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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第一章 底辺ハンター
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第一章3『依頼を受け、門外へ』

 ハンター登録が済んだヒロトは手に持っていたカードを少しだけ嬉しそうに眺める。


「………ん?」


 眺めているとそのカードに違和感を感じ、視線をカードの名前欄に落とす。 するとそこには『ザコ』 と大きく載っていた。


「なっ、名前言うの忘れてた………」

 

 しかし、わざわざこれを指摘にしに行く勇気と元気は今のヒロトにはなく、若干涙目になりながらカードをズボンのポッケにしまい、ひとまずこれからどうするかを考えた。

 ヒロトが好きなゲームなら、この後はクエストを受けて目的地に向かい、クエストを達成して報酬と報奨金を貰う流れになるはずだ。

 どこかにクエストを貼り付けてる掲示板がないだろうかとヒロトは辺りを探すことにした。

 しかし、首を動かして辺りを見回すがそれらしい掲示板はどこにもない。


「うーん、見当たらないなぁ……二階かな」


 一階は一旦諦め、ヒロトは二階に上がって掲示板を探すことにした。








─────────────────────







 さっきの通り、二階は酒場のようなもので昼からハンター達が騒がしく酒を飲んでいる。 そこにはちゃんと座って酒を飲む者、片足をテーブルに乗せて高笑いする者、酔いつぶれる者と様々な状態に陥っているハンター達だが、誰一人として通路に立っている者はいない。

 そうなってくるとヒロトは周りから浮いてしまう。 なるべく早く探し出そうと急ぎ足で背中合わせのハンター達を割って進む。


「うわぁへぇ!?」


 なんとも情けない声を出しながらヒロトはハンターが置いていた剣につまづいた。 体は倒れ、顔面を床に擦り付ける形で寝ている。

 床にぴったりとくっついてるので傍から見ればわからないが、実のところその顔はヒロトがギルドの入口で見たハンターのように真っ赤であった。


すると、ヒロトが恥ずかしそうに態勢を立て直そうとしている時に、一人の男が心配し、手を差し伸べた。


「大丈夫か?」


「あ、ありがとうございます………」


 手を取り、引き上げてくれた男にヒロトは頭を下げて礼を言い、そのまま掲示板探しに戻ろうとすると助けてくれた男がヒロトを呼び止めた。


「なんですか……?」


「お前、新米ハンターだろ? それも生まれたての」


「そうですけど………僕なにかしましたか?」


 周りがフル装備の中、ヒロトだけが普通の服を着ているのと、そもそもヒロトが弱々しい見た目をしているのを見て、男はすぐにヒロトが戦闘経験のない人間だということがわかった。

 そしてそんな人間がハンターだらけのギルドにいるということはそう、出来立てほやほやの新米ハンターだということである。


「いや、新米ハンターなら何か困ってるんじゃないかってさ。見た感じじゃ、この後どうすればいいか分かんくなってたんだろ?」


 今のヒロトの状態を予想してそう言ったが、ヒロトはそれに対してクエストを受けるつもりだと伝えると。


「クエスト? あー、依頼か。ならクエストボードまで連れてってやるよ」


「ほんとですか!? ありがとうございます!」


 助けてくれた上に親切に目的の場所まで連れていってくれるという、顔も性格もイケメンの男にヒロトは全力で感謝した。

 

「そう言えばまだ名乗ってなかったな、俺の名前はルルカ・オウガスだ。よろしく」


「僕はヒロトです! よろしくお願いします!」


 ルルカの後ろに付いていき、窮屈そうに座っているハンター達の間を歩きながら、そうした自己紹介をしているともうクエストボードの姿が見えた。

 それと同時にハンター達が囲むテーブルも無くなり、窮屈だった歩き方からヒロトは解放される。


「ほら、ここから依頼を受けるんだ。お前の階級じゃまだレベル1のクエストしか受けられないけどな」


「階級……ですか?」


「あぁ、ハンターには【マルス】、【シノス】、【ガドロ】、【ベルザ】の順で階級が存在するんだ。」


 その階級の中でヒロトは【マルス】に当たるらしく、ある程度の戦果を挙げると階級は上がるらしい。 殆どの人間はハンターになってから二年程で【マルス】から【シノス】に、そして腕があるものはすぐにでも【ガドロ】へと昇格するようで、ルルカも先日までは【シノス】に該当するハンターだったが、今は【ガドロ】の階級のようだ。

 

「新米でもパーティーを組めば二年くらいですぐに昇格できるさ。入る前に経験を積むのもいいがな」


「そうですね………じゃあ何か依頼を受けようかな」


「だったらこれなんかどうだ?『ムンムン草5個の調達』 楽だしいいんじゃないか?」


 そう言ってルルカはボードから貼られている依頼書をペリっと剥がし、ヒロトに渡す。

 ルルカ曰くこういった類のクエストは誰かの依頼ではなく、ハンターとしてやっていけるかどうかというギルドによるある種の最終試験のようなものであるらしく、それ故に報奨金もかなり少ないとか。


「でも、やる価値はありますよね」


「あぁ、もちろん」


「依頼書を受付に持っていけば受理してくれるぞ、じゃあクエストが終わったらまた会おうな!」


 そう言ってルルカはハンター達が密集する場所へと戻っていった。 ヒロトもそれに対して返事をし、あの受付嬢とまた話すことに辟易としながら上ってきた階段とは別の階段で一階まで降りる。



 受付カウンターの前に立ち、またカウンターの奥で資料などを整理する作業をしている受付嬢に声をかける。


「はぁい! あぁ」


 声をかけた主を見た瞬間、あからさまに嫌そうな顔をする受付嬢に苦笑いするヒロト。

 ボードから取ってきた依頼書を出し、受付嬢がそれを受け取る。


「…………まぁいいわ、早くハンターカードを出して」


「あっ、はい」


 ポッケからさっき投げつけられたカードを取り出し、受付嬢に渡した。 名前欄にはでかでかと『ザコ』 ヒロトはこのタイミングしかないと勇気を出して悪辣罵倒受付嬢に名前のことを言った。


「あの………この名前欄なんですけ」


「なに? ザコ」


 自分の質問を言い終わらぬうちに雑魚呼ばわりされたヒロト。


「僕はヒロトです! ヒ・ロ・ト!」


「それで?」


「名前を変えてくださぁぁぁぁぁい!!!」









─────────────────────
















「クエストは受理したわ。名前も変えてあげたわよ」


「ありがとうございます…………」


 なぜ上から目線で、自分が彼女の慈悲で名前を変えてもらったかのように言われなきゃならないのだと心の中でヒロトは言うが、それを受付嬢本人に伝える勇気は到底あるはずもなかった。


「裏口に竜車が停まってるわ、さっさと行きなさい」


 そう言われるとヒロトはさっさと受付嬢から離れたい一心で裏口へと早足で向かった。


 裏口につくとそこにはヒロトがメルタリアに来るまでに乗っていた竜車と全く同じものがった。 恐らくあの美人三人組はこれに乗って依頼を達成しに行き、その帰りだったのだろう。

 その竜車の違くには黒い軍服のような、恐らくギルドの制服であろう服を着ている細身のイケメン中年が立っている。 この人が目的地に連れていってくれるのだろうか思い、ヒロトは声をかける。


「あの、運転手さんですか?」


「ん? なんだ少年。俺は運転手じゃない、ギルドの職員だぞ」


「えっ、あっ! ごめんなさい!」


 とんだ勘違いをしたヒロトはすぐに頭を下げ、謝罪する。

 その綺麗なこうべの垂れ方を見た職員はハリのある笑い声でその謝罪を受け取った。


「こいつに運転手、もとい御者はないぞ。 自分で操縦するのさ」


「えぇ! そうなんですか!?」


 まさかのセルフサービスにヒロトは衝撃を受けた。ならどうすれば良いのか、ヒロトの目的地は然華平原と呼ばれる場所だったが、そこに行く方法が分からずじまいになってしまった。


「じゃあ僕はどうすれば………操縦なんて出来ないですよ………」


「ふうむ………少年の目的地はどこなんだ?」


「え? ぜ、然華平原っていうところなんですけど………」


「ならすぐそこじゃないか。歩いて行ける距離だ」


「へ?」


 目的地が歩いて行ける距離だったことにヒロトは更に衝撃を受けた。 ヒロトは今のような杞憂に果てしない羞恥心を覚えた。

 急に異世界に転移したという事態のおかげで少し大胆に、悪く言えばヒロトにとって自棄になっているというのに、この勘違いの二連続は元々引っ込み思案のヒロトにこれはかなり厳しい。


「そっから適当に歩いてりゃすぐに着くぞ。じゃあな!少年!頑張れよ!」


「あっ、あ………ありがとうございます……………」


 顔を赤くし、さっきまでの早足はどこへやら足をゆっくりと動かして、魂を抜かれたように左右に体を揺らしながら遠くに見える城壁の門へと向かうのだった。







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