十話vsアルルグ4
「やっぱり...消えたか」
そう言い、振るった左ではなく右手の剣を逆手に持ち替えて、後ろに剣を突き刺すように振るった
じゅくり、という音と共に剣から何かが突き刺さったような感じが手に伝わった
「終わりだよ、アルルグ」
左手の剣を振るう時に使った回転力を使いながら更に踏み込み
後ろに出てきたアルルグの両腕を切断させ、噛み付こうとしていたのか開いていた口に普通の持ち方に変えた右手の剣を入れた
剣は口の中の肉を突き破り、骨を砕き、脳を抉り、また骨を砕いて、頭を貫通させた
アルルグは体をビクンッと振るわせるとそのまま倒れてきて、突き刺した右手にアルルグの体重が乗ってきた
咄嗟に剣を離し、その場から引くとアルルグはドスンと音を立てて地面に倒れた
「これで終わり...か」
左手の剣を鞘に納めてそう呟いた、今思えば呆気なかったと思う
そう...呆気なかったんだ、圧倒的にステータスの差があったのに結果は俺の勝ち
まるでアルルグは本気を出して無かったような....そんな感じがする....そして俺を試していたような気もする
だって....何故最初から二重で消えて俺を仕留めなかった?それをしてたら俺は速攻でやられてた筈だ
そんな疑問を持ちながらアルルグに突き刺さったままの剣を取りだし鞘にはめた
するとリヴがこっちにやって来て死んだアルルグを撫で始めた、そして....
「おめでとう、君は見事アルちゃんを倒し、試練を乗り越えた」
「って事はタイムは...」
「7分38秒...かな、一つ聞いて良いかな?」
「何だ?」
「何で最後、アルちゃんが二重に消える事が分かったのかな?」
「勘だよ、多分してくるな、そう思ったからそれをあたまに入れつつ剣を振るった、そしたら予想通りにしてきた、それだけだよ」
「そっか」
まあ....賭けだったけどな
二重に消えることは99%してくるとは思っていたが消えた直後にまた来ることは可能性の域を出ていなかった
まあ、結果は俺の勝ちでアルルグは負け、命を落とした
二重に消える事が99%だったのは...まあゲーム時代の勘と俺の言動だ
幻影を残して消える事が出来る奴は大抵二重にしてくる....それは予想でき、俺が転移を使うのなら100%行う行為だ
だが....それでもやってくる確率は50%だ。
99%にまで高めたのは俺がアルルグの攻撃のあとに「だが....もうその奇襲は成功させねえよ」とわざわざ口に出して言ったから
普通、こんなこと言われたらいくら格下の相手でもそれを行おうとはしない
そして....アルルグは奇襲以外ではオレを仕留める事が出来なかった
その二つの要素から次にが消えた時、アルルグは99%二重で消えると考えた
リヴはまだアルルグを撫でていた
撫でている時のリヴは何処か悲しそうで....でも嬉しそうだった
「........」
「ん?どうしたの?そんな暗い顔して...試練を乗り越え、生きることが出来るんだよ?もっと喜んだら?」
目の前で辛そうな顔をした女の子がいるのに
その原因が俺なのに喜べるかよ...
「まあ..いいか、んでずっと突っ立ってるけど帰らないの?アルちゃんの体欲しいなら、ごめんだけど渡せられないよ、」
「いや、別にいらない、」
「じゃあ、早く帰ったら?もう個々にいる必要はないし、私からの試練は終ったよ」
「......もう止めにしないか?その茶番劇」
「え?....なんのこと....」
あれ...違ったか?
でも....俺が持ってる疑問はたまたまか?
いや...あり得ない、こんな連続で俺にとっては都合が良いことが起こる訳がない
「俺はこの戦いで何個か疑問に思ったことがあるんだ」
「......疑問?」
「ああ、何故リヴ、お前は俺の前に現れた?そして試練を与えた?」
「それは...私が楽しむためで....深い意味は...」
そう来るか...だが
何故、楽しむためにやったことなのに俺が戦ってる間、笑い声が聞こえなかったんだ?
一回俺はアルルグに殴り飛ばされたんだ...その時笑っていても可笑しくはないだろう
「嘘は良いよ」
「嘘なんかじゃ...」
「じゃあ何で笑ってないんだ?、」
「....それはアルちゃんが死んだから...」
「その事を言ったんじゃない、戦闘中だよ、お前は一回も笑ってなかった」
「.........」
やっぱりか....
多分だが....この戦いはリヴが望んだことではないと思う
だから...こんなに寂しそうにしてるんだ...だけどこの結果はリヴ達が望んだ結果でもある
それはリヴが嬉しそうにしてる訳であり、アルルグがスッキリしたような死顔をしてる理由でもある
「じゃあ次の疑問だ、何故アルルグは俺をさっさと殺さなかった?何故接戦になった?」
「それは...貴方が強かったから...」
「無いな、ここまで体格差があり、ステータス差があるのに接戦であるはずがないんだ」
「でも、実際にあり得えてるし...」
「そうだな....じゃあ言い方を変えよう、何故最初から二重で消えることを最初からしなかった?それをしておけば直ぐに終わってた」
「それは....」
「何故試すような戦いかたをした?最初は消えてからの奇襲、その次はただ殴るだけの攻撃、次に攻撃から突然の奇襲、段階を踏んでるように見えるのは気のせいか?」
「.......」
これも答えないか
もうこれは確定だな...もし違うのなら全部に答えられる筈だ、だって、
「いくらアルちゃんと仲良しだからって考えてる事までは分からないよ」って言えば良いだけの話しなのだから
「.........」
「話してくれないか?、何故アルルグは俺を試すような戦いをしなければならなかった?何故死ぬ必要があった?、」
「そう....だね...ユウト君....君には話しておくべきだね」
「良いのか?」
「うん、付き合わせちゃったしね、これだけ謎解きされて答え教えないとか屑じゃん」
「そうか....じゃあ頼む」
やっと教えてくれるのか
いったいどんな理由があるんだろうか?
これだけはどんだけ考えても思い付かなかった
「アルルグの母親はさ自分の子供には会えないんだよね」
「?....それがどうかしたのか?」
子に会えない生物とか虫に一杯いるんだ、動物にいてもおかしくはないだろう
何でこんな話から始まった...んだ....ああ...そう言うことか
「アルルグは死ぬことが子供を産む方法なんだな?」
「....うん、正解、アルルグは死なないと子供を産む事が出来ない、そう言う生き物なの」
「死ぬことでアルルグは子を産むのなら何故死ななかった?生物にとって子孫を残すことは最も大事にする必要がある筈だ、だから何かの理由で死ぬんじゃないのか?」
「そうだね、君の言うとおり普通ならアルちゃんも普通のアルルグと同じように老化で死ぬはずだった。アルルグは生物界で強く出来ている変わりに寿命が短いから」
寿命が短いか....そんな事有るんだな...動物は体が大きくなるにつれて寿命が伸びていく物なのにだ...人間は抜いてな
じゃあ何故短いのか?だが...強すぎたからだろう、強すぎた個体にはそれ相応の難しい子孫の残し方になる、そしてアルルグは強すぎたために...死ぬことが条件になってしまった
そのためにアルルグのメスは寿命が少ない、そう言うことなのかな
「じゃあ、何故死ななかったんだ?」
「アルちゃんは...普通のアルルグより強かったんだよ、だから老化よりも再生能力が上回った、だから死ぬことが出来なかった」
「だから、俺に殺させようとした、もし逆に俺が死んでも聖域を荒らした罪があるから問題も出てこない、お前にとってはどっちに行っても損がない訳だ、そうだろう?」
「うん、そう言うこと」
「だけど何故俺に戦わせた?お前が殺してあげれば良かっただろう?」
「そう...だよね、私が殺してあげたらアルルグももっと早く子供を産むことが出来て、君にも迷惑は掛からなかった....でもさ....出来るわけ無いじゃん....小さい頃からずっと居たんだから」
辛そうに笑いながら涙を流すリヴを見て...俺が言った事の重大さを理解し、後悔した
そうだよな....出来るわけ無いよな....大事な動物を殺すなんて
大人でも出来ない行為を子供が出来るはずがない...それが長年一緒にいたのなら尚更だ
「ごめん....俺..気が利かなくて」
「ううん、別に良いよ...事実だから」
「なあ....今からこいつの子供が産まれるんだよな?..父親の方はどうなったんだ?」
「1年位前に老死しちゃったよ...」
「じゃあ産まれた子はどうするんだ?お前が育てるのか?」
「そうだね、私が責任を持って育てるつもり」
「そうか...ッ!?」
突然リヴが撫でていたアルルグが淡い光を放ち始めた
その光はどんどん眩しくなっていき、光の粉が舞うようになっていった
「リヴ....これは?」
「アルちゃんの子供がもうすぐ産まれる合図だよ....」
「そうか...」
時間が経つ毎に増していった眩い光はどんどん収まっていき、光の粉が一ヶ所に集まっていく
光が完全に消え、粉が集まった場所を見ると....
倒れたアルルグの体の上にアルルグの赤ちゃんらしき生き物が寝ていた
「きゅう...きゅうきゅうきゅう...きゅうんん」
「くすっ...可愛い」
そんな可愛らしい鳴き声を放つアルルグの赤ちゃんは動こうとしたのか手足をじたばたしたが、筋力が足りないせいでじたばたするだけに終った
その光景を見て微笑ましかったのかリヴは笑い、アルルグを抱き上げた
「なあ、少し疑問なんだが...」
「ん?何かな?」
「アルルグは子供をどうやって育てるんだ?」
「アルルグは特殊でね、雄がミルクを与えて育てるの」
「そうか」
メスがいないならオスが育てるしかないよな....
あ.....そう言えば何故アルルグが俺を試すような戦いをしたか聞いてなかったな...
でも...今聞くのは野暮かな...幸せそうに笑ってるんだ...雰囲気を壊すの良い選択じゃない
別に聞かなくて損がある訳じゃないんだ、言わないべきだろう
「ねえ、ユウト君」
「ん?なんだよ」
「ありがとう、あと...色々ごめんね、私の我が儘で危ない目に合わせちゃって」
それを言いながらリヴはアルルグに子供を抱きながら空中に浮かんでいく
その顔はさっきまでのような辛い顔ではなく嬉しそうで....凄く可愛かった....
身体中をボロボロにしただけの価値がある笑顔だと思う、新しい命が誕生したしな....
誰も損はしてないだろう....俺はレベル上がったんだから結果オーライだ
「別に良いさ、もう行くのか?」
「うん、この子を育てる場所を早く作らなきゃだからね」
「そうか.....頑張れよ、ちゃんとその子を育てるんだぞ」
「うん、分かってる!、あ...回復してあげるね【ヒーリングブリーズ】」
リヴが魔法?を発動させると俺にそよ風に似た心地いい風が流れてきた
その風には緑の綺麗な粒が漂っており...俺を包み込むように風は覆い、感じていた激痛がなくなっていった
傷や痣もなくなっている...
「これは?」
「風魔法の回復技だよ、まあ大した事出来ないけどね、痛みや軽い傷を無くすだけだから、それに効果がきれると痛みは戻ってくるから」
「そっか...ありがとう....?」
あれ....そもそも俺が傷ついたのってリヴのせいじゃね?
だからリヴが直すのは寧ろ当然であって感謝する必要ないんじゃ...まあいいか、どうでも良いことだ
「どういたしまして....なのかな?、それとアルちゃんはユウト君が自由にして良いよ、君が倒したから何のお詫びにもならないと思うけど...私にはあげるものがもう無いから」
「良いのか?、分かった有りがたく貰うよ、じゃあな」
「うん、バイバイ、その...また会おう」
「おう」
それを最後にリヴは現れた時と同様に突然消えた
アルルグと同じように転移系のスキルを持ってるんだろうか?
まあ...良いか、さて....このアルルグどうやって持って帰ろうかな....?
第一章はまだ続きます、