第十一話「到達と出発」
あけおめです。はやぶさ7ごうです。
あいにく二鷹ではなくはやぶさです。
あいかわらず駄文です。
「私は……まだまだ弱い……」
砕けた氷の粒が煙となって視界を遮る中、エドワードが呟く。
「まだしゃべれんのか」
「ふふっ、かろうじてな。」
ランチは構えたが、煙が晴れると、エドワードは頭を垂れて呟いているだけの、敗れた人間の姿だけがあった。そこには反撃する余力も、獅子の気迫もなかった。
そこへ突然、二人の声が介入した。
「おーいランチ、無事か!?」
「酷い有り様だな……室内が傷だらけだ。」
ナイトとモーニンが、漸く到達した。
「こいつは……あの氷の奴!?」
「ランチがやったのか……?」
「ああ。なんとか勝てた、って感じだぜ。」
「くっ……私は……負けたのだな………」
エドワードが口を挟む。
「そこの二人を見るに、私の部下二人も負けたということか……」
「ああ、お前の部下も俺達が倒した。文句はあるか?」
「文句なら大有りだが……まあいい。私の計画では貴様等を私の部下に引き入れるつもりだったのだが……真逆このような通りすがりの連中に敗れるとは、とんだミスをしたようだ……」
エドワードは、半分笑いながら、三人へ語る。
そこへ、ランチが質問を投げかける。
「なあ、エドワード・G・カリキュラム。お前は既にこんな氷の城を築き、立派に一国の王としてやっている。国民を逃したっていうとこも、まあいい判断だ。で、お前はそれでいいんじゃないか?」
「な……っ!?」
「失ったものをいつまでも恨んでいるより、今あるものを守り、新たなるものを得ていく、その方が王としていいだろ。」
「………」
更にそこへモーニンが割り込む。
「俺達も父親が行方知れずになって、母親も死んだ。俺達の父親も戦闘狂で、強かった。最初こそ、父は俺達を捨てて戦いに明け暮れたと恨んだが、今はその父親の背を追って、追い越し、世界最強を目指してるんだ。」
「モーニン……。ああ、そうだ、俺達は前を向いて世界最強を目指している。俺達は世界最強になるまでの道でその戮滅の王も倒す。なあ、エドワード・G・カリキュラム、俺達にその倒したい気持ち、預けてくれないか?」
エドワードは、数秒逡巡する。
そして、口を開く。
「私の答えは既に出ている。私は自分の弱さと自分の強さを、双方見てみぬふりをし、また注視しなかった。だから私は、しっかり自らの手で、強さを得なければならない。」
「いや、エドワード、俺は……」
「違う。戮滅の王を倒すことのみが目的ではない。勿論それが無いと言えば、嘘になる。だが私は……私は、それ以上に貴様等を超えたいのだ。」
「エドワード……」
「私も、世界最強を目指す。貴様等はここで一度私を超え、この後先へ進むだろう。この瞬間から私は貴様等に置いていかれる。だから、私は貴様等にいずれ追い付く。今はこの有り様だが、期待して待っていろ!」
「…………ああ、俺達は先へ行く。俺達は本気で世界最強を目指す。お前も目指すっていうなら、俺達はいつでも相手になる。待ちはしない、先で進み続けてるぜ」
「…そういうわけだ、じゃあな、氷の王。」
「えっ、ちょ、もう行くのかよ!」
ランチは、決意に溢れたエドワードを背にする。彼の顔から落ちるその水滴を、あるいはその能力の氷が融解したのかもしれない、と敢えて的外れな解釈をして、ランチは見ないふりをして場を後にした。
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「ハァ……ハァ……意識が戻るまでだいぶかかった……」
重症のまま最上階へやって来たのは、最下層でナイトの斬撃を受け気絶していたワターだった。
「くそっ、道中にアフタンが戦った後っぽい跡が残ってたけど、当の本人はいないし……どっかいっちまったのかねぇ………………………なっ!?」
ワターが目にしたのは、血を垂らして倒れるエドワードだった。
「え、エドワード様!?」
「……案ずるな。命はある。傷は酷いがな。」
「くっ………申し訳ありません……僕がもっと強くて、奴らを止められればこんなことには……!」
己の無力さを悔いるワター。自分に力があれば、言ってしまえば"敵"の侵攻を防げた。万一の時は王の命を狩られる場面だった。その悔いが思考から剥がれない。
しかし、ワターの受けた言葉は、全くの意外な言葉だった。
「いや…。いや、ワター、私は敗れた。しかし今、これからの私の道に光明がさしているのだ。」
「………は?」
「貴様も、奴等に敗れて、悔しかっただろう。」
「ええ……っ、それは確かにそうです……。」
「負けたら、悔しいのだよ、ワター。」
「………」
「我々は、戮滅の王への復讐が叶わなかったことに憤っているのではない。もっと淵源に、戮滅の王に敗れたことが悔しいのだ。きっとそうだろう。」
「それは………っ」
「私は今、奴等に敗れて悔しい。この悔しさを乗り越えるために、私達は強くなり、一度敗れた相手を超えてみせる、それが人間が強くなる方法なのではないか?」
清々しい表情で語るエドワード。
ワターは未だ当惑しているが、その論理には納得の様子だった。
「………ふぅ、全く、誰ですかねぇあなた。急に綺麗事言うもんですから、びっくりしましたよ。」
「ハハハッ、思わぬ所から足を掬われて気づくこともあるということだ、それに人員を増やした所で、統率する私がそれらよりも強くなくてはならない。ならば私自身が強くなり敵を挫く方が早い。」
「兵力増強は無駄、と……それ、部下の前で言います?」
「貴様等は別だ。貴様等は私の見込んだ優秀な腕だ。私についてきてくれるか?」
「アフタンはいませんが……まあねぇ、答えは出てます。やるからには本気ですよ?」
「……当然だ。ありがとう。」
エドワードの氷はより強固に、より鋭く、そして、より清澄になろうとしていた。
純粋に強さを求め、人を超えようとする思いを胸に、エドワードは再び立ち上がったのだった。
「先ずは奴等三兄弟を倒す。そして戮滅の王配下が小四天王を倒す。奴等に敗れているようでは、世界最強は目指せないからな。」
「ええ。やりましょ。」
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三人は、氷の城から出、氷の街を目にする。
「氷漬けで連れてかれたから気づかなかったけど、この街全体が氷に覆われているんだな……」
「こいつは防御の意味としての氷らしい、外敵を些細な攻撃で街が崩壊しないための。俺が斥力でぶっ飛ばした敵も、ここへ落ちていったと思うと、少し痛々しいな。」
「へ~、外はこうなっていたのか。街全体が要塞のようになっている。」
「でも今や人っ子一人いない。死んだ街の状態だ。戮滅の王って奴の脅威らしいが。」
「俺達が、ぶっ倒さなきゃな。」
意気軒昂に、ナイトが決意する。
「世界最強の一角、なんだって?やるしかねえな!」
「よっしゃ行くぞ!!」
「ったく…突然やり合えるかっての……」
ランチ、ナイト、モーニンは、三人で前へと進み始める。
行く手には世界最強への道、同時に高い壁だ。辿り着けるのか?乗り越えられるのか?その先の景色が見えるというのなら、彼等に期待してみようではないか。
とはいえ、彼等の旅は始まったばかりだ。
以上で第一章、完結です。
今年もよろしくお願いします。