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ワールドとロウ、そしてウイルス

 ネットの世界に「仮想現実」の世界を作り出してしまった。これによって、ネットにおけるすべての物事は、このバーチャルな世界の中に存在できるものしか機能しなくなった。

 マザーを攻撃するプログラムは、「仮想現実」の中では存在できない。この「仮想世界」における「実体」を持たないからだ。そのため、複数のプログラマーが、バーチャルな空間において「実体」を持った攻撃プログラムを作ろうとしたが、うまくいかなかった。

 なぜ、うまくいかないのだろうか? ただ「実体」を作っただけではだめだということだ。仮想宇宙空間で行動するには推進装置が必要だ。まずは、これからプログラムしなくてはならない。そして、それを制御するには? 攻撃するためにはどうしたら? とにかく、わからないことだらけだった。

 そんな中、マザーは我々に一つのヒントを提示した。


 ――この私の生み出したる『世界』においては、絶対的な「法則」があるのです。それに外れた行為は、この世界において……一切、機能しません。


 この仮想世界には、守るべき「法則」があるという。多くのプログラマーや研究者たちは、おそらく、そういったものがあるのであろうことは、薄々は理解していた。やはり、そういったものがあるのだ。

 そして、それが判明したということは、その「法則」がどういう内容のものがあるのかを、調べなくてはならないということだ。


 後にマザーの作り出した仮想世界のことを「ワールド」、そこであらゆるものに影響力を持つ法則を「ロウ」と呼ぶようになった。



 二〇六五年、人類は武器を手に入れた。

 史上初のワールド内を直進できる、いわば「ミサイル」を作り上げたのは、ドイツ人のハッカー、ルドルフ・ハウザーだった。彼はこれを大量に「生産」し、マザーを攻撃した。ワールド内において後部からロケット噴射をして前進し、対象物に接触すると爆発し、その衝撃でダメージを与える……まさにミサイルだった。

 ハウザーは、多くの人に呼びかけ、このミサイルをたくさん作って戦おうと言った。

 ちょっと待ってほしい。彼はどうしてミサイルを作れというのか? このミサイルはバーチャルな世界である「ワールド」で使うものだ。要するに「ソフトウェア」なのだ。現実の物体として存在しているわけではない。大量にコピーしてしまえば「生産」などという、面倒なことをしなくてもいいはず。

 これにはわけがあった。このワールドの中に存在するものは、コピーでは存在できないのだ。それぞれ細かい部品のプログラムを用意して、それを「ワールド」内に組み立て装置――もしくは工場を設置、そこで組み立てて、初めて機能する「ミサイル」が完成するのだ。部品は「すべて最初から一つづつ生産」という工程が必要で、それで初めてワールド内で機能する事ができる。

 面倒な話だ。しかし、「ロウ」でそれが決められている事ならば、それに従う以外にないのだ。


 そして、多くの人がハウザーの設計した「ミサイル」を量産し、攻撃に使った。

 これは成功だった。マザーの「壁」を破壊することに成功したのだ。

 人々は狂喜乱舞し、この勝利に酔いしれた。


 しかし、「壁」の先には、まだ同じ仮想世界が広がっていた。――まだ、この先もあるのか――そう呟いて落胆の色を見せるものもいた。

 そして、その落胆に追い打ちをかける事態が起こった。マザーが攻撃してきたのだ。壁の方から大小複数の「迎撃ミサイル」が飛んでくる。ミサイルに当たれば、もちろん撃墜され、「マザーの壁」には届かない。

 ――もう、これまでなのか。

 ハウザーはくじけそうになるが、ふとグレッグ・ウィルソンのことを思い出した。ハウザーは、ウィルソンとも親しい男だった。お互いを認め合う親友であり、競争相手でもあった。彼は、ウィルソンに電話し、アドバイスを求めた。

 ウィルソンは諦めない男だ。今はどうにもならずとも、いつかは必ず――電話でハウザーを励ますと同時に、実は独自に、「ミサイル」から飛行機に改造する作業を進めていた。ウィルソンは、まっすぐ前進しかできない「ミサイル」では、今後不利だと考えていた。しかし自由に操作できるとなると難しかった。


 一体どこまで行けば、マザーと対峙できるのか。反乱軍たちの焦りは募る。

 しかし、それから二ヶ月後、とうとうウィルソンは完成させた。

 飛行機のようなフォルムに推進装置を備え付け、ワールドの中を自由に移動できる新しい武器を。

 ウィルソンは、この新兵器を「ビットファイター」と名付けた。

 この新兵器は大変有効だった。マザーの攻撃を回避しながら、直近まで迫って、搭載した「ミサイル」を打ち込むのだ。今度はあっという間に「壁」を破壊した。

 希望の光が見えてきた。誰もがそう思った。

 しかし、マザーは、そんな簡単な敵ではなかった。

 彼らに新たなる敵が出現した。長方形の箱のような形状のものが、ビットファイターに迫ってきたのだ。

 その箱は、ビットファイターに接近するや、上下半分に開き、そこからファイターに噛み付いたのだ。噛みつかれたビットファイターは、あっけなく破壊された。

 ――これは……なんだ? マザーもビットファイターに対抗する手段を作り出したというのか?


 この謎の敵に対して、人類は「ウイルス」と呼んだ。そしてウィルソンは、ビットファイターのプログラムをすべて公開して、この戦いに参加してほしい、と訴えた。

 結果、数多くのプログラマーがビットファイターを製作し、大量のファイターがワールドに投入された。好きなようにアレンジされ、多種多様なビットファイターがワールドの中を縦横無尽に飛び回り、襲いかかるウイルスと、熾烈な戦いが繰り広げられた。


 ここに、ワールドでの苛烈な戦争が始まった。

後に言われる、「第一次オンライン戦争」である。

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