風にそよそよと揺れている。座敷に仰向けで寝て、畳の匂いを目一杯吸い込むと、一眠りしようと再び目をつむる。


しかし、俺はある違和感に気付いてしまった。


≪すぴー、すー。すぴー、すー≫


 座敷では既に和服美少女が眠っていたのだ。


 俺はこんな美少女を想像していないのだが。遂に俺の妄想はここまで行ってしまったのか、と思ったがそういうわけではない。


 気持ち良さそうに眠っているのはあの女神なのだ。服装が変わっているがきっとここに合わせた格好になったんだろう。さて、寝ていては説明も何もしてもらえないのだから取りあえず……寝顔を眺めてるか。


 彼女程の美少女はそう簡単にお目にかかれるものではないのだから、今のうちにたっぷりと目に焼き付けておかなければ。




 30分後




≪う~ん。……は! ここは。私は寝てしまっていたのでしょうか≫


「おはよう。良く寝ていましたね。女神も睡眠は取るんですか?」


≪ええ、死ぬことはないと言っても、疲労は溜まりますので……って! 近いです! 近すぎます! それは隣で寝ているレベルのものでは無いです! 添い寝です!≫


 彼女は勢いよく起き上がり俺から離れていく。


「そんなに嫌でしたか?」


≪いえ、別に嫌というわけではありませんが……≫


「もしかして照れてます?」


≪てっ、照れてなんかっ!≫


「女神様はもしかしてこういうこと言われたりされたりするのに慣れてなかったりしますか?」


≪慣れてないっていうか、そもそも天界に男がいないというか。でも! いつも下界を見てるからそういうのも知ってるというか≫


「なるほど。ほとんど知らないが少し知ってるがために、そんなチョロインな反応になってしまうのか。……だが残念、女神の攻略ルートはきっと作られていないはず」




恐らくこの展開は異世界転移というやつだ。つまり俺にはムフフなチーレム生活が待っているはず。もし、俺が間違って連れてこられたとしても、お詫びとしてチートが与えられ、頑張り次第でチーレムも夢じゃない。だが往々にして神とは下界に干渉しないもの。ならば、この女神とはここから出ればもう会えなくなるのが常だ。したがって、彼女とはフラグを立ててもしょうがないということだろう。




「まあ、そんなことはどうでもいいね。説明の続きをお願いするよ」


≪動揺が収まらなくて上手く心を読めませんでしたが、何か失礼なことを考えられてた気がします。ですが、このままでは夕食に間に合わなくなるかもしれないのでぱっぱと行きましょうか≫




≪それではあなたが置かれている状況を詳しくお教えします。あなたは突然現れた酔っぱらいにナイフで脇腹を刺され、痛みの衝撃で倒れこんだ所にトラックが突っ込んで来たことで死亡しました。あなたが死の間際に見たと思っている世界の破滅は幻覚ですのでご安心下さい。はじめに言っておくとあなたは異世界に転移します。……あれ、あまり驚かないんですね。先輩からはこれを言うと掴み掛かってくる人もいると聞いていたんですが。異世界転移の条件としては、こちらが設定した時間。何年何月何日の何時何分何秒に人間の操作する大型の乗り物と接触し死亡した人間、ということになっております。これは天界に保存されている世界歴、どこで誰が生まれ、どんな原因で死ぬのかが書かれている非常に重要な書物です。実はこれによるとあなたは脇腹を刺された出血で死ぬとなっていたのです。設定した時間に複数人が該当することは珍しく無いのですが、世界歴と違った死に方をするのは初めてでして、こちらも対応に戸惑っております≫



「ちょっといい?」


≪何ですか?≫


「今の話を聞くと俺以外にもいるみたいだけどもしかして」


≪ええ、あなたが考えている通りです。あなたと一緒にいた方々も転移致します。というよりそちらが本物です。彼らは創造神様が対応しておりあなたが送られる世界を救うために様々な力を与えられるでしょう≫


「なるほど。あいつらなら難なくやり遂げる気がするな。で、俺にも力はくれるんですよね?」


≪そこが対応に困っている所でして。実は世界歴から送る人物を選ぶ場合、力を与えるために必要なエネルギーを得られるのですが、それに沿っていないと得られないのです。そのため神々自らがエネルギーを消費することになるのですが、転移にも多大なエネルギーを必要とします。ですので、用意できた力が大変半端なものになってしまって≫


「そうですか。しかし、貰えるものは貰いましょう。どんな力なんですか?」


≪あなたは何だが知識がありそうですので、逆に質問をします。転移者の貰える典型的な力と言えば何ですか?≫


「アイテムボックスとか、無限収納みたいなやつですか?」


≪そうですね。これは転移者全員に与えられる力です。しかしあなたには用意出来なかったため、『武器庫』の力を与えます≫


「『武器庫』ですか? 武器だけ無限に収納出来るって感じですか?」


≪その通りです。では転移者に与えられる戦闘面での力は何ですか?≫


「やっぱり聖剣が召喚出来たりとか、特別なものが創造出来たりとか、魔法とか武器が特別上手く扱えたりだとかですかね」


≪そうです。他の二人の内女の子の方は『聖剣召喚』を、男の子の方は『魔銃創造』を与えられました。他には過去に『剣聖』や『魔導士』などの特化した力が与えられています。ですが、あなたには与えられないのでこちら、『全武器素質』と『全魔法素質』が与えられます≫


「それは十分強力じゃないんですか?」


≪そう見えるかもしれません。しかし、この世界では素質があるのと使えるのとは違います。人々は自らのステータスを確認し、素質があることを確認することは出来ます。しかし、素質というのは無い人よりも上達が早くなるだけで、あってもなくても変わりません。ただ、初心者でも扱いが理解できるというメリットがあります≫


「つまり器用貧乏ってことですね?」


≪はい。あなたは『器用貧乏』という称号が既に付いております。称号というのはその人の人生を示すもので、どの世界においても存在しています。そして称号それぞれに微量ながら力が備わっているのです≫


「俺は今までも『器用貧乏』っていう称号を背負って生きてきたのか……。で、その称号にはどんな力が?」


≪『器用貧乏』は『全ての物事において失敗することはないが、それで成功する確率が非常に低くなる』という力です。そしてあなたにはもう一つ称号が付いています。一人の人間が複数の称号を持つことは稀なのですが、これを見るとあなたは、その世界の気まぐれに見合うかなと思えます≫


「何て言う称号ですか?」


≪『道化師』です。力は『周りの人々を笑顔にする。しかし自分は本当の意味で笑顔になることができない』です。面白い力ですね。あなたの世界の本職のピエロですら持っていない称号ですよ。今あなたは笑顔ですがそれは演技ですか?≫


「まあ、そんなところです。僕としては周りを笑顔にするには自分が笑顔でいることが一番手っ取り早いので」


≪そうですか。何だか淋しいですね≫


「いつか自分の手でこの仮面を取って見せますよ。その時は会いに来て下さい」


≪そうします。称号の話なのでついでに伝えておくと、転移する際に新しく称号が付きます。それは『渡界者』という称号で、『全ての言語を理解し、読み書き会話が出来るようになる』という力です。この世界も言葉の分からない所に放り出す程非情ではないということですね≫


「よかったです」


≪この世界にはステータスというものがあるということはお気付きだと思います。このステータスはその人の潜在能力を示しています。どういうことかと言うと、ムキムキの大男でも力の値が低ければ、ヒョロヒョロの力の値が高い人に殴り負けることもあります。つまり実際の鍛練で上昇する力はステータスには反映されず、ステータスに書かれている値は実際の鍛練よりも高い効果を発揮するということです。しかし、ステータスに頼らず鍛練を行うことでいざというときに体がついてこなくなるということが無くなると武神が言ってました≫


「なるほど。ステータスはどうやったら上がるんですか?」


≪魔物を倒すことで得られる経験値が蓄積され、一定以上になると身体レベルが上がり、それにともなってステータスも上昇するというシステムになっています。レベルが上がればその分必要な経験値も増えていきますが、魔物の強さによって得られる経験値も上下するのでそこまで上がりずらくなるということはありません≫


「ゲーマーとしてはレベルに上限があるか聞いておきたいんだけど」


≪ゲーマー? というのは分かりませんがレベル上限はあります。そして上限に達すると進化の選択肢が与えられます≫


「進化ですか? これはまたぶっ飛んだ要素があるんですね」


≪そうですか? 私のような女神も進化することでなるのですよ? それほど珍しくはないと思うんですが≫


「いえ人間は進化なんて簡単にしませんから。というより天界に魔物なんているんですか? 経験値が貰える状況じゃ無いと思うんだけど」


≪天界ではそこにいるだけで経験値が入って来ます。直接倒して得られる経験値よりも少ないのですが、千年もいればレベルは上限に達します。神はある例外一人を除いて皆天使から進化したものです。神になっておよそ一億年で神としてのレベルが上限にたどり着き、創造紳として一人立ち出来るようになるのです≫


「へぇー。天界も階級制なんですね。で、その例外の一人が気になるんですけど」


≪彼は人間から亜神、そして神に至った変り者で、武神をやっています。亜神の時に先代の武神を殺して神に至ったのです。当時の武神は魔物に肩入れして魔族という人間と魔物を組み合わせた異形を作り出し下界で暴れていたため、創造神から討伐依頼が出たのです≫


「神様って案外自由なんですね」


≪先代の武神がどうかしていただけです≫


彼女は呆れた顔をしてそう言った。神様の世界も色々と複雑らしい。




「ところでステータスはどんな感じで見れるんですか?」


≪ああ、その説明がまだでしたね。そろそろ癒着が終わる頃なのでここから出てもいいでしょう。いつも使っている場所でそれは説明しましょう≫




女神様はそう言うと手を叩いた。途端、目の前は真っ白になって視界が失われた。しかし、それもすぐ終わり、見えたのは白い壁と女神様だった。




「ここは最初にいた場所ですか?」


≪そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます。ここは本来転移者が来る場所、通称転移の間です。あなたが最初ここにいたと感じたのは、あなたの脳が何も想像していなかったからです。ここはあえて何も置かなかったり色を付けなかったりすることで、転移者を少しでも冷静にするために作られています≫


「なるほど。では、ついに本ルートに戻って来たということですね?」


≪ルートというのは分かりませんがここからはほとんど普通の転移者と同じように扱えるということです≫



つまり俺はしっかり転移して新しい人生を歩めるって訳だ。転生ではないから前世知識での成長チートは使えないけど。


前世に未練が無いと言ったら嘘になるが、彼女もいないし大学に入ってから高校の友達とは疎遠になった。実家のほうの友達は高校時代から付き合いは薄くなっていた。


唯一の心残りと言えば初恋の幼馴染に気持ちを伝えられなかったことか。でも、期待薄なのは小学生の時から分かっていた。それでもいつかは自分の口でしっかり伝えようと思ったんだけどな。


しかし俺は死んでしまったんだ。それは変わらない。彼女が俺のことを知って悲しんでくれることを祈ろう。


それより、大学に入って一番しゃべっている二人がこっちに来ているということを喜ぶべきかもしれない。


 そういえば向こうに行ったら二人とは一緒に行動するのだろうか。


「女神様」


≪シェンティアですよ、ワールドさん≫


「ではシェンティア様、どうして僕のあだ名を? それより聞きたかったことは他の二人は一緒に行動できるんですか?」


≪あらこれはあだ名でしたか。まあ、大丈夫でしょう。他の二人は残念ながら一緒に行動できません。そもそも、他の二人はある国に召喚された勇者で、あなたはそれについてきてしまったただの転移者なのですから。同じ場所に送ると、あちらで混乱を招くためできるだけ離れたところに転移させるそうです≫


「あだ名のところは気になりますが、恐らくはステータスを見ればわかるのでしょう。あの二人と一緒に行動できないのは寂しいですが、そういう事情なら仕方がありません」


≪ご理解いただきありがとうございます≫




 納得した僕の返答に応えたのはシェンティア様ではなかった。


「えーと、どちら様でしょうか?」


≪私はこの多層世界を統べる創造神であり始まりの神、ファンデルと申します≫


「えっと、なるほど。創造神様は僕にどのような御用がおありでいらっしゃいますか?」


≪そんなにかしこまらなくてもいいのですよ。あなたが本当はそのような性格ではないことを私は知っています。シェンティアは知らないかもしれませんが、彼の称号『道化師』を見た時点で気付いてほしいものです≫


「ばれてしまってはしょうがないです。俺は色々な性格を演じ分けることができますが、あまり堅苦しいのは好みではないのでこれでいけるのはありがたいですね。シェンティア様、そんなに大口開けていても手持ちにエサはありませんよ」


≪はっ! ファンデル様、何故このような場所に! 今まで他の二人の対応をしていたのでは⁉ いえ、それよりもワールドさん! いきなり性格が変わりすぎではありませんか!≫


≪私はあの二人、ミカとスミをあちらに送ったのでこの子に謝罪と餞別をしに来たのですよ。そしてこの性格が彼の本当の姿です。何事にも物怖じせず、切り替えが異常に早い、まさしく異世界転移の主人公のような性格です。『道化師』の効果すら彼の演技であると私は推測しています≫


「まあ、そんなとこだ。シェンティアにはなんか敬語さえもだるいからタメでいいな」


≪え、ちょ、別にいいですけど、女神としての威厳が……≫


≪ワールドさん、私にも敬語は使わなくていいのですよ。事実、ミカとスミには敬語をやめてくださいとお願いしたんですけど、スミだけは最後まで敬語でした≫


「あ、ファンデルでいいのか。じゃあ、よろしくな」


 いいんだ、創造神なのにこんなフランクで。しかし、俺の仮面を早々に剥いで来るとは流石神様だな。シェンティアは全く気付いてなかったけど。そうだ、餞別。


「ファンデルは何か渡しに来たんだよな」


≪そうでした。まずはあなたを巻き込んでこんな状態で転移させることになってしまい申し訳ありませんでした。創造神としてして最大の謝罪をあなたに。そして、私からの餞別ですが、本当に大したものは上げられないのですが、『武器庫』のなかにいくつかの武器を入れておきます。転移先も完全にランダムかつミカとスミが召喚されるところからかなり離れたところになるので身の安全が全く保障できません。なので、お気を付けて。私からしてあげられることはそれくらいしかありません。あなたが幸せにあちらで過ごしてくれることを心から祈っております≫



 そう言って現れたときと同じように忽然と姿を消した。




「で、シェンティア。俺はこれからなにすればいい? もう送るのか? それとも何か説明することが残ってるのか?」


≪いきなり変わってまだ私は動揺が収まらないんですけど。まあ、もういいです。もう送っちゃいます。あとは自分で何とかしてください。あなたならきっと何とかできますよ。ええ、これは決して八つ当たりとか、腹いせとかそんなんじゃないですから。ええ、そうですよ、正当な仕打ちですよ。きっと創造神様も許してくださいます。そうに決まっています≫



「え、おい、ちょっと待て。待てって、おい!」


 シェンティアは俺の口調が変わったことに怒ったのか、ファンデルにからかわれたのが気に食わないのか(後者であることを願う)説明責任を放棄したようだ。


 シェンティアの最後の言葉が聞こえた瞬間に、俺の視界はホワイトアウトした。


お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字などありましたら、ご指摘して頂ければ幸いです。

コメントもお待ちしております。

次の投稿は未定ですがなるべく早くあげられたらと思います。

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