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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第一章 底辺ハンター
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第一章4『弱い心』

 高く空に浮かぶ雲を裂く斜陽のもとで、ヒロトは支給された鉄剣を腰にぶら下げながら黄金の大地を踏み締めていた。

 ヒロトのいる然華平原は大きくわけて「メルタリア平原」 「黄金山」 「紅森」 の三つの地域に分けられており、ヒロトの求めるムンムン草は主にメルタリア平原に生えているようだ。


「というかムンムン草ってなんなんだろ…………」


 依頼を受けた際に貰ったムンムン草の絵を見ながら呟いた。 その草にどういう効果があり、どういう理由で求められているのかは皆目見当もつかない。

 

 メルタリア平原は街から出てすぐにある平原のことだ。現在ヒロトがいる場所もメルタリア平原だが、その地点からメルタリアの街の城壁が見えるくらいには距離が近い。

 

「あっ!見つけた。きっとこれだよね?」


 それらしき草を見つけ、貰った絵と見比べてそれがムンムン草かどうかを確かめる。

 確認し終えるとヒロトはそれを根元から引きちぎり、ハンター登録をした時に受付嬢から投げつけられたバックパックにしまう。

 

「ここにも!沢山あるなぁ」


 またムンムン草を見つけ、もう一度それをバックパックにしまった。

 早いペースで二つも目標のものを見つけることが出来たヒロトに自信がついてくる。

 

「……?この辺には沢山あるはずなんだけど……………もうないなぁ」


 門からここに来る途中にもムンムン草があるかどうか確認しながら来たので、ここ一帯にないとなると更に遠くまで進まなければならない。 当然人里から離れれば離れる程モンスターに出くわす頻度は高くなるわけだ。

 しかし現時点でヒロトが手にしているムンムン草は二つ、依頼を達成するにはあと三つが必要だ。

 

「すぐ見つかるよね………大丈夫だよね…………?」


 どうせ街周辺のムンムン草は取り尽くされているだろうし、そうじゃなくてもルルカの言うようにこの依頼はハンターとしてやっていけるかどうかというギルドの試験のようなものでもあるから、きっとギルド職員に撤去されてるだろうと考え、強引に心の整理をつけて遠くまで進む。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 さっきまで見えていた街があんなに遠く、そして街の近くでは見ることの出来なかった草食モンスターがヒロトのすぐ横にある湖の岸で水を飲んでいる。

 それだけではない、今では逆に「紅森」の方が近く感じる程の場所まで来ているのだ。

 その道中にムンムン草がないか確認しながら来て、ヒロトは更に二つのムンムン草を見つけた。 いや、ここまで来てたった二つと言うべきか。

 しかし二つは二つ、あと一つのムンムン草を見つけることが出来ればその時点で依頼達成、街へと帰ることが許される。


「はぁ、疲れたなぁ…………………………そうだ!」


 かなりの距離を歩いてきたヒロトは休憩がてらにとそこにある湖の水を嬉々として手ですくい、それを美味しそうに飲み上げた。


「っぷはぁ!美味しい!」


 腕に水をダラダラと垂らしながらも、お構い無しに両手ですくい、チュルチュルと飲み干す。

 すると突然1匹の草食モンスターがヒロトに近づき、鳴き声を出した。


「フモォ」


「うぇ!?」


 そこにはヒロトの他にも草食モンスターが数匹おり、そのうちの1匹がヒロトに興味を持ち、歩み寄ってきたのだろう。

  びっくりして少し大きな声を出すと、その草食モンスターもそれに驚いたのか、元の場所へと戻って行った。

 ヒロトは流石に近づきすぎては危険かと判断し、少し離れた小さな丘の上に座り、休憩を取った。


「あと一つ、あと一つなんだよなぁ」


 座りながらため息をつき、空を見上げながらヒロトはボヤいた。

 終わりそうにない仕事に飽き、ヒロト大の字で丘に寝転んで空を見上げる。 ぼうっとしながら目の上を飛ぶ蝶を目で追うが、時間が経つにつれてそれもやめてしまい、完全に眠る準備へと移行した。


 だが、どこか遠くでそれを許さんとでも言いたげな騒音が聞こえてきた。


「……?」


 その音はギャーギャーと騒がしく、とても居眠りの最中に聴けるようなものではなかった。

 ヒロトは渋々目を開き、音の出所を探るべく辺りを見渡す。


「うーん、あっちらへんっぽい……?」


 音の出所はどうやら湖の付近らしく、ちょうど草食モンスターの村がいた場所だった。

 半開きでまだ視界がぼやけている状態で近づくと、なにやら赤い物体がそこかしらに散らばっているように見えた。

 徐々に視界が鮮明になると、ヒロトの顔は一瞬で固まった。


「あっ、あぁぁ……!」


 散らばっていた赤い物体とは血に塗れた肉片。 そのすぐ隣には、それを貪る肉食モンスターの姿があった。


「こいつって……っ!」

 

 ヒロトはその肉食モンスターに見覚えがあった。

 そう、あれは異世界転移の直後に自分を襲った存在とまるっきり同じなのだ。

 

 彼らはまだ生き残っている草食モンスターを取り囲み、背や喉に食らいついて殺し尽くそうとする。

 そしてその光景を、ヒロトはただただ傍観するのみであった。


 弱いヒロトにとってその事態はまさしく命の危機であり、すぐにでも逃げ出すべきであった。

 ハンターとは生きる為に狩るのであって、狩ることを目的に生きているわけではない。 他の誰でも同じだ、命あっての物種であると。


 一瞬だけ腰が引けたものの、ヒロトはすぐに体勢を立て直して全速力でその場から駆け出した。

 恐らく人生で初めて出したであろうスピードで、その場から離れていった。


 ──きっと、草食モンスターはまだ食べられたままだろうか。

 ──そうだとしたら、自分はそのまま逃げ切ることが出来るだろうか。

 ──もし自分を追いかけて来ていたら、もうおしまいだ。


 全力で走っている最中、そんなことを考えてしまうヒロトはどうしても後ろが気になった。


 そして振り返ってしまう。 自分の斜め後ろ、遠くで微かに見えるはずの草食モンスターの姿はそこにはなく、見えるのは血と肉に塗れた無残な死体のみだった。

 ガタガタと顎を震わせながら視線を自分の真後ろにずらすと、最悪なことに肉食モンスターがヒロトの背中を追って走っていた。


「ひいッ!」


 また情けない声を出した。

 新米とはいえ、彼はもうギルドに認められた立派なハンターだ。 そんな弱々しい恐怖に震えた声を出すことは到底許されるものではない。

 




 ───走る。





 ───走る。





 ───走る。





 全力で、ただただ全力で大地を駆ける。

 背中に見えていたメルタリアの街は遠のき、近づくのは望むはずのない「紅森」。

 しかしここで走る方向を変え、ましてやUターンなどでもしようものなら、その時点でヒロトはモンスターの餌になってしまうことは明らかだった。

 だからどうしても、ヒロトは森に向かって全力で走ることしかできなかった。

 

 死ぬ程入りたくない森は近づくのに、ヒロトの恐怖心を煽ってくる後ろの唸り声は一向に遠のいてはくれない。


「──ッ!」


 そして、遂にその時が来た。

 ヒロトは目の前にある紅森の入り口に全力で突っ込み、アクセルを緩めることなく走り続けてしまった。


 突入してからすぐの頃はまだ道のようなものがありはしたが、走っているうちにそれはすぐになくなり、入り組んだ迷路のような隙間を、岩壁と草木をかき分けながら無我夢中に進んでいた。


「うがっ…………!」


 通れそうな道を探すことに気を取られていたのか、ヒロトはまるで酒場の時のように、木の根っこに足を引っ掛けて体を地面に打ち付けた。

 ここではルルカのように助けてくれる者などどこにもいない。 そう心の中で思ったとき、あの言葉を思い出した。




『こんなの依頼はハンターとしてやっていけるかっていう、ある意味ギルドの試験みたいなもんだ。だから、報奨金は少ないがな』



 



















─────自分はこんなのすら出来なかった。



 ヒロトの目に大量の涙が浮かび始めた。 湧いてきた涙は一瞬で溢れ、ボトボトと雑草に降り注いでいく。

 どれほど自分に力がなく、弱いのかをヒロトは死ぬ寸前でやっと思い知ったのだ。


 あまりにも愚かだったと、取り返しがつかなくなってから自覚してしまった。

 軽い気持ちでハンターになって、アドラには呆られて、受付嬢からはバカにされて、ルルカとまた会う約束は果たせずに、このまま死んでいくのか。

 そんな思いが心の中でループして、とても悔しさが抑えきれない。


「うあぁぁ……っ、がぁ!」


 声にならない声が無様に漏れ出すが、それを止める自制心などもはや機能していない。

 恐怖のあまり理性という人間の特権が奪われて、最後には絶望の中で命すらも奪われていってしまうのかと思うと、ひどく屈辱的だった。


「……だっあら、だっあら!」


 震えすぎて、まともに言葉が出てこない。 しかし、それでも彼は自身の心に残された微量の根気を振り絞り、叫んだ。


「だったらッ!!」


 せめて、せめて最後に、この価値のない命を奪う奴らに一矢報いてやりたい。

 それが弱い自分に唯一できる、『戦い』だった。


 追いかけてきたモンスターが見えてきた。

 顔だ。あの顔に一撃切り刻んでやろう。 絶対に一撃を加えてやる。


「──────来いっ!!」


 高く飛び上がるモンスター。 ヒロトはそれに合わせて上体を反らし、右腕をモンスターめがけて全力の力で振りかざした。



 ────────ここだ。



 弱い自分に強いモンスターが見せてしまった最初で最後の、最大の隙。


 決して逃しはしない。

「はあぁぁぁぁッ!!」

 


 全力の雄叫びを上げ、最大限の力を振り絞って地面を蹴り出してヒロトがモンスターに飛びかかる。

 宙に浮いたヒロトは鉄剣の刃先を地に向け、そして落ちると同時に躊躇することなくモンスターの脇腹を突き刺した。


『ギュゥゥ………!』


 モンスターはその一撃を食らったことでうめき声をあげ、前足をバタバタと動かして必死にもがく。

 その光景を見てヒロトは思った。


 ──こいつは、殺せる。 と。


 すると、ヒロトはモンスターに覆い被さるように抱きつき、既にモンスターの脇腹に刺さっている鉄剣を手に取ってグリグリと円を描くように肉をかき回した。

 腹を突かれた際の比ではない鳴き声が森に響くが、ヒロトにとってその音はまさに痛快そのものであった。


 ──回せ、そして奥へ、肉をかき乱せ。


 その強い念に応える腕は疲れることを知らず、いつまでもモンスターの肉をかき回し続けた。

 モンスターは前足でヒロトの肌を傷つけて抜け出そうとするが、その程度の抵抗で人間の殺意を殺すことはできない。

 やがてはその前足も動きを鈍らせ、ヒロトはその好機を逃さず拾い上げた。


「──死ね」


 横たわるモンスターの喉に全力で剣を突き立てた。 弱々しく動いていた前足は完全に停止し、それが一つの命の終わりを示していた。

 

 亡骸に刺さった剣を抜いたと同時に、冷たい雨が降り始めた。 それは死にゆく魂の流す涙か、あるいはひ弱な少年に狩られた捕食者の憎しみか。

 そんな答えの出ない曖昧な雨では、少年の肌を伝う血はとても拭えない。


「1匹だけ……か」


 最後まで襲ってきたのが一匹だけであるというのを確認し、ヒロトは気怠そうに腕を地面に垂らして、足元に生えていたムンムン草を乱暴に引きちぎりバックパックにしまう。

 

「ハァ、すぐ手に入ったなぁ……」


 力強くヒロトを打ち付ける大雨の中、ヒロトはゆっくりと歩き出し、血のような暗い紅で染まる森から出るのであった。




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