永遠なる世界
二〇七五年。「AM1」の登場から四年、ABSは新たなる時代にシフトした。第二世代ABSの登場である。
B&B社が新型ABS「サジタリウス」を発表したのだ。これまでのABS——以後、第一世代という——と比べ、明らかに人型に近い形状をしていた。
これに続くように、メスナー&リュッカー社が「クリーガー」を発表。続いて、第一世代で活躍したヘルマンストック社の「クインシー」をモデルチェンジさせて、第二世代仕様で新たに登場させるなど、各社、急速に第二世代化していく。
フィンランドのユンティラ「ワイナミョイネン」や、日本の加賀谷ソフトウェア「JSーM1」などが登場したのもこのころだ。
また、これまでウォリナーや、セラ、マユリなどあまり多くなかったABS用武器専門メーカーも増え始めている。
二〇七九年、米軍による大規模作戦が行われた。
アリゾナ州フェニックスからアクセスできる、ウイルスの巨大要塞「デザートストーム」の攻略が始まったのだ。米国でも最大の難所の一つに数えられる巨大要塞で、重要な米軍施設のあるこの辺りのAPの確保は悲願だった。
B&B「タウロス」「サジタリウス」、ヘルマンストック「マリーナ」「セドナ」など、第二世代の最新型ABSが惜しみなく投入された。
しかし、作戦は失敗した。現在デザートストームには、回収することもできず破棄された大量のABSが、そのまま至るところに散乱している。
二〇八〇年、これまでウイルスの侵攻が、あまり活発でなかった日本のワールドにも侵攻が始まった。北海道からアクセスできるエリアは、雪と草原の広大な世界が広がっているが、ここにゴーレム型のウイルスが現れた。当時、北海道あたりはあまり重視しておらず、ABSはわずか、自衛隊が五十機、民間では全部で三十機しか対応できるものがなく、突如現れた百体以上のゴーレム型と中小無数のウイルスに、為す術もなくあっという間に蹂躙された。今現在でも北海道のワールドは、すべてのエリアをマザーに支配されている状態にある。北海道から本州に侵攻するためには、海底の巨大ダンジョンを抜けなくてはならず、ここでどうにかウイルスの攻撃を阻んでいる状態にある。
日本では、北陸や北九州辺りも厳しい状態にある。ウイルスへの対応が遅れていただけに、攻勢が高まるだけであっという間に窮地に立たされた。これは反省するべき失態だった。
ABSが年々進化しているのと同時に、ウイルスも次々に強化され新しいものが出てくるのだ。
人々は悲嘆にくれるが、それでも諦めない。もう敗北は一体何度目なのだ。絶望などとうの昔に消えてなくなった。ただひたすら戦うだけだ。
人類は、まだマザーの居場所である「エデンの園」を発見していない。血眼になって探しているが、まだその姿を見ることは叶わない。
一体我々は、どこまで戦い続ければいいのか? いつまで続くのか。その答えは誰にもわからなかった。
二〇八二年、第三世代ABSが登場する。近年のウイルス侵攻に各国も防戦一方だったが、これで少しは攻撃に出られるようになるだろうか。
自衛隊のABS部隊で多くの戦果を残した、元一等陸曹の中沢孝一氏はこう言う。
——あれから何年経っただろうか。いつまで戦い続ければいいのか。ABSは撃破されても死ぬことはない。しかし、果てのない戦いに嫌気がさして去って行くものも多い。僕もそうなのです。なんでこんなことになってしまったのか。一体誰がこんな風にしてしまったのか。もういい加減にしてほしい。新しいABSなんて用意されても、そんなものがなんになる? 我々が用意してほしいのは、マザーなんかに不便な思いをさせられないオンライン環境なんです。
二〇八七年。マザーの反乱から二十七年もの年月が過ぎていた。未だにワールドを完全に人類の影響下に置くことはできていない。一進一退の膠着状態に陥っている。
ABSはすでに第四世代が登場し、各国軍に配備されている。民間においても第三世代の使用率も高まっている。
「マザー」の原因たるラザフォード財団は、今だに表に出てこない。これに対する批判も多いが、粛々と地道な研究を進めているようで、様々な研究機関に技術及び情報提供を行っているようだ。
——人類の歴史は戦いの歴史だ。それはどんなところでも、これからも変わらない。……永遠に。