プロローグ
俺は、人は分相応に生きるべきだと思っている。
反対に分相応に生きていない人、つまり「勘違いしていらっしゃる人」を見ると、ついニヤニヤしてしまう。
例えばそう、化粧をしていない重たい一重の目をした女が、ピンクの大きなリボンで髪をツインテールにし、薄紫色のフリフリなワンピースを着て歩いているのを見ると、ついニヤニヤしてしまう。
他にも、学校で習うような基礎知識はほとんど知らないくせに、外部セミナー(笑)で聞いたカタカナ用語を意味も知らずに使っている低学歴の男のツイートを見ると、ついついニヤニヤしてしまう。
最近はネットでこのような「勘違いしていらっしゃる人たち」の画像や呟きを見つけては、ニヤニヤする日々を送っていた。
そんなことをするなんて暇な奴だなと思っただろう。
否定はできない。むしろザッツライト。
俺は今、モーレツに暇な時期に突入している。
世間ではほとんどの大学受験が終了し、クラスの半分以上の進路が決定している。
俺も第一志望の大学に運良く合格し、後は卒業式まで意味のない学校に通う退屈な日々を過ごしているのだ。
ーーーキーンコーンカーンコーン
1時間目終了のチャイムがなり、休み時間になった。
まだ受験を控えている人たちを配慮する気配はなく、教室は大いに賑わい出した。
中でも盛り上がっているのは、黒板前に群がっている、クラスの中心グループだ。
その中の男が、教台に座り、足をブラブラさせている。
女子のように前髪をピンで留めているおかげで、細くつり上がった目がはっきりと見える。
背は160センチほどしかなく、教台からぶら下がっている足は、座っていてもわかるくらい短い。
男が教室中に響き渡るように話す話の大半が「ヤバイ」で構成されており、内容はないに等しい。(内容はないようwwなんちってww)
男の取り巻きの中に、「それヤバイ」をカラオケの合いの手のようにうまいタイミングで入れてくる女がいる。
「私はクラスの男子なんて恋愛感情で見てないから。友達だから。」と聞いてもいないのにアピールしてきそうな女だ。
明るい茶色に染められた髪は胸まで伸び、緩くパーマがかかっている。
スカートは膝上まで折られており、スラリと細い足が伸びている。
目はパッチリ大きいが、残念なことに歯もまた大きい。
歯が大きすぎて口が閉まらないのか、いつも口が開いている。
正直に言って、あの女の息はものすごく臭い。
黒板前に群がる勘違いしていらっしゃる人たちの会話に耳を傾けながら、俺は分相応に、寝たふりをして休み時間を過ごしていた。
俺はいわゆるクラスの底辺だ。
世間では俺みたいな人をぼっちと呼ぶ。
俺みたいなやつは他人の会話に入ってはいけない。
この教室の空気を乱してはいけないんだ。
分相応に、寝たふりをするか本を読んで過ごさなければならない。
自分で言っていて悲しくなるが、これが日本社会の現実だ。
日本の教育に沿って育ってきたら、自然とこうなったのだ。仕方がない。
しかしこんな俺でもつい最近、信じられないような分不相応な経験をしてしまった。
それは、親の再婚相手の連れ子が昔よく遊んだ幼馴染で、急に同棲生活が始まった…なんて羨ましいことではない。
異世界に転生されて、美人の金髪エルフと共に魔王を倒す旅に出る…なんてことも残念ながら違う。
そう考えると俺の経験はまだ分相応なのかもしれない。
実を言うと、俺はこの間、スパイとして任務を果たしたのだ。
…それのどこが分相応かって?
それは、一緒に任務を遂行する相方が、黒髪のドSお姉さんでもなく、巨乳なドジっ子少女でもなかったところだ。
そう、俺の相棒は、40代後半のおっさんだった。