民主主義
民主主義
人類が果てしなく続く、広大な「宇宙」という「新たな」居住地を開拓してから既に長い年月が経った。今では、「古い」技術として、未知の地を求めて、人間は旅立つ。旅立つ人間は、人間社会全てを司る、人類自由同盟という一つの共和政府の下、民主主義という名の多数決により、追放された犯罪者であった。
惑星間の行商を生業とする1人の男がいた。男がとある惑星に降り立った時、いつもの様に現地民と交易をし終え、交易船に乗り込もうとした時に、男の手の平ほどの大きさの羽虫を見つけた。男が羽虫を見ていると、羽虫が男の鼻にとまり、なんと、喋りかけた……
それからしばらくして、男は行商から見世物屋に変わっていた。羽虫を突いたり、足を持って振り回したりと、酷い事をして星々で住民から金を得ていたのだ。人語を解する羽虫は行く先々で話題を呼んだ。羽虫は実に苦しそうに、男にされるがままであった。
しかし、この男の所業は全ての惑星、住民に受け容れられるはずもなく、遂に男は人類自由同盟の中央議会(最高決定機関)に連行された。そこで男は、自分が羽虫に出会った経緯、してきた事、そして、それらは全て当然の権利であったと堂々と証言した。それに対し羽虫は、男からの残虐行為の数々や、どれだけそれが苦しく、悲しかったかを話した。
そして、議会は男に反省の意思が見られないことと、羽虫への同情から男を追放にし、羽虫にこの様な決定を下した。
「体は小さくとも、我々と意思疎通、会話ができ、知性もあり、我々と対等に扱われるべき存在である。」
とし、羽虫に彼らと同じく、国民としての権利の全てを与え、国民とした。
議会は、4年に1度選挙が行われる。まず、国王を選挙で選ぶ。全惑星での総選挙だ。国王には法律の発議、議会決定の拒否権がある。
次に議員選挙だ。これは、惑星事に議員を決めて、中央議会に送る。
全ては直接投票により決定される。
そして、選挙の時が来た。国王戦には、現国王と17名の立候補者、そして、羽虫が立候補した。投票の日に、羽虫が全惑星一斉放送でこう言った。
「同胞よ、立ち上がれ。今こそ世界を変えようぞ」
全惑星で何千億、何兆もの羽虫達が現れた。そして、一斉に投票所に押し入った。
慌てた議会は、軍隊に止めさせようとしたが、羽虫を国民とする法律を作ってしまったので、投票自体に羽虫は罪がない。羽虫達の権利を剥奪しようとしたが、憲法が邪魔して出来ない。そうして、人類の何倍もの数の羽虫が投票した。国王は羽虫に決まった。議員ももちろん全て羽虫が当選した。そして、羽虫有利の法律をどんどん通し、遂には人類の権利を剥奪出来るように、国王と議会が憲法改正案を通し、国民投票で圧倒的羽虫の数で可決させた。人類は羽虫の家畜となったのだ。
追放処分になった男は、船の中で無実を訴えていたらしい。
「俺は脅されて羽虫を虐めたり、悪びれもせず議会であんな証言をしたのだ。決して本心ではない……」
民主主義という多数決原理は、一つ間違えれば、少数派の迫害となり、数の暴力以外の何者でもなくなる。平和であればある程、慎重に、そして冷静に考えなければならない。
その後、男がどうなったかは誰も知らない。しかし、男と他の犯罪者を乗せた船が何処に行ったのかは知っている。それは君たちのよく知る惑星だ。美しく、青い惑星だ。
君たちの惑星は、本当に大丈夫か?彼らの欲望は収まらない。次は君たちの番かもしれない……
今回は短編ですので、これで終わりです〜