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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第一章 底辺ハンター
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第一章1『モンスターの世界』

 二千十八年一月二十六日、世界で最も期待されていたモンスターハンティングゲームが遂に発売される。

 ダウンロード版が主流となったこのご時世ですら店舗には行列が作られ、少年はその先頭に立っていた。


「寒っ……ここまで人が集まるなんてなぁ」


 開店時間まであと十数秒。 あと少しの辛抱で期待の作品に手を取ることができるワクワク感が、朝の冷たい風とともに彼の胸を震わせた。


「もう少し、もう少しだぞ……!」


 寒さとゲームを待ち焦がれる心で少年は体をブルブルと震わせ、両手を擦り合わせてせめてもの暖を取る。

 そうして待っていると、シャッターの段が擦れ合う重々しい音とともに店の内装が露わになった。

 店員が行列に対して開店を知らせ、それを聞いた少年は誰よりも早く足を動かし、早足で店に入っていく。 それに従い、後ろの列も少年について行った。


 少年すぐにゲームのパッケージを手に取り、それを大事そうに抱えてレジまで持っていく。

 会計を済ませ、レジ袋にゲームを入れてもらい、浮かれた気持ちで少年は店から出た。


「やった、待った甲斐があった!」


 今にも踊りだしそうな表情でそれを胸に抱え、小走りで家へも向かう少年。

 途中にある横断歩道で足を止め、喜びに膝をソワソワさせていると、道路になにか白い物体が落ちているのが見えた。


「なにあれ、車が危ない──って、あれ白猫……?」


 よく目を凝らして確認すると、それは子猫だった。

 それを理解した瞬間、少年はその子の元へと駆け出した。


 華奢な少年の体では出るはずもないであろう力で地面を蹴り続け、彼はすぐに子猫を抱え上げた──が、時間に余裕はなかった。 

 既にトラックが少年の目と鼻の先にまで迫っていたのだ。

 

 運転手の悲壮な顔と、状況を理解できていない子猫の甘い鳴き声。

 

「─────」


 少年は全力で子猫を歩道に投げ込んだ。

 できるだけ優しく、なんてことをしてやれる余裕なんてありはしなかった。

 もう少年にできることといえば、驚いた顔で宙を舞う子猫を見つめることだけだ。 それも、着地の瞬間までは見られない。

 

 「こけるなよ」──なんて心の中で呟いた瞬間、少年の意識は途絶えた。
















『トリガー』

────────────────────────






「──────?」


 うっすらとまぶたを開いて、何気なしに辺を見渡した。

 そこから見えるのは連なる黄色い山と草木が生い茂る森、そして平坦な平原だった。

 近くには通常よりも耳の長いウサギと、やけにカラフルな小鳥が集まってきている。

 その状況はどう考えても現代日本という雰囲気ではなく、ましてやゲーム屋の前にある横断歩道とはとても思えなかった。


「生き、てるの……?」


 自身の体をベタベタと触り、体の異常を探るが全く綺麗なままであった。


「じゃあ、天国!?」


 それしかない、とある種の確信めいた物言いで少年は叫んだ。 周りにいた小動物はその声に驚いて近くの森へと逃げていく。


「もし本当に死後の世界だったら……僕はなにをしたらいいんだろう」


 夢が現実かもわからない世界に突如として放り出され、少年は当然のように途方に暮れ始めた。

 普通、死者のその後を導いてくれる天使がいるのではないか、そうじゃなくても誰かしらいるべきじゃないか。 そんな考えが頭の中でずっと響いている。


「おーい、誰かいませんかー!」


 大きな声で呼びかけても、誰からの返事もない。 あるとすれば小鳥のさえずりや風のこすれる音くらいのもので、それがどこか不気味さを醸し出していた。



 すると、突然少年の後方からなにか"咆哮"のような音が聞こえた。


「うひゃあっ!」


 情けない声を上げて腰を抜かし、少年はその場に触り込んでしまった。

 後ろから聞こえた音──否、声は確実に人ならざるもののそれであり、少年の本能が『警戒に値する』と判断するほどの"恐怖"を纏ったものだった。


 震えながら後ろを振り返ると、遠い空の向こうに綺麗な蒼色をした何かが微かに見える。 目を凝らしているうちに、その蒼はどんどん少年に近づいてくるのだ。


「─────」


 蒼に見惚れるあまり、少年は言葉を失って釘付けになる。

 そして、いよいよその蒼の正体が正確にわかる距離まで来ると、少年は竦んでしまった。


 その蒼の造形は、正しく竜そのものだった。

 しかし、それにしては姿が典型的ではない、あれは二本足なのだ。 これではまるでドラゴンと鳥を足したようで、言ってしまえば少年がプレイする予定だったゲームの敵のような見た目だ。

 蒼の竜は少年のはるか頭上を通り過ぎ、そのまま平原の果てに見える黄色く染まった山々へと姿を消した。


 連なる黄金の山と遥か上空から射す太陽の光、そしてその光に照らされながら空を飛ぶ蒼の竜。

 その光景はさながら剣と魔法のファンタジー世界のようで、少年の心を強く穿つものだった。


「すっ、すごい!」

 

 少年は涙目で竜が消えた山を見つめ、拳を握りしめる。 その拳から肩にかけての腕は鳥肌が立ち、少年を別の意味で奮わせた。

 すると、今度は少動物達が逃げた森の方からガサガサと騒がしい音がする。


「え、えっ?」


 生茂る草木が揺れに揺れ、そこから生まれる音は次第に大きくなっていく。

 少年はその光景をじっと見つめる。 厳密に言えば、恐怖で立ちすくみ、じっと見つめる以外のことが出来なくなっていた。


 葉と葉が擦れる音が突如としてとして枝が折れる音に変わり、それと同時に森から小さいラプトルのような生物が飛び出してきた。

 

「────!」

 

 黄色いクチバシからはみ出す牙を見て、それが肉食の生き物であるということはすぐに理解できた。

 そうなってしまってはもう彼は動けない。 対峙したことのない恐怖を前にして、少年は捕食者の餌になることを拒めなくなったのだ。


(死ぬ! ダメだ、死ぬ!!)


 二度目の死。 今度はたっぷりと恐怖を味わえる時間を残して死んでいくのだと少年は悟り、目を瞑る。

 



「ダァァァァァァァァ!!」


 諦めかけた瞬間、どこからか人間の叫び声が聞こえ、グシャッと生々しい、聞いたことのあるような音が少年の耳に響く。

 

「もう大丈夫だぞ、 危なかったな」


 目を開くと、そこには信じ難い光景が広がっていた。 さっきまで自分を襲おうとしていた生物が、原型を留めないほどにグチャグチャに潰されて死んでいたのだ。

 少年は何が起きたか分からず、声がする方向に顔を向ける。

 目に映ったのは、人の身長よりも大きいであろう大剣を手に持つ端麗な顔つきの女性だった。

 

「あっ、ありがとうございます!」


 少年は座り込んだまま、反射的に礼の言葉を口にした。


「礼などよい、ハンターとして当然のことをしたまでだ」

 

 ハンターと名乗るその女性は、握っていた大剣を背負いながら少年に手を差し伸べる。

 聞き慣れない、『ハンター』と言う言葉に疑問を抱き、女性に訪ねた。

 

「知らないのか……世間知らずだな、温室育ちか? ハンターというのは、さっきのような『モンスター』から人々を守る職のことさ」


「へぇ……! かっこいいですね!」


「おい──ッ!」


「あっ、すいません……」


 少年は目を輝かせ、大きな声で褒めながら女性に顔を近づける。 急に顔を近づけられて女性は驚いた顔をし、少年は顔を赤くしてすぐに謝った。


「アハハッ、大丈夫だ。それより名前を聞いていなかったな、少年。 私はアドラ・シアンだ。よろしく」


「僕はヒロトです! よろしくお願いします!」


「近くに私達の竜車が止まってる、どうせ戻れないだろ?乗っていきな」


「ありがとうございます!」


 お互いに名乗り、ヒロトもだいぶ落ち着いてきただろうと見たアドラはヒロトを近くに止めてある竜車まで連れていく。

 

 アドラに連れられ、見た感じ恐らく草食動物であろう動物が引く竜車まで行くとそこには他に二人の女性が待っていた。

 向こうの二人はヒロト達に気づき、一人が元気よく手を振る。

 

「あの人達は……?」


「私の仲間だ。パーティーを組んでいる」


 パーティーとは何かをヒロトがアドラに訪ねると、パーティーとはモンスターを狩る為に組んだチームであると言われた。

 ヒロトが納得したのと同時にヒロト達は足を止め、そのまま竜車へと上がった。


「おかえり、アドラ。 助けた子ね?」


 そう言ったのは金髪ショートのまた綺麗な女性だった。

 その女性はヒロトの顔をジロジロと舐めまわすように見つめる。


「えぇっと、あの……」


「あっ、ごめんなさい! 私はアリス・フォーラン! よろしくね!」


「えっ、あっ! 僕はヒロトです!」

 

 気まずそうにするヒロトを見て慌ててその女性はアリスと名乗った。

 いきなり大声で名乗られるものだからそれにまたヒロトも慌てて名乗ってしまう。


 すると今度は水色の髪をした、またショートカットの小さな女性がヒロトを見つめている。


「弱々しいわね」


「ふぇっ?」


 突然の罵倒に少年は間の抜けた、それこそ弱々しい声を口からこぼしてしまう。

 

「おい、メリア。 いきなり失礼だろ」


「事実」


 止まぬ罵倒とそれが事実であるということにヒロトは苦笑いする。

 このままじゃこっちが居辛いとしてヒロトはメリアに名前を教える。


「メリア・シェツライン」


 最低限。いや、よろしくの一言すらなくメリアは自分のフルネームだけを答える。

 それにヒロトはまた苦笑いをするしかなく、この人とはどう接すればいいのか頭の中で考えていると竜車が動き出した。


(天国じゃなさそうだなぁ……)


 天国では無かったことにがっかりするかそれとも喜ぶか、小さく思えるが実に壮大で非現実的な葛藤をヒロトは頭の中で浮かべる。


(街に着いたらどうしよう)





 不安を抱えるヒロト。

 しかしこれから行く街で、既に異世界転移している自身の人生をまた大きく変える物語が待っていることをヒロトはまだ、知ることは無かった。







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