第五話「鎮火と蒸発」
こんにちは、はやぶさ7ごうです。
火と水はどちらが強いのか?
それはたいてい同量下において比較されています。
ポテンシャル差を量が上回る事は、ままあるのです。
「な……ぜ……僕の領域に侵入できる……?半径5m円で展開しているのだよ……?」
全くその通りである。ワターを中心に半径5m、それはナイトの体、腕、剣、それらを足しても迎撃を受けない領域の外から攻撃することは不可能に等しいことを意味している。だが、現実はワターの背を裂いた。
「お前のその領域は、水への接触がトリガーとなって反撃する。なら簡単な話、その水に触れず、お前の視界と動体視力の外から叩けばいい話さ。これはそのための技だ。」
ワターがふと自らの周囲を見渡すと、そこには炎の縄、線というのが適切だろうか、足の幅と同等の太さの炎が展開していた。
「〈火炎弾軌道〉、とでも名付けるか、これでお前のその領域は突破できる。観念しな!」
「ぐっ……こんな浮浪者ごときに……僕の〈水落つる〉が破られるだと……?許せないねぇ……!こんな奴に……!!」
ワターは激昂する。足元の水は緋色を交え、波立つ。
「……殺す…エドワード様は兵力にするとおっしゃったが…お前は殺す……!!」
凄まじい殺気だ。そうナイトは感じた。赤く染まった水がうねり、輪転し、竜のように禍々しい気迫を呈している。
刹那。
「〈赤洌〉」
赤い斬撃と見まがう一撃。
曰く水は超高圧で噴射することで金属をも切断するという。それを体現した屈強な一撃がワターの前方160度程に渡って繰り出された。
「なっ……!!〈炎壁・四重〉!!……………なにっ!!?」
ナイトは慌てて炎の壁で防御を試みる。しかし、無情にもワターの一撃のもとに壁は一瞬で霧散した。
もはや回避は間に合わない。一か八か、ナイトは剣を構え、炎を纏わせて斬擊を受け止める。
ガキィィィンッという鋭い音が地下室に響き渡る。ほぼ同時に、地下室の石造りの壁がスッパリと切れてゆく。
「ぐおっ!くっ、おおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
なんとか斬擊を剣で受け止めたものの、あまりの威力にナイトはどんどん後退していく。全く踏み留まれないまま、とうとうナイトは吹っ飛ばされる。
「くっ、この斬擊を受け止め耐えるとはなかなかだ。だが俺は容赦しねぇぞ!!〈紅針淘汰〉!!」
激昂するワターはナイトに体勢を立て直す暇も与えず追撃に出る。
無数の水球が回転し飛来する技、しかし先程のものとはサイズも回転数も比較にならない。
「死ね!!お前は俺より弱者だ!!」
「は?」
ワターの叫びに対しナイトは鋭く向かえる。
「どちらが上かは、今にわかるぜ。〈火炎騎士〉」
ナイトの全身を炎が纏い、ある種の鎧を型どる。その姿はさながら騎士だ。
「そんな炎、僕の水で消してやるよ!!喰らえ!!!」
赤い水球は回転しナイトの方へと飛来する。しかしナイトは臆さずワターの方へ突き走る。
ナイトは炎を纏わせた剣で迎撃していくも、いくらかその身体に受ける。
「僕の能力、水の操作と回転付与は防御を穿ち火を鎮める。お前に勝ち目は無いんだねぇ!だからくたばれよ!!」
ワターの口上通り、水はナイトの鎧を穿ち、肉を抉り、貫く。それはナイトに確実なダメージを与えていた。しかしナイトは止まらない。
「な………にっ………さっきよりも数段速い……!」
「俺は鎮火ってヤツを考えたことがねェんだ。」
ダメージを省みずナイトはワターの前方3mまで高速で突撃し、納刀しその剣に力を注ぎ込む。
「俺が知ってる火と水の戦いはなぁ」
「負けるかっ………!〈水壁〉ィ!!」
ワターは迫り来るナイトと自らの間に水の壁を出現させる。
炎の攻撃は水の壁によって防がれる、そういう目論見をもって。
だが、目論見は外れた。
「水が炎に蒸発させられるんだぜ」
ナイトの攻撃が炸裂する瞬間、その一瞬白い空気が漂ったのをワターは見た。
(水蒸………気……………?)
「〈居合い斬・爆炎〉!!」
ナイトの納刀と同時に、ワターを圧倒的な爆炎が襲った。一瞬にして水の壁、水の領域、回転する水球等々その全てが蒸発した。まるで格下の人間に敗れた者のプライドの散り様を表すかのように。
「ガハァッ!!……………ぼ……僕が……こんな奴に……僕達の望みは……………………っ……………。」
ワターは焼き斬られ、気絶する。命はあるが、しばらく起き上がることは叶わぬ傷だ。
「わかったか、俺は世界最強になる男だ、お前になんて負けてらんねえんだよ。」
ナイトは炎の鎧を解く。水の攻撃を受けすぎたためか、流血が多い。
「……痛ってェ……けど休んでられねェな……モーニンとランチが先に行っているんだよな。加勢しに行くか。」
ナイトは、地下室を後にして先へ進む。
───その数分前
ナイトを置いて先へ進むモーニンとランチは、階段をひた走り、城の4階に到達していた。
「ナイト、大丈夫か……」
「心配するなランチ、ナイトは大丈夫だ。俺達に倒せない敵はいない。そうだろう?」
「それは…そうだな。そうだ、俺達に倒せない敵はねえな!」
「へえ、俺達に倒せない敵はいない、だって?」
突然の声に、モーニンとランチは咄嗟に身構える。
「俺はアフタン。衝撃波使いのアフタンだ。ここらじゃ少しは名の知れた戦闘者だぜ。」
「お前の事はさっきの奇襲で初めて知ったぜ。なんだか知らんが、俺達はここの長を倒して出ていく。邪魔をするな。」
「ッ……………テメエら、エドワード様に用があるのか、ハッ、なら遠慮無く邪魔させてもらうぜ。そして俺の名を敗北と共に覚えておきな!〈衝撃〉」
「まずい、攻撃だ、モーニン!」
「わかっている!〈斥力壁〉!!」
モーニンの斥力とアフタンの衝撃波が衝突し、相殺する。
「ランチ!俺がここを食い止める!お前は先に行って氷のヤツをぶっ飛ばしてこい!」
「…!?モーニン、ならお前の方が先に行った方がいいじゃないか!?」
「バーカ、こういう敵は俺の方が適任なんだよ。俺もすぐそっちへ行く。ヤツとおしゃべりしてたらもう加勢できるかもな!」
モーニンは冗談めかして言う。
「ったく、わかったよ、ぶっ飛ばしとくからそっちは頼んだぜ!」
そう言って、ランチは先へ行く。
「……さて、足止めと言いつつ俺はお前をぶっ倒す気マンマンな訳だが、どうする?降参するか?」
「おいおいおい、冗談も休み休みにしろよ。俺の衝撃波と互角の能力を持つお前と俺ならともかく、アイツとエドワード様じゃ話にならねぇよ?お前こそ、降参して地下室でアイツが氷漬けでやってくるのを待ってる方が賢明だぜ?」
「へぇ?お前、ランチが負けると思ってんのか、おめでたい頭だぜ。めでたいついでに言っとく。お前の衝撃波と俺の斥力が互角じゃないことが数分後にわかる。」
「そりゃ面白い話だ。俺は数秒後にわからせるつもりだったがな!」
「こう言っちゃなんだが、俺は最初の奇襲でお前の攻撃を受けた分の恨みが募ってるんだ。存分に潰させてもらうぞ。」
「フッ…………ハァッ!!」
ここに、衝撃波と重力斥力の戦いが幕を開けた。
続きお楽しみに