プロジェクト始動
社会にインターネットが深く根付き、人類の生活になくてはならなくなってしまった頃。人類は本当に何をするにも、ネット環境を前提とした社会の上にいた。例えば家庭環境。一日の生活スケジュールは、AIが補助して作成され、それがネットであらゆる部分に繋がり共有されている。なので、仕事に行くのも、学校に行くのも、あまり意識することなく、流れるように行うことができる。すべてが予測され、それを他と共有することで何も煩わしいことなく、あらゆることができるようになっている。
これほどまでにネット環境が発展すると、当然のように問題点が露出してくる。一体に何が問題なのか? それは――ネット利用があまりにも多岐にわたり、また、あまりにも多すぎて、ネットワークが混雑してしまうのだった。
これは当然の有様で、以前からもずっと専門家たちが指摘しており、各国でも対応を検討していた。しかし、あまりにも発展しすぎた今の環境は、もうゆっくり考えている余裕はなくなっていた。
二〇五五年、四月十八日、国連は、ある会議を開催した。この会議は議場となった地の名前をとって、「カリフォルニア会議」と呼ばれた。
この事態を重くみた国連は、複数の科学者や専門家からの提案を聞いたのだ。
彼らは、『「AI」にネット環境全体を管理させる』という提案をした。
人間がすべてをやってしまうには限界があり、それを超えるためには「AI」の活用が必要不可欠だと断言した。特にアメリカの科学者、ジョシュア・ディックは、そのために数年前から計画をしており、それを国連で披露した。比較的簡単はテストではあったものの、その凄まじい予測の正確さと処理能力は、世界各国の政治家たちを唖然とさせた。
ディック博士と親しい科学者たちも、これを後押しし世論も高評価だった。結果、国連が予算を投入して、さらなるシステムの開発を行い、その後、他のアイデアと競争することになった。
一年後、第二回カリフォルニア会議にて、ディック博士のチームが作り上げた「AI・マリア」は、すべてにおいて他案を圧倒した。
そして国連は、満場一致でマリアの運用を決定した。
その約半年後、マリアの運用が開始され、世界各国で新しいネットワークによるネット環境が始まった。
新しいシステムであるにも関わらず、特に問題もなく、円滑な運用が続き、マスコミは、「これで人類は、文明が五十年は進化する」とまで言って歓迎した。
実際に、これまででは考えられないくらいにネット環境は円滑になり、多くの人々は、「ネットにアクセスしている」ということをほぼ意識することがないくらいだった。
――我々の、母なる「マリア」に抱かれ、ようやく安寧の眠りにつくことができる。もう心配することはないのです。我々はもう、すべてを「母」の言葉に耳を傾けていくだけで、永遠の安らぎの中で生きていけるのです。
――ジョシュア・ディック