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マザー

 二〇五六年十二月。ネットワーク管理システム「マリア」は、大きな問題もなく運用されていた。安定的かつ、これまでより膨大な処理が可能になったこともあり、ネットの活用はさらに広がった。

 人類の抱える問題は未だ数多いが、これでネットの問題が一つ解決した。

 ここで、このマリアについて語ろうと思う。


 「マリア」は、アメリカにある研究機関「ラザフォード情報技術研究所(RITI)」で研究開発された。ここは、カリフォルニア州ロサンゼルスにある私立大学「ラザフォード大学」内にある。大学はラザフォード財団によって経営されており、もちろん研究所も財団によって作られたものだ。

 この研究所の所長がジョシュア・ディックだ。

 研究所には、ディックを筆頭に、七人の優秀な科学者がおり、彼らが「マリア」を開発した。この七人の科学者は、

 ジョシュア・ディック(アメリカ)

 ヘレン・ブキャナン(イギリス)

 ヒラリー・グレイ(アメリカ)

 ジョナサン・フィッシュバーン(アメリカ)

 カミーユ・ブリュネ(フランス)

 サティア・ロイ(インド)

 フリッツ・バルマー(スイス)

 の七人だ。

 皆、優れた科学者たちであり、世界的にも著名な人物である。


 ジョシュア・ディックは、アメリカ国籍の男性。二〇五六年時点で四十五歳の独身。幼い時から神童と呼ばれるくらい優秀だった。兄弟はおらず、十五歳の時に父親を事故で失い苦労するが、その天才ぶりを遺憾無く発揮し、研究所などで数々の実績を積み重ねていった。

 二十代後半に、AIの研究を始めて、この分野でも大きな実績を積み上げて行くが、三十三歳の時に、最愛の母を病気で失い、数年の間、第一線から姿を消す。しかしその後に復帰すると、以前にも増して研究に没頭し、同僚たちには別人のようだとも言われている。

 四十一歳の時に所長に就任し、以降はマリアの研究を進めつつ所長として研究所を率いた。そして、とうとうマリアを提案し、運用することに成功した。


 ヘレン・ブキャナンは、イギリス国籍の女性で、四十二歳。研究所の副所長。既婚、二児の母。

 若い頃にイギリスの研究所で研究を続けていた人物で、イギリス国内のネット環境の向上に大きく貢献している。十年ほど前にディックのAI研究を見て興味を持ち、自身も独自にAIの研究を始め、ほどなくラザフォード財団の招きに応じて研究所で働くようになって今に至っている。

 他の科学者たちも同じように、その優れた能力を評価され、財団の手によって招かれた。


 研究所を創設した「ラザフォード財団」。フィリップ・ラザフォードが二〇二八年に創立された。

 アメリカでソフトウェアメーカーに勤務していた、フィリップの父、アーサー・ラザフォードが三十代の頃に友人とともに独立した。その後、十年ほどで大きく成功し莫大な資産を蓄えた。アーサーが六十歳になる頃には、米国有数の富豪にまでなった。それを元に息子のフィリップが創設した。現在財団を率いているのは、フィリップの長男スティーブ・ラザフォード。フィリップはすでに身を引いているが、裏では財団に影響力を持ち続けているとも言われている。

 ラザフォード財団には悪い噂もある。米政府との黒い関係がマスコミに取り上げられるなど、急速に様々な方面への影響力を広げていることへの批判もある。共和党のトニー・ジェイン下院議員や、コリン・ベック上院議員などの複数の議員と親密だと言われる。



 運用から約一年ほど経ったころ、「マリア」は「マザー」と呼ばれることが多くなった。

 初めは、ネットのコミュニティなどで呼ばれ始め、それをマスコミが取り上げた。すると多くの人に伝わって、今やマザーと呼ばれることの方が多い。

 なぜ「マザー」なのか。諸説ある。

 開発者である、ジョシュア・ディックの母の名が「マリア」であったという説(実際にディックの母の名は「マリア」という)。

 ネットを管理するにあたって、独自にネット世界を構築し、その新しいインターネットシステムの生みの親、という意味だという説。

 などが言われている。


 我々は、この新しき「母」の元で、よりよい未来に向けて着実に歩き始めている。




 「マザー」の運用開始から、半年ほど経った頃。拠点である研究所では、少しづつ変化が起こり始めていた。

 ジョナサン・フィッシュバーンと、フリッツ・バルマーが意見の違いから、険悪になりつつあった。マザーの思考レベルを上昇させたいフィッシュバーンと、一定のレベルまでに止めておきたいバルマーの考え方の違いで口論になることが増えた。

 フィッシュバーンは、もともとAIの進化をずっと研究し続けていたこともあり、AIがどこまで行くのか、その先を進めたかった。

 反対に、バルマーはAIの、その思考能力に恐れを抱いている。際限なく好きなようにさせていいものか。それはとても不味い未来が見える。と周囲に漏らしていた。

 研究所としては、バルマー寄りの考えで、マザーには制限を与えた方がいいという方針だ。ディックももちろんそう考えていた。

 しかし、フィッシュバーンは納得がいっていないようだ。彼と親しいヒラリー・グレイは、彼の考えに賛同しているようで、フィッシュバーンとグレイの二人で、制限派に対抗していこうとしていた。

 バルマーは特に親しいサティア・ロイとともに、フィッシュバーンたちと対立した。

 この二派の対立は、所長であるディックにとって悩みの種だった。マザーの運用自体は順調であるものの、この対立が、運用に悪影響を与えかねないと感じていた。

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