第一章25話『人ならざるものを追いかける』
どれだけの時間が経っただろうか。 広すぎる森を小さな足跡を頼りにベルカを追い続けるが、ヒロト自身の体力がもう限界まできている。
しかし歩みは止められない。 沢山のハンターを見捨てたが、ベルカだけは見捨てることが出来ない。
歩き続けていると、前の依頼で来たことのある場所へとたどり着いた。 鬼水を調達する時に来た二層へと降りるリフトのある崖だ。
そして足跡はそこまで続いている。
「足跡が……二層に降りたってこと?」
ベルカの足跡が崖に設置された二層へ続くリフトの前で消えていた。 きっと、このリフトを使ってガルディノスから逃げたのだろうと考え、ヒロトは二層へと降りる。
(どうして二層なんかに? ガルディノスの足跡は無いし……)
ベルカが二層へと向かった意味が分からず、リフトの上でヒロトは考え続けた。
「うわっ、すごい音だなあ……」
ヒロトがベルカを探している途中から森は嵐に見舞われた。 豪雨、暴風、迅雷がひっきりなしに紅森で暴れ回っている。
(そうか、きっと二層の洞窟に避難したんだね。 そこを目指せばきっと……)
リフトから降りて、ヒロトはそのまま洞窟を目指そうとする。 マップは開けないが、鬼泉の時に見た二層のマップで大体の構造は覚えている。
二層は土や砂の地面が少なく、足場は基本的に岩肌で、あったとしても雑草に覆われているために足跡からベルカを探すのは難しい。 洞窟という憶測だけを信じて、記憶を便りに川沿いを下り、隣の林からディノスが飛び出してこないかを警戒しながら進む。
数十分ほど歩き、川はやがて湖へと繋がった。 この湖からより東へと進むことによって二層の洞窟へと辿り着くことができる。
「よし、もうすぐ……って、ん?」
方向を変え、いざ林を通らんとした時、ヒロトは地面に生えた雑草が何かの形をしたように折れていることに目がついた。
「これって足跡?」
地面に出来る足跡よりも浅く、素人目ではよくわからないがこれはきっと何かの足跡だとヒロトは決めつけた。
形はまるで恐竜の足のようで、それなりの大きさを誇っている。
「って、ガルディノスの足跡だよねこれ!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
(だとしたらまずい……ずっとベルカを追いかけてたのか?)
またしても心に焦りが迫り、冷や汗を背中にかき始める。
今はとにかく、洞窟まで急ぐことが最優先される。 ヒロトは急いで東へと走り出した。
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暗い洞窟の中、天井の鍾乳石から落ちる小粒の水がうなじを伝う。
狭い空間に反響する音が気持ちよく、同時にそれが怖くもある。
「ここに、きっとここにいるはずなんだ……」
ただの予想、願望、希望的観測。 それだけでここまで来てしまった。
洞窟に来る途中、或いは洞窟を探している途中にベルカが死んだらどうすればいいのか。
たった一つの体でどうすればよかったんだ。 本当に洞窟に来るべきだっのかと。 誰が言ったわけでもない言葉が頭の中で駆け巡る。
(間違っていても、絶対諦めないから!)
状況によって無理やり決めさせられた覚悟を抱き、暗く不気味な洞窟へと臆することなく入って行く。
洞窟の奥深くへ進んでいくと、チョロチョロと水が流れてくる音が聞こえた。
どこから流れているのか、深い川が洞窟の中を通っている。
「ベルカー! いたら返事をして!」
ヒロトの大きな声が反響し、揺れる唇から飛び出した声が洞窟の奥へと駆け抜けていく。
──返事はない。
「ベルカ! ベルカー!!」
何度叫んでも返事が来ることは無かった。
そしてヒロトはここで迷い出す。 このまま洞窟を探し続けるか、引き返してベルカを二層で探し回るかを。
この洞窟がどこに、どこまで続いているかがわからない。 何がいて、どうなるかもわからない。
しかし、いないのなら奥へと進むしかない。 まるで階段を降りるような感覚で洞窟のさらに地下へと進む。
「なんか狭くなってきたなぁ……怖いんだけど」
軽い閉所恐怖症持ちには厳しい道を肩を狭くしてなんとか降りて行き、やっとの思いで抜ける。
すると、かなり広く明るい場所へと出た。
「ふわぁ……」
本当に現実離れしているこの世界はひたすらにファンタジックで美しい。
この洞窟は特にそうだ。 クリスタルのような形をした鉱石がいくつも壁から突き出ていて、それが淡い緑に光っている。
洞窟の床や壁、天井はもちろんのこと、ヒロトの顔にまで緑の光が映る。
「落ちたら戻って来れないだろうなぁ」
真ん中は下へ吹き抜けになっていて、緑の光がその下の湖を照らしているのでよく見える。
二つの分かれ道があり、ヒロトはとりあえず右の道から進もうとする。
──その時、ヒロトの脚がグラっと揺れる。
(嘘でしょ……っ、こんな時に?)
唐突に、それも最悪の状況で眠気がヒロトを襲った。
こんな一大事に少しでもまぶたを下げるなど冗談ではない。 眼球の裏から影が迫り来るように、今は憎い睡魔の腕が視界を支配しようとしてくる。
(進まなきゃ……ダメだっ、声すら出ない!)
体が前に倒れそうになるのをなんとか耐えつつ進んでいこうとするが、どうも脚が動かない。
遂には膝を地につけ、だんだんと体が倒れていく。
見えているもの全てが暗くなってゆく中、ヒロトはただ一つの名前を呼び続けた。
「ベル……カ」
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きっと、自分は自分ではない。 これは自分ではない誰かが主人公の──
『──それ、殺した後はいつもどうしてるの?』
漆黒の鱗で覆われた龍の死体を指さし、それを見ている男に問いかける。
『まぁ、適当に消すか物好きに渡すかだな。 っていうか、嬢ちゃんはこれに興味があるのかい』
男は少女に目も合わせずにそう言いう。
『興味なんてない。 どうして殺すの?』
『んあ? そりゃお前、龍が邪魔だからだよ』
『どうして邪魔なの? どうして邪魔だから殺すの?』
男に対して少女は己の疑問を畳み掛けるようにぶつける。 男は心底めんどくさそうにしているが、頭をポリポリとかいてこう答えた。
『殺さねぇと俺達の人──』
─────
────が
───龍
──
─殺されるからな。




