十二話
「どう思う?」
「わからない、でもアイツの目からして嘘を付いてるようには見えなかった」
「だよなぁ」
俺達が昨日アルルグの討伐依頼中に見付けた記憶喪失の少年ヤガミ・ユウト
戦い方は素人に近いが剣を握った時の感覚は熟練とは言えないがそれなりに振るってきた感じはある
実際ゴブリンの狩る所を見たが普通に倒していた。
その後にはもう頭を切り替え、俺達が教えた知識からもとずく疑問を聞いてきた。
「でも、嘘は付いていなくてもアイツには何かがある...だよなぁ」
「....だな」
「十中八九アイツは記憶喪失じゃない、でも何故かこの世界については殆ど知らなかった。」
「ああ、まるで他の世界の事なら知っているようだった」
「転移者....か?」
転移者。それは名前の通り異世界からやって来た者。国が無理矢理召喚したのではない、本当に力を持った戦士だ。
伝説では世界が破滅に近づく時、神が異世界から召喚する特別な人間とされる
「....だが、アイツは....あまりにも」
「そうだな、弱すぎる、弱すぎるんだ。」
「........」
「でも、アイツはアルルグを倒してきた、アイツと会った日に狩ったアルルグより大きい奴をソロで」
「.....だな」
俺がアイツと模擬戦をした時やアイツがゴブリンを狩った時見せた実力
確かに初心者冒険者が見せる動きではなかったが、アルルグを倒せるような実力ではなかった
そして今も歩き方や雰囲気を見ても倒せるとは思えない
「しかも、アイツは森の奥と言った、あり得るはずが無いのに」
「.....だな、あそこにはまず森がない」
そう...ルウガの言ったように森がないんだ。勿論林や山も無い
当たり前だが肉食獣や魔物が住み着く場所の真横に村を作るなんて誰がする?
そして...俺達は何度も初心者の研修であの廃村へ行ったが木が大量に生えてる場所なんて見たことがない
じゃあ...アイツが見て、入り、アルルグと戦った場所はどこか?だが...
「さっぱりわからん」
「.....小耳に挟んだ程度だが...」
「何か知ってるのか!?」
「ああ....聖霊だ」
「聖霊?何でいきなり、その名が出てくる」
聖霊は確かに異世界者との関係が深い
だが、何故今此処で出てくる?確かにアイツが異世界者ではないか?という疑念はあるが
憶測で考えるのは止めとこう...
「聖霊は異世界者と契約が出来る、それは知ってるだろう?」
「ああ、有名だしな」
知ってるに決まってるだろう
子供なら誰だって読んだことがある英雄譚、それに出てくる勇者は聖霊と契約して悪を倒すんだから
そして...200年前にも勇者召喚は行われ、闇聖霊と契約したんだから
「此処からが聞いた話だが、勇者が聖霊と契約をするとき何かしらの試練を与えるんだそうだ」
「試練?..ああ、そう言うことか、つまりお前が言いたいことは..」
ルウガはうなずき、俺が気付いた答えを続けた
もし、もしこれが本当ならアイツは転移者と言うことになる...もしくは...
「アイツは知らずの内に聖霊の試練を受けたのかもしれない、」
「その相手があのアルルグって事か?」
「ああ...かもしれない」
調べないとな
これは俺達の仕事だ....予想外のな....めんどくせえ
「はあ....仕事増えたな」
「だが...大事なことだ、俺達の予想通りならばどっちにしても国を揺るがす出来事になるんだから」
「分かってるよ、....こっちに向かってるそろそろ止めておこう」
俺は先程からずっと話題になっていた少年を見ながら告げた。
その少年はランクアップの件が片付いたのかこっちに向かっていて、どこか嬉しそうだった
ルウガも近付いて来てるのを気付いたのか
「そうだな」
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二人が居る席に行きリンクさんの隣に座った俺は店員に飲み物を頼んでから話を始めた
「ギルドの部屋を出て宿にしようと思ってるんですけど、良いところってあります?」
「あるっちゃあるが良いのか?まだギルドの部屋に入れるんだからギリギリまでそこにいて金を貯めるのもありだぞ、ギルドは銀行としても使えるんだから」
へえ、銀行としても使えるんだ。初耳だな
なるほど、あそこの部屋を借りてる人は大抵金を預けてるのか...だから安心して眠れると
「大丈夫ですよ、それにもう鍵を返しちゃいましたし」
「そうか、お前が良いならそれで良いんだが...良い宿だったな?」
「はい、高過ぎるのは困りますけど、銀貨3枚までなら行けます」
銀貨3枚なら333日食事代銀貨1枚を追加させるなら250日何もせず泊まることが出来るはずだ
その間にコツコツ頑張れば..まあやっていけるだろう
「銀貨三枚か...なら俺達が泊まってる宿に来るか?」
「お二人が泊まってる宿ですか?値段は?」
「250スピナだ、食事は別料金で3食合計150スピナだ、食事代が少し高いがその分結構旨い」
.....えっとスピナって銅貨1枚で1スピナだから、400スピナって事は銀貨4枚か
って事は250日の有余があるな、取り敢えずそこに泊まってみるか
「良いですね、取り敢えずそこにします」
「そうか、なら行くか」
「え...今からですか?」
「ああ、そうだが何か用事でもあるのか?」
行ってみたい場所はあるっちゃあるが今直ぐ行きたいって訳でもないんだよな....
ついでに案内でもして貰うか...あるか分からんけど
「無い...ですけど、行ってみたいなって場所はあります」
「ん?何処だ?」
「図書館です...色々調べたくて」
「無いぞ図書館なんてこの街には、聖王都....って言っても分からんか、この国の中心、首都みたいな町にはあるがこんな小さい町にはねえよ」
マジかよ....って事は今すぐには色々調べたくても調べるのは無理か...
今は情報なんかよりまず強くなることが最優先だけど...最初の町に情報源無いとか神様それはないぜ...
「そうですか...残念です」
「どこも行くとこ無いなら早く行くぞ」
「は、はい」
二人に付いて行くと。
大通りを通って中央広場を通過して真っ直ぐ進み、西ルートの大通りに入ると見た感じ一軒目の宿の所で二人は立ち止まった。
「ここですか?」
「ああ、そうだ」
『宿屋グルトン』か....振り返ってみるが西ルートではやっぱり一軒目の宿だ
立地は結構良いんだな....一番前って事はそれだけ町の中心地に近いって事だから長く此処を利用する面に置いては最適だとは思う
観光とかだとまあ...関所近くが良いんだが...ここの宿は主に冒険者とかを扱ってるんだろう
「取り敢えず入ろうぜ」「......ん」
「はい」
中に入ると作り事態は冒険者ギルドと似ていて中央に階段と受付、左側にトイレやお風呂、右側に食堂だった。
受付には結構歳を取ってるように見えるお婆さんが一人座っているだけで、店員は食堂で忙しく働いているようだった
.....第一印象だけは悪いな、何で受付にお婆さんなんだよ普通は14~17歳位の女の子だろ
確かにお婆さんが受付っていう設定よくあるけども....まあ、女の子だからって手を出すわけじゃないから良いけど...やっぱり女の子のが良いよなぁ...何か残念度が高い
「立ち止まってどうした?」
「へ?ああ...いえ、何でもないです」
「そうか、婆さん二人部屋と一人部屋空いてるか?」
「婆さんは止めろって言ってるじゃろ、ん?その坊主はどうした?客か?」
何だろうか...イメージ通りなお婆ちゃん声だ...ある意味で期待を裏切ってない
そんな事はどうでも良いか、てか客か?ってリンクさんがわざわざ二人部屋と一人部屋聞いたんだから分かるだろ...
「はい、一応そうですけど」
「そうかい、銀貨2,5枚だよ、何泊するんだい?」
何泊か....取り敢えず3泊するか?
どんな宿か分かんねえし、お試しってことで
「じゃあ、3ぱ....」
「まった、婆さんいきなり騙すのは止めようぜ?新しい客になるかも知れねえんだから」
「え?」
騙す?....さっきの会話内容で騙すような話は合ったか...ない...よな?
どういう事だ?...何か特別なルールでもあるのか?
「チッ、リンク、商売の邪魔するんじゃないよ」
「えっと...どういうことです?」
「この宿はな...変なルールがあって連続で同じ部屋を使う場合他に客が来るかも知れないって難癖つけて銀貨一枚取るんだよ連続で使った日数分な」
「ああ...なるほど、酷いですねぇ」
酷いどころじゃなく、そんなルールしててよく潰れないなって思う位ダメなルールだ
まあ...潰れていない以上文句は言えないが...殆ど立地とサービスのごり押しなんだろうなとは思う
知ってる人には通用しないルールだし
「煩いさね、んで泊まるんかい?」
「じゃあ、一人部屋1泊で」
「あいよ、銀貨2・5枚だよ、リンクは二人部屋だから4枚だよ」
ポケットに手を入れ、ボックスから銀貨2枚と大銅貨5枚を取り出して、お婆さんに支払い鍵を受け取った
鍵には203と書かれており、多分部屋の番号を示してるんだろう
リンクさんが受け取った二人部屋の鍵には306と書かれているので二人部屋は3階にあるんだろうな
「一人部屋は二階、二人部屋部屋は三階だよ、飯は目覚めの鐘から就寝の鐘がなるまでの間なら何時でも食べられるよ」
「そうですか、分かりました」
「んじゃ俺達は部屋に行くからな」「.....ん」
「はい」
そう言い二人は階段を登っていった
お婆さんに礼をしてから俺も部屋へと向かった。203号室のドア前に着き、鍵使って中に入ると....
「なんつうか....普通だな」
普通の部屋部屋の済みにベッドがありその横には机と椅子、天井にはランプがあるだけの質素な部屋だった
鍵を閉めてからベッドの所に行き、座ってみると
「おお...結構ふっかふかだ」
少なくとも俺が使ってた布団より数倍はふっかふかだ
これからこのベッドで寝るのかと思うと結構楽しみになるぐらいだ
しばらく柔らかさを楽しんでいるとどんどん目が霞んでいき、体は重くなり、頭が回らなくなっていった
下半身から伝わってくる柔らかな感触は徐々に体に溜まっていた疲労を呼び覚ましていき、回復したとはいえ全身打撲という状態になった体は意思とは関係なく休もうとして力が入らなくなっていく、結果倒れ混むようにして眠りにつくのだった